2020年デジタルビジネスへの旅 第2回 -クラウド・コンピューティングと企業IT-

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第1回では、2020年に開催される世界的イベントを題材にして、デジタル化が進むことで大きく変化する私たちのライフスタイルと、私たちを取り巻くビジネス・産業の変化について取り上げました。今回は、“クラウド・コンピューティング”の出現によって大きく変化することになった、ビジネス・産業を支える企業ITの変化について取り上げていきます。

クラウド・コンピューティング登場前の企業IT

“クラウド・コンピューティング”という言葉は、Google社CEOのエリック・シュミット氏が2006年の「検索エンジン戦略会議」の中で使ったのが最初だと言われています。この言葉が使われる以前から“コンピューティングリソースを共有して使う”というコンピューターの利用形態は、一部の産業グループの閉じた世界では存在していました。1970~80年代、大企業や先端研究機関で使われてきたメインフレーム・ホストコンピュータに始まり、銀行や流通業などの特定の業界内で共有利用できる共同センターなどは、今でも使われています。1980~90年代には、インターネット・ネットワーク利用の普及が進みコンピューターの利用者が爆発的に増えたことで、ハードウェア・ソフトウェアの低価格化と高性能化が一段と進みました。その結果、企業は自社でコンピューティングリソースを調達して構築・運用する、所謂オンプレミスなシステムで企業ITを運営してきました。

この時代の企業ITの役割は、業務効率化・省人化、という至極単純で明快なものでした。これは、当時のビジネス環境に因るものと考えられます。似たようなモノやサービスが溢れている中で、競合優位性を決定づける要因は、モノ・サービスそのものでは無く、モノ・サービスを提供するオペレーションのコストとスピードにあったと推測しています。かつてあった牛丼屋さんのキャッチコピーの“うまい・やすい・はやい”、あるいはビジネスでよく使われる“QCD(Quality Cost Delively)”、の“うまい”と“Quality”以外の部分で企業は競争を繰り広げてきました。もちろん、Eコマースやネットビジネスのように、従来存在しなかったビジネスモデルやビジネスオペレーションをITの力で実現し、短期間で急速に大きな成長を果たしたケースもありますが、多くの企業においては、従来からあるビジネスモデルのビジネスオペレーションを、“如何に早く”、“間違えずに”、“次の工程に送り出していくか”、が企業ITに課せられた命題でした。

クラウド・コンピューティング登場による期待と幻滅

img-2020-digital-business-journey-2-2日本で“クラウド”、“クラウドサービス”という言葉が目立ってきたのは2008年辺りからでした。上陸当初から“所有から利用へ”、“占有から共有へ”との言葉で利用形態の選択肢を指し示していたにもかかわらず、構築費用・保守費用の平準化や利用者間の按分によるコスト低減に視線が集まり、コストダウンソリューションとしての期待が圧倒的でした。

今さらになりますが、“クラウド・コンピューティング”を用いた“クラウド・サービス”は、大きく3つに分かれています。ソフトウェアを即座に廉価に利用するSaaS、自社または外部委託で開発するソフトウェアを動かすプラットフォームを利用するPaaS、純粋にハードウェアリソースのみを利用するIaaS、の3つの領域で、非常に多くのサービス提供事業者が乱立し、事業者からもクラウド=やすい・はやい、の宣伝を繰り広げてきました。

企業の規模や事業の年月に依らず、非常に多くの企業が“クラウド・サービス”の導入を進め、幾つかの目立った成功と、数倍以上多くの幻滅を産み出しました。そもそものIT利用が遅れていた事業体や、新会社や新規ビジネスを進める事業体では、従来に比べて低いコストでIT利用を始められることから、業務効率化・省人化の点で即時に効果をあげ、そこで生じた余力を販売強化に繋げることで劇的な成功を果たしました。img-2020-digital-business-journey-2-3一方で、すでに社内に数多くの複雑な企業ITシステムを抱える事業体では、その効果は限定的なものに留まりました。一部のITシステムをクラウド化することは、オンプレミスなシステムと混在する環境となり、システムやセキュリティの運用負荷が高くなってしまい、期待するほどのコストダウンが果たせなかったことが大きな要因と考えられます。

