PoCとは|ITプロジェクトにおける本質的な意義とメリットとは

PoCとは|ITプロジェクトにおける本質的な意義とメリットとは

 昨今のシステム開発プロジェクトで、欠かせない存在となりつつある「PoC」。

 その背景には、デジタルトランスフォーメーションの進展や、それを後押しする新技術の実用化が存在します。

 それではPoCを行うことには、具体的にどのような意味があるのでしょうか。

 ここではその本質とメリット、ITプロジェクトにおける本質的な意義について解説します。



▼ 目次
机上ではなく、実物を使ってコンセプトを検証するPoC
PoCを行うITプロジェクトが増大
新技術の導入ではPoCの実施が不可欠に
PoCでは何を確認すべきか




1. 机上ではなく、実物を使ってコンセプトを検証するPoC

 PoCとは「Proof of Concept」の略語であり、日本語では「概念実証」「コンセプト実証」と訳されるのが一般的です。またより広く「実証実験」と呼ばれることもあります。

 その役割は、本格的にプロジェクトを開始する前に、下記を検証して方針の正しさを確認することにあります。

  • 新たなアイディアや企画、構想(コンセプト)に対し、それが実現可能なのか
  • 目的とする効果や効能が得られるのか
  • 市場に受け入れられそうなのか


 ここで重要なのは、単に「机上で検討を重ねる」のではなく、検証のための「ものを作り上げ」「実際に使ってもらう」という、実験的なアプローチを行う点にあります。


PoCとは



 「PoC」という言葉は新しい言葉ではありません。下記に挙げるシーンにおいて、従来から使われている言葉です。

  • 医療業界
    • 新薬の開発は、まず基礎研究を行って新たな候補物質を見つけ出し、その有効性や安全性を動物実験で確認した後、人に対する有効性と安全性を確認する臨床試験を行います。この臨床試験の一部がPoCと呼ばれており、有効性や安全性を確認できたことを「PoCを取得した」といいます
  • 映画業界
    • 長編映画を制作する前に、同様のコンセプトの短編映画が制作されることがあります。この短編映画を関係者に見せることで、映画化権の取得や出資者へのアピール、役者の説得などを行うのです。製作者のコンセプトを短編映画として具現化することで、コンセプトが理解しやすくなり、関係者の意思決定も行いやすくなります
  • マーケティング
    • ターゲットとなる顧客層に試用品を配布し、そのフィードバックをもらうことで、技術面や使用上の問題点を明らかにしつつ、その後の販売戦略の立案などに活かすことができます



PoCとは



 それではPoCのプロセスは、具体的にどのように進められるのでしょうか。大きく3つのステップがあります。

  1. 試作、実装
  2. 検証
  3. 実現可否の判断




1-1. 第1ステップは試作、実装

 第1ステップで行うことは、コンセプトを検証するための試作や実装、つまり「ものづくり」です。ここで作られるのは、短編映画や試用品のように、コンセプトを検証するための最小限の要素を持つものであり、短期間で作り上げることが重要になります。


PoCとは




1-2. 第2ステップは検証

 第2ステップでは、それを実際に見てもらう/使ってもらうことで、関係者や被験者からのフィードバックを収集します。これによって、机上の検証ではわからなかった問題や、軌道修正のための新たな方向性などを、発見することが可能になります。


PoCとは




1-3. 第3ステップは実現可否の判断

 そして第3ステップで、そのコンセプトを実現すべきか否かを判断します。投資に対して十分な効果が得られる場合には、実用化や本格導入へのゴーサインを出し、本格的なプロジェクトをスタートします。そうでない場合には実現を断念し、PoCを終了します。

 コンセプトを調整/修正することで実現可能性が高まると判断される場合には、コンセプトの企画段階に戻り、再びPoCを実施します。コンセプトの調整を行いながら何度もPoCが繰り返されることも、決して珍しくありません。


PoCとは
図 1. PoC のステップ概要図






2. PoCを行うITプロジェクトが増大

 最近ではITシステムの開発プロジェクトにおいても、PoCが行われるケースが増えています。その背景としてはITが果たすべき役割が、大きく変化していることが挙げられます。またこの流れを、クラウドやIoT、AIといった新技術が後押ししていることも見逃せません。

 20世紀においてITが果たすべき役割は、主として業務の効率化や自動化にありました。その代表として挙げられるのが、会計システムや給与計算システム、生産管理システムなどです。このような業務効率化のためのシステムは、利用者や目的が明確であり、使うべきテクノロジーの選択肢もそれほど広くはありません。また過去に前例のあるシステムが多く、どのように開発を進めていけばいいのかも、ある程度明確になっています。企画~要件定義~設計~実装~テスト~リリースといたステップを順番に踏んでいく「ウォーターフロー型」の開発でも、それほど大きなリスクを抱える危険性はありませんでした。

 しかし最近では、ITを活用して新たなビジネス領域を開拓していこう、という動きが活発になっています。このような取り組みを「デジタルトランスフォーメーション」といい、このような目的で使われるITを「ビジネスIT」といいます。

 ビジネスITへの取り組みは、企業に新たな収益源をもたらす可能性がある一方で、技術的な問題でプロジェクトが完了しない、投資に対して十分な収益が得られない、といったリスクも存在します。ビジネスITは前例のない取り組みになることが一般的であり、数多くの不確定要素が存在するからです。また新技術を活用するケースも多く、技術的な実現可能性が明確ではないことも少なくありません。



