データ活用の理想と現実~そのギャップを埋める道筋を示す(後編)
後編:データ活用で競争力を高めるには、企業はどう変わり、何を実践すべきなのか?

活用できていない理由

ビジネスを変革するためのキーワードとして「ビッグデータ」はすっかり定着した感がある。しかし、既に多くの企業において、DWHやBIツールなどが導入され、様々なデータ活用施策が実施されているにもかかわらず、それらがビジネスに貢献していると自信を持って言える企業は少ないのが現状ではないか。では、こうした状況をもたらす背景には、ビジネス現場でのどのような事情があり、また企業には今後どういった対応が迫られているのか──。昨今のビジネスそしてテクノロジーの潮流を踏まえながら、ITR リサーチ・ディレクター/シニア・アナリストの生熊清司氏に持論を展開してもらった。 (前編はこちら)

◎データ活用が進まない理由

前回、ビッグデータがもはや企業にとってバズワードなどではなく、収益力を向上させるための資源となりつつあることを述べた。しかし、このようにビッグデータへの期待が高まりを見せている反面、それをビジネスに活かすためのデータの分析や可視化についてはまだまだ今一つの取り組み状況にあると言わざるを得ない。実際、ITRが実施した調査の結果を見ると、データの分析・可視化を行うBIツールの導入により何らかの効果を得たとする企業が半数以上いる一方で、4割強の企業はうまく使いこなせていないというのが現実である。その背景の1つとしては、多くの企業においてBIツールが定形レポーティングツールとしてしかみなされておらず、月次データのみ流し込んで前年比との分析といった使い方しかされていないことが挙げられる。

BIツールの活用状況と課題

BIツールの活用状況と課題
出典:ITR User View 2015年6月調査

 活用できていない理由

活用できていない理由
出典:ITR User View 2015年6月調査

しかし、これではExcelでできることとほとんど変わらない。BIツールの本来の力を発揮するためには、まずは自分で仮説を立てて、その仮説の審議について分析により検証していくといったアプローチが必要となるのである。これを実践するプロフェッショナルとして少し前にデータサイエンティストへの注目が注目されたが、非常に高度なスキルを持った彼らのような人材を社内で見つけることは、9割型の企業にとっては難しいに違いない。

◎データ活用のための3つのプロセス

そこで求められるのが、より誰でも簡単に使うことのできるようなBIツールを取り入れて、データの「見える化」からステップを踏んで高度なデータ活用へと結びつけていくことである。

「見える化」というのはデータ活用の最初の一歩に過ぎないが、重要な戦略であることは間違いない。まずは、何が起こったのかがすぐに、そして詳細にわかり、経営者から現場に至るすべての意思決定者が同じデータ(ファクト)をもとに判断し、一丸となって迅速にアクションを起こせるように、「見える化」を進化させることを目指すようにしたい。次に「何が起こったかがわかる」という「見える化」の段階からもう一歩先に進んで、「なぜ起こったのか」、「これから何が起こるのか」がわかり、さらには次にとるべきアクションとして有効である「何をすべきか」がわかるためには、「見える化」を超える分析が必要となる。

 

「見える化」を進化させる

出典:ITR

「見える化」を超える分析を実現するには、データから価値を取り出すためのプロセスを社内で回せるようにしなければならない。このプロセスは大きく3つのサイクルに分かれており、1つ目は、まずはビジネス目的を決めるサイクル。2つ目は、その目的達成のためにデータを活用していこうという共通意識を持ち、社内・社外から様々なデータを収集してそこから新たな示唆を得て、目的が達成できるモデルがつくれるかどうかを検証するという「モデル作成プロセス」になる。そして3つ目のサイクルは、検証したモデルを実際にリアルなビジネスへと実装し、成果を生み出していくという「モデル活用プロセス」である。モデル作成プロセスをスモール&クイックスタートで何度もまわしながら、モデル活用プロセスへの移行後、段階的な拡張を図っていくことが望ましいだろう。

「見える化」を超える分析

出典:ITR

◎データ重視の企業風土の構築を

このように、データ活用により競争力を高めることができる企業へと変わるためには、BIツールなどの「ツール環境」だけではなく、それと合わせてDWHなどの「データ環境」とデータから情報を読み取る「リテラシー」の3つが揃う必要がある。この三拍子がそろった「データ重視」の企業風土を築くには、経営層、ビジネス部門、IT部門のすべてが1つのデータを多角的にもしくは粒度を変えながら見ることを習慣化させねばならないのである。

企業のデータ分析力

企業の分析力を支える要素
出典:ITR

データ分析というのが普通の業務の中に当たり前のように取り込まれ、無意識のうちにも実践しているという域にまで社内に定着させることができれば、自ずとデータ重視の風土は構築されていくだろう。逆に、データ分析という活動がその企業にとって特別なものであるうちは、まだまだ企業の収益性を高めるデータ活用にまで至ることは不可能なのである。

ビジネスを取り巻く環境の変化はますます激しさを増している。そうした変化に応じて自社のビジネスを俊敏かつ適切に変化できるようにするには、データ分析の仕組みを業務に取り入れることはもはや必須と言っていいだろう。そして企業全体の分析力の底上げを図るには、誰でも使えるような分析ツールや、多種多様なデータが必要になり、特定の人が特定の分野でのみデータを利用するといった状況のままでは問題があることを認識して欲しい。

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株式会社アイ・ティ・アール 生熊 清司氏

情報戦の世の中では、情報を使う部分に投資をしない企業というのは、経営資源は持たないに等しく、競争には勝てない。ヒト・モノ・カネ以上に情報が大事になってくるなかで、ぜひともデータ重視の企業風土をつくりあげ、全社レベルで分析や統計の基礎体力を高めていっていただきたい。

※データ活用の理想と現実~そのギャップを埋める道筋を示す(前編)
前編:なぜ企業は「ビッグデータ」に期待するのか?

 

【プロフィール】
株式会社アイ・ティ・アール リサーチ・ディレクター/シニア・アナリスト 生熊 清司氏
外資系コンピュータベンダーを経て、カナダのソフトウェアベンダーの日本法人の立ち上げに参画。1994年より大手外資系ソフトウェアベンダーにて、RDBMS、データウェアハウス関連製品のマーケティングを担当した後、コーポ レート・マーケティング部門の責任者、アナリスト・リレーション部門の日本代表などを歴任。2006年より現職。現在は、RDBMS、NoSQL、DWH、BIなどのデータ管理と活用に関する製品分野を担当し、ITベンダーのマーケティング戦略立案や ユーザー企業の製品活用などのコンサルティングに数多く携わっている。IT専門 雑誌への寄稿、セミナーなどでの講演多数。

 

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