クラウド・コンピューティング登場によるビジネスの変化

ここで企業ITから少し離れて、先にも述べたビジネス環境に触れたいと思います。前述したように、コンピューティングリソースを共有して使うことは以前から可能でした。それが、短期間で飛躍的に拡大した背景には、「高速な無線ネットワークインフラが整備されたこと」、「ネットワークに接続できるデバイスが大量に増えたこと」、があります。これに、大量の情報・データの処理技術の進化が重なり、過去には存在しなかった新しいビジネスが数多く生まれてきています。コンピューターメーカーは、音楽配信サービスの会社になったり、車両を保有しないタクシー配車サービスの会社が日本も含めて世界展開を進めています。音楽配信サービス市場は、インターネット・携帯電話の拡がりで90年代後半から立ち上がっていましたが、圧倒的な拡大は、スマートフォンの普及とクラウドから提供される配信アプリと大量の楽曲が揃った2006年辺りからでした。タクシー配車サービスもスマートフォンとクラウドが持つ力を活用して実現された新しいビジネスといえます。img-2020-digital-business-journey-2-4これらは、クラウドをコストダウンソリューションとして活用するのではなく、新しいビジネスモデル、あるいは、新しいビジネスオペレーションを産み出すソリューションとして活用し成功している例です。“やすい・はやい”ではなく、“うまい”を追及している顕著な例だと言えます。これは、一部のITテクノロジーに特化した企業や新興企業に限った話では無く、第1回のモノづくりの変化でも取り上げたように、アメリカ:GE社やドイツ:Siemens社のような伝統的なグローバル製造業でも同様に、クラウドを活用した新しいビジネスモデルへの変革を事業戦略の柱として進めています。これからは、業務効率化・省人化の役割を担ってきた企業ITとは別の性質のITが、普通に企業に入り込んでくる時代へと遷り変わっていきます。

img-2020-digital-business-journey-2-5企業ITの役割は、コストダウンにつながる“やすい・はやい”に加えて、ビジネス変革につながる“うまい”も求められるようになってきていることに触れました。一般消費者は、既にそのほとんどが携帯電話やスマートフォンからネットを介して、デジタルな繋がりを形成しています。また、今後数年の早い時期に、あらゆるモノがネットに繋がるIOT(アイ・オー・ティー:Internet of thingsの略)の世界が現実にやって来ます。私たちのビジネスは、リアルとデジタルがさらに絡み合った次に来る日常の世界で競争していく事になります。ここでは、デジタルの活用を得意とする異業種企業からの市場参入や、海外スタートアップからの突然の市場侵食によるダイナミックな競争が繰り広げられていく事になります。

改めてクラウド・コンピューティングに期待すべきこと

このような短期間で激しい変化が起こる世界でこそ、“クラウド・コンピューティング”の威力が効果的に発揮されると考えます。“クラウドサービス”の良い処は、“すぐに使える・やすい”ことよりも、“いつでもやめられる”、つまり、“やめた後に、より適切なものに変更できる”点にあるといえます。ビジネスモデルやビジネスオペレーションの変革は、弛みのない試行錯誤の繰り返しです。唯一無二の成功を約束する方法があれば、初めから大きな取組として進めていき、必要となるITシステムも始めから最大限の大きさで用意すれば良いと思います。変化が今よりも少なかった時代は、この方法で十分に通用してきました。勿論、“やすい・はやい”を追求した時代に限ります。

2004年にGoogleのメールサービスが開始されてしばらくの間、“Googleがあれば仕事は何でも出来ちゃう!”といった論調がはびこった時期がありました。また、2006年のAmazonウェブサービスがリリースされて以降は、“すべてのITインフラがAmazonに取込まれる”ような論調も見受けられました。とは言え、すべてがそこに集約されることはありません。勿論、その時々の素晴らしいテクノロジーをうまく活用して飛躍したビジネスは確実に存在します。Amazon社は素晴らしいテクノロジーを常に産み出し、世界中の人々・企業に廉価に提供しています。然しながら、それだけに満足しないビジネスユーザーも存在しており、彼らのニーズを満たすためにAmazon社とは別にテクノロジーを開発・提供していく集団が数多く活動しています。冒頭に述べたように、“クラウド・コンピューティング”は、コンピューティングリソースを利用する際の選択肢の1つに過ぎません。リアルな世界のデジタル化が進み、短期間で激しく変化が起きるビジネス競争の中で、“うまい”を“やすく・はやく”創り出すために、新しく作り上げるビジネスモデル、ビジネスオペレーションに適した“クラウド・コンピューティング”を活用して頂きたいと考えます。

img-2020-digital-business-journey-2-6世の中には多くの“クラウドサービス”が溢れており、それを見極める目利き力も必要になります。目利き力を高めるためには多くの経験を積む必要がありますが、個人では時間も費用も限界があります。目利き力を高めていくためには、すでにサービスを利用した方や、外部のサービス提供者のへの相談や活用が近道となります。特に、ある1つのサービスだけを利用した方や提供者よりも、複数のサービスの利用経験がある方や提供者に相談することをお奨めします。ビジネスを、素早く・小さく始めて市場の反応を見た後に、必要性に応じて適切な性能やセキュリティ・コストを持つコンピューティングリソースを選択していくことをお奨めします。ビジネスonITでは、IaaS領域の情報を「クラウドインフラ」のカテゴリーから提供しています。パブリッククラウドとして著名なAmazonウェブサービス(AWS)から、企業自身が仕様を決めて構築・運用していくプライベートクラウドまで幅広く情報を提供してまいります、こちらも引き続きご愛読ください。次回は少し趣向を変えて、ハリウッド映画に見るデジタルツールの利用シーンを題材にして、デジタルビジネスへの旅を進めてまいりたいと思います。

2015年8月26日

<デジタルテクノロジーをビジネスの力に IT投資を守りから攻めへ ビジネスonIT>

ビジネスonIT 編集部
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