PoCとは



 そこで重視されるようになったのが、PoCの実施です。企画(コンセプト立案)からいきなり机上での要件定義を行うのではなく、まずは最小限の機能を提供するテスト的な試作/実装を行い、それを実際のユーザーに使ってもらうことで、プロジェクトを本格的にスタートすべきか否かを判断するのです。


PoCとは

図 2. 要件定義の前にPoC を実施






3. 新技術の導入ではPoCの実施が不可欠に

 ITを活用して新規ビジネスを立ち上げる場合には、PoCの実施は不可欠だといえるでしょう。技術的な問題点やユーザーからの評価を明確化することで、成功率の低いコンセプトをフィルタリングできるからです。

 またPoCによって、ユーザーからの新たなニーズやウォンツが発見できることもあります。この場合はコンセプトを調整して再度PoCを行うことで、成功の確率を高められる可能性があります。

 成功率の高いものだけをプロジェクト化することで、投資効果を最大化しやすくなります。

 しかしPoCのメリットはこれだけにとどまりません。いったんPoCで「ものづくり」を行っておくことで、プロジェクト化後のプロセスを迅速化できる、という効果も期待できます。すでに技術的な方法論や、市場に受け入れてもらうためのアプローチが明確になっているため、要件定義や設計、実装などを、悩むことなく進められるからです。さらにコストに関しても、見通しをつけやすくなっているはずです。

 最終的にプロジェクト化を断念した場合でも、PoCが無意味になるわけではありません。断念に至るまでには、技術的な課題、ユーザーからの評価、市場性における問題などが浮き彫りになっているはずです。このような知見を蓄積していくことで、成功しやすいコンセプトを立案しやすくなります。

 また技術的な課題で断念した場合には、その技術が確立された段階でリベンジする、というアプローチも考えられます。


PoCとは



 ビジネスITだけではなく、業務効率化のために新技術を導入する場合でも、PoCは重要な役割を果たします。このようなケースとしては、社内で仮想化された基幹系システムをクラウド化する、定形業務効率化のためにRPAやAIを導入する、といった取り組みが考えられます。ここにも、新技術が本当に目的を達成できるのか、過大なコストがかからないのか、運用上の制約は生じないのか、などの不確定要素が存在します。このような不確定要素を事前に潰しておくことで、本格的な導入をスムーズに行えるようになります。

 変化の激しい時代には、変化がもたらすリスクをどのようにして最小化するかが重要になります。そしてそれを可能にするのがPoCです。PoCを事前に実施するITプロジェクトは今後、さらに一般的なものになっていくはずです。



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4. PoCでは何を確認すべきか

 様々な IT 製品やサービス、ソリューションを取り揃えている伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(以下、CTC)では、システムの導入や移行、運用に悩まれているお客様より、PoC のご相談を頻繁にお受けしています。下記に、よくお問合せいただく PoC についてご案内します。

  1. SD-WANのPoC



4-1. SD-WANのPoC

 Microsoft 365 や Web 会議などのクラウドトラフィックの増加に伴い、企業の拠点とデータセンターを繋ぐネットワーク、或いは企業とインターネットを繋ぐ回線において帯域不足や処理遅延が発生するケースが増えてきています。こういったケースへの対策として拠点とクラウド間の通信のみ限り、クラウドと拠点を直接的につなぐ(ローカルブレークアウト)技術である「SD-WAN」に注目が集まっています。

 ただし、企業のWANの構成を変更することは容易ではありませんし、SD-WANが問題に対する有効策になるのかについても、PoCを実施せずには確証を持てないはずです。

 そこで、SD-WANのPoCの進め方のポイントから確認すべき点、導入と運用のトラブルを回避するチェックポイント、必要な人材について解説します。



poc






まとめ

 ここで述べた内容をまとめると、以下のようになります。

    1. 机上ではなく、実際に「ものを作り」「使ってもらう」ことでコンセプトを検証するのがPoC
    2. IT業界でも、ITの役割が「業務効率化」から「ビジネスIT」へとシフトしたことで、PoCの重要性が高まっている
    3. ビジネスITは不確定要素が多く、PoC抜きではプロジェクト失敗のリスクが高いため、企画からいきなり要件定義に入るのではなく、その前にPoCを行うケースが増えてきた
    4. PoCを実施することで、成功率の低いコンセプトをフィルタリングでき、投資効果を最大化しやすくなる
    5. プロジェクト化を断念した場合でも、PoCで得られた知見を蓄積することで、次のコンセプトに活かせるようになる
    6. ビジネスITだけではなく、業務効率化に新技術を導入する場合でも、PoCは重要な役割を果たす
    7. 新技術導入にも不確定要素が多く、PoCによって事前に問題を明確化できる



 実施したい PoC によっては、ビジネスや既存の業務プロセスだけでなく、幅広いIT技術の知見や経験が無ければコンセプト・アイデアを出すことすら難しく、その後の実装プロジェクトや運用まで配慮すると、運用上の注意点をも理解している必要があり、自社IT部門だけではPoCの実施が困難な場合が殆どです。

 CTCでは様々な技術分野において、いち早く有効性や利用上の注意点などを検証し、得られた知見をもってお客様のPoCを支援しています。

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