SAP 2027年問題がSAP 2030年問題になる前に知っておくべきこと

SAP 2027年問題がSAP 2030年問題になる前に知っておくべきこと

 2020年2月にSAP社がSAP ERPのサポート期間の2年間延長を発表したが、思わぬ落とし穴に気づきにくくもなっている。

 というのも、サポート期間の延長メリットはすべての企業が享受できるわけではないからだ。

 当然ながらSAP ERPシステムを稼働させるインフラ部分(OS、データベース、ハードウェア)のサポートも延長されるわけではない。「2025年問題」が新たに「2030年問題」としてリスクになる前に企業が知っておくべきことを解説する。



▼目次
SAP ERPユーザーを悩ますSAP S/4HANAへの移行問題
延長メリットは全ての企業が享受できるわけではない
自社の現状を把握することがSAP S/4HANA化への第一歩
20年にわたるSAP ERPビジネスの経験を持つCTC





1. SAP ERPユーザーを悩ますSAP S/4HANAへの移行問題

 既存の多くのSAP ERPユーザーにとって悩みの種となっているのがSAP ERP 6.0の保守サポート期限の終了だ。

 「2025年問題」などとも揶揄され、多くのSAPユーザーが検討を開始してから数年が経過したものの、SAP社が推奨する移行先であるSAP S/4HANAへの移行はあまり進んでいない。

 国内のSAPユーザー会「ジャパン SAPユーザーグループ(JSUG)」の2020年のユーザー調査では、移行をすでに完了させたユーザーは2割にも満たない状況だ。また、2020年2月にSAP社がサポート期間の2年間延長を発表したことや、コロナ禍を受けてシステム導入プロジェクトそのものが遅延しがちなこともSAP S/4HANA化の取り組みを消極的なものにしているようだ。

 SAP社の発表によると、メインストリームメンテナンスは2027年末まで延長され、オプションの延長保守サービスは2030年末まで提供される。余裕が生まれたことや、不透明なビジネス環境を受け、多くのSAP ERPユーザーが今後のSAP ERPシステムについてのロードマップを描けていないと推測される。
 (※出典:ジャパンSAPユーザーグループ(JSUG)『JSUG会員意識調査2020』2021年1月発行)






2. 延長メリットは全ての企業が享受できるわけではない

 しかし、こうした状況だからこそ一層の注意が必要になっている。というのも保守期間の延長はすべての企業が等しく享受できるものではないからだ。

 保守期間の延長については条件があり、具体的には、SAP ERP6.0のエンハンスメントパッケージ(EhP)のうち、6から8までの新しいバージョンを利用している企業に限られる。EhP5までのバージョンは、今回のサポート延長対象外だ。

 また、当然ながらサポート対象はSAP社の製品のみだ。SAP ERPを稼働させるためのOSやデータベース(DB)、ハードウェア、周辺系のツールなどについては、SAP ERPの延長サポートとは関係なく保守期限を迎える。

 SAP ERP導入時期によってはOSやDB、ハードウェアなどの更改時期と重なり、かなりの苦労を強いられる可能性もあるだろう。

 一般に、SAP ERPシステムの移行では、SAP ERP自体の更新作業に時間とコストがかかることから、ハードウェアを含め、その他の更新作業はどうしても優先順位が下がりやすい。それらは作業負担もSAP ERPに比べて軽いために甘く見てしまいがちだ。図1のサポート期限を見ながら、SAP ERPからインフラ全般に至るまで全体的な計画を立てておきたいところだ。


SAP 2027問題がSAP 2030年問題になる前に知っておくべきこと
図 1. SAP ERP製品や主要なインフラ製品のサポート期限
(最新のSAP PAM ⇒ https://support.sap.com/en/release-upgrade-maintenance.html)






3. 自社の現状を把握することがSAP S/4HANA化への第一歩

 SAP S/4HANAへの移行はこうした注意点を踏まえて実施すると同時に、まず大きく4つの選択肢があることを知っておきたい。其々の選択肢のメリットと課題について解説しよう。




3-1. 現行のバージョンを一気にSAP S/4HANAに移行

 1つめの選択肢は、現行バージョンから一気にSAP S/4HANAへ移行するものだ。最新のERPの恩恵に預かれることでDXに向けた環境を一気に整備できるメリットがある一方、短期プロジェクト対応となる可能性もあり、システム的なリスクやユーザー習熟に十分な時間が割けないリスクも内在する。


