3つの実例から学ぶビッグデータによる医療の進歩
ビッグデータは果たして医療を救うことができるのか?

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人体にはまだまだ未知が多い。アルツハイマー病などの難病は未だに治療方法が確立されていない。高齢化によって膨張する医療費など、医療分野には問題が山積みだ。一方で、電子カルテや検査データ等、蓄積され続ける医療データは有効活用されているとは言えず、ビッグデータ分析による進歩の余地がある。ビッグデータは果たして医療を救うことができるのか。

◎進歩の鍵はデータにあり

ビッグデータの価値として人手では処理できないほどの大量のデータの中から新しい知見を見出す点が上げられる。医療分野では大量なデータが存在するため、ビッグデータ分析への期待も大きい。これまで治療方法が見つからなかった病気に対する新薬の発見や、QoL(生活の質)を保ちながら長生きするための予防医学の発展、ひいては政府の医療費負担の軽減など、医療分野の進化は社会的な意義が大きい。これからの人類の健康はビッグデータに携わるエンジニアや研究者にかかっているといっても過言ではないのだ。

■医療の現場はデータの宝庫

ビッグデータ分析の第一歩はデータの蓄積だ。医療分野では心電図や呼吸モニターなど、データを収集する機器が既に普及しているため、ビッグデータの利活用を始めるには打ってつけの業界と言えるだろう。また、電子カルテの導入によって定性的な情報も蓄積されているため、複眼的な分析が行えるメリットもある。病院や研究施設に留まらず、一般消費者の生活の中でも、Fitbitのような健康状態を計測する機器が人気を集めているため、予防医学への応用が期待されている。

■バイオインフォマティクスの発展

人体の理解や難病に関する治療法の研究にもビッグデータは欠かせない。遺伝子研究やタンパク質の分析等においては、大量な要素の組み合わせによって構造や機能が発現してくるため、高性能のコンピュータによる分析が既に主流になっている。遺伝子の構造を分析するヒトゲノム計画は2003年に終了したが、脳の神経回路の接続状態を明らかにするヒト・コネクトーム計画は始まったばかりであり、アルツハイマー病やパーキンソン病といった脳に関連する難病に関する治療法開発の進展が期待されている。

■医療現場の生産性向上とサービス改善

医療の現場ではさらに実際的なビッグデータ分析に期待がある。ビジネス分野でコールセンターの会話内容からサービスを充実させているのと同様に、ナースコールの会話・時間・場所・理由などを分析して医療サービスの改善につなげる方法が考えられている。医師や看護師の作業効率化が患者にとってより良い暮らしをもたらしている。

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蓄積されつつある3種類の医療データ

◎医療分野に見るビッグデータ利活用の事例

ビッグデータによる医療の進歩は徐々に成果が見られるようになってきた。センサー技術、バイオインフォマティクス、医療業務改善の各分野について、事例を紹介する。

■ケンタッキー州ルイビル市:ぜんそくの原因を特定

アメリカはケンタッキー州にある地方都市ルイビルでは15%の市民が喘息を患っており、全国平均よりもやや高い数値を記録していた。そのため、大気汚染やタバコなど様々な要素に左右される喘息が、なぜ、その街に多いのかを調べるプロジェクトが提案されることとなった。500人以上の喘息患者にGPSなどのセンサーが付いた吸入器を配布し、発作が起きて吸入器を使用した際の、場所やその他の環境に関する情報を自動的に収集するようにしたのだ。結果として、学校の環境や周辺の状況により、喘息の発作が起きやすい地域の特定に成功した。ビッグデータあるいはIoT (Internet of Things) の成功例として数えられる、社会的価値の高いプロジェクトと言えるだろう。

■弘前大学:究極のテーラーメイド医療

弘前大学は、認知症と生活習慣病を主な対象に、ビッグデータを用いた疾患予防法の開発を目指している。遺伝子や腸内細菌といった生理・生化学データに加えて、食事や睡眠を含めた生活習慣データ、労働環境や学歴といった社会環境データを収集し、個人ごとに追跡調査しているのだ。そして、多種多様なデータの中から疾患リスクを割り出し、予防法を提案するのが現在の研究段階である。例えば、腸内細菌の組み合わせに生活習慣や各種健康度を加えて総合的に評価すると、健康を保つために必要な特定の細菌を増強または抑制するような食習慣の提案が可能になる。ビッグデータを活用すると、従来では考えられなかったレベルでのテーラーメイド医療が実現するというものだ。

■岐阜大学附属病院:再手術を30%削減

岐阜大学附属病院は国からの補助金が削減される状況で、医療コスト削減の必要に迫られていた。電子カルテ、手術記録、血液などの検査データを結びつけて年間4000件に及ぶ手術データを分析したところ、前の手術で予定時間を超過した患者は2倍以上の確率で再手術を受けているという傾向が明らかになった。患者の術前評価や手術計画の甘さを問題として認識し、業務改善を図ったところ、再手術の割合が30%削減し、手術に関する費用を削減できたと言う。手術を受ける患者への負担軽減はもちろん、医療コストの削減にもつながった成功例である。

◎最後に

医療分野には大量のデータが蓄積されているため、ビッグデータ利活用による医療の進歩が期待されている。検査データに体内外で取得したセンサー情報を組み合わせた分析によって新たな治療法や予防法の発見を目指す研究や、診療記録から医療サービスの改善と医療コストの削減を図る取り組みの社会的意義は大きい。

著:ビジネス on IT運営事務局、データ活用班

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