3-2. EhPのバージョンを6以上にアップグレードし、サポート延長を受けたうえで、SAP S/4HANAに移行

 2つめの選択肢は、EhPのバージョンを6以上にアップグレードし、サポート延長を受けたうえで、SAP S/4HANA化を進めるものだ。新機能はすぐに利用できないが、検討時間を長くとることができる。



3-3. HWやOS、MWなどの基盤を最新化してからEhPをアップグレードし、SAP S/4HANA化に移行

 3つめの選択肢は、ハードウェアやOS、ミドルウェアなどの基盤を最新化してから、EhPをアップグレードし、その後のSAP S/4HANA化を進めるもの。検討時間を長くとることができるが、段階的な移行になるため、多段のプロジェクト対応に追われることが課題となる。

 オンプレミスのSAP ERPをクラウドに移行した参考事例については、以下よりご欄いただくことができる。本事例は、最新のハードウェアで構成されるクラウドにSAP ERPを移行することで、そのパフォーマンスを10倍に飛躍的させることに成功できただけでなく、業務部門のストレス解消や残業時間の削減、働き方改革の推進要因といった付加価値を得ることができたと事例である。


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3-4. インフラを移行し、EhPをバージョンアップしたうえでSAP ERP 6.0をサポート無しで継続利用

 4つめの選択肢は、インフラを移行し、EhPをバージョンアップしたうえでSAP ERP 6.0をサポート無しで継続利用するもの。延長保守を加えて2030年まで稼働させることができるが、2030年以降は別のERPへ移行するなどの対策検討が必要となる。




SAP 2027問題がSAP 2030年問題になる前に知っておくべきこと
図 2. SAP S/4HANA移行の4種類の方法




 SAP S/4HANA化の取り組みで重要なのは、こうした選択肢のどれに該当するかを把握し、戦略的に望むことにある。

 そのためには、自社環境の現状把握が欠かせない。自社利用システムに関するバージョン情報の棚卸しや各種製品のサポート期間との突合など、さまざまな情報を整理していく。そうすることで、いつまでに何の対応が必要かを見えるようにする。現状把握がSAP S/4HANA化への第一歩となるのだ。








4. 20年にわたるSAP ERPビジネスの経験を持つCTC

 現状把握が済めば、SAP S/4HANA化のロードマップの作成や、クラウド化の検討、プラットフォームの選定など、プロジェクトを進めていくことになる。こうしたSAP ERP移行の課題を、情報の棚卸しから、戦略立案、プラットフォーム選定、システム構築・運用までトータルにサポートできるのが伊藤忠テクノソリューションズ(以下、CTC)だ。

 CTCは20年来、SAP ERPに関わるビジネスの経験があり、特にSAP S/4HANAへのコンバージョン経験やクラウド基盤への移行、SAP S/4HANAのリビジョンアップ対応など、経験豊富な人材によるサポートが可能なことが大きな強みだ。

 2018年には伊藤忠商事のSAP S/4HANA化を支援。また、SAP ERPシステムに特化したクラウド基盤サービス「CUVICmc2」を提供し、これまでに国内企業60件以上のSAP ERPのクラウド移行を支援してきた実績がある。


表 1. SAP ERP システムに特化したクラウド基盤サービス「CUVICm2」の主な事例
CUVICmc2 表紙
表をクリックすると事例一覧ウィンドウが開きます





 SAP認定コンサルタント数も業界トップクラスだ。

 SAP HANAの資格取得者は2020年で69人、SysAdmin(NetWeaver、SAP HANA DB)は26人を数え、年々増加している。

 SAP S/4HANAの取り組みを推進するために、自社の置かれている現状を分かる範囲で認識することが求められる。CTCのような真摯に寄り添ってくれるパートナーに相談し、自社の状況の整理を始めてみることをおすすめしたい。


 最後に、SAP ERP環境のクラウド移行の多くを手掛けた経験豊富なCTCのスペシャリストが、SAP ERPの次期基盤を検討するうえで役立つ勘どころを丁寧に解説した記事をご紹介する。SAP S/4HANAの基盤にクラウドを検討している方に、ご一読をおすすめしたい

  • SAP ERPの稼働する環境にクラウド基盤が求められる理由
  • SAP S/4HANAへの移行に向けた選択肢とそれぞれのメリット・デメリット
  • SAP ERPをクラウド基盤へ移行させた企業が判断の決め手となったポイント


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