ITIL視点によるAWS利用の注意点

ITIL

AWSは情報システム運用に柔軟性とコスト最適化の効果をもたらすが、自由度が増しているからといって場当たり的なシステム構築を行っていないだろうか。従来のシステム運用と同様、品質向上や中長期的な運用効率について考えたい。

■AWSに注目しているとプロセスや人を忘れがち

ITIL(Information Technology Infrastructure Library、アイティル)はITサービス運用におけるデファクトスタンダードとして認識されている。ITサービスの品質向上や中長期的な視点でのコスト削減を目指し、望ましい運用手法としてベストプラクティスを解説した書籍群だ。日本でのITIL普及を目指したNPO法人itSMF Japanの創設は2003年と古く、ITILは多くの情報システム部門に馴染みがあるかもしれない。

ITILは成功事例を集めた歴史あるガイドラインであるが、比較的新しい技術であるクラウド環境でも果たして有効なのだろうか。情報システム部門がAWSを導入する場合、ITシステム運用の手法も変わってくる。まず、AWSを利用した場合、短期間でのインフラ環境構築や、柔軟な構成変更などが行われるだろう。簡単に構成変更ができるからといって、場当たり的な対応に陥っていないだろうか。技術面でコストが低減できたとしても、中長期的に生産性が低下しコストが増加してしまっては意味がない。

ITILの重要な視点として「3つのP」がある。Process(プロセス)、People(人)、Products(成果物)の3つがバランスよく管理されなければ、安定したサービス運用が行えない。AWSという便利で快適なツールを導入すると、Productsに目が向きがちになり、ProcessやPeopleがないがしろにされるケースが見受けられる。クラウド時代におけるITIL運用について、一度考えてみてもよいだろう。

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AWS利用時の「3つのP」

■AWS利用時の注意点をITIL視点で解説

2007年に書籍が出版されたITILバージョン3では、ITサービス運用のライフサイクルに合わせて、大きく5つの分野から構成されている。それぞれの分野におけるAWS利用上の注意点について解説する。
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ITILで文書化された5つの分野

  • サービスストラテジー(戦略)

ビジネス目標に応じた情報システムの役割と要件について検討し、中長期的な計画として「ロードマップ」の作成が推奨されている。従来の情報システムではデータセンターの利用を想定した閉じたシステム内での議論だったが、3年から5年でビジネス環境が激変してしまう現状では必ずしも適切ではない。クラウド利用によって変化に柔軟に対応できるようになると、戦略立案の方法も変わってくる。

AWSを利用する企業はロードマップを細分化し、必要な要件とAWSの機能が合致している点を確認する必要がある。「早いリリースサイクル」を優先するのか「高い安全性」を優先するのかによって求められる機能も変わってくる。その戦略目標を実現するためにAWSが最適かどうかが問われるため、必要に応じてAmazonに問い合わせ、議論を深めるのもよいだろう。

 

  • サービスデザイン(設計)

費用対効果の高い運用プロセスの導入・検討をサービスデザインと呼び、可用性管理・キャパシティ管理などを含んでいる。ITアーキテクチャの検討や地理的な要件を明らかにし、KPIの設定やテンプレートの作成などを行うのは、AWS利用の有無に関わらない。

AWSはシステム構築が容易であるため、場当たり的な対応に陥るリスクがある。ITILに基づいて物理サーバを効率的に管理していた企業が、AWSを導入したばかりに、部署毎・プロジェクト毎に仮想サーバを立ち上げてしまい、複雑化・非効率化してしまうケースもあるだろう。AWSを利用していても、アーキテクチャの検討は重要な課題だ。

部分最適を避けるためにKPIの設定・管理が欠かせない。クラウド環境を含めた運用状況の監視や、ユーザー視点でのサービスレベルの管理によって定量的な分析が可能になる。特に、SLA(サービス品質保証)はクラウド特有の項目であり、AWSと合意するべき契約事項である。

 

  • サービストランジション(変更)

変更管理(チェンジ・マネジメント)、リリース管理、構成管理のプロセスについて解説している。ユーザーからの要望に応じ、リスクを抑えながらITサービスに変更を加えるためのガイドである。変更を行うのは自社内だけで閉じたプロセスではなく、AWSを含めた総合的な手続きとして検討しなければならない。例えば、以下のような問いに答える必要があるだろう。

  1. 情報システム部門における変更のタイミングや標準にAWSは合致しているか。
  2. どのように変更を要求し、承認・管理し、場合によってはロールバックを行うか。
  3. 自社のリリースサイクル(月末、業界固有のサイクルなど)にAWSは対応しているか。
  4. オンプレミスからAWSに移行する際に、一括で行うか、部分的に行うか。

 

  • サービスオペレーション(運用)

問題管理やインシデント管理といった管理手法について取り扱う。ユーザーがITサービスを使用している際に発生するリスクや問題を適切に把握・報告しなければ、サービス運用を安定化させられない。前述のSLAは注視するべき重要な指標の一つだ。可用性が下がっていれば、すぐにその状況を検知し、原因を探り、対策をとらなければならない。

ITサービスの提供に問題が発生した場合、AWSとどのように連携するか、あらかじめ運用手順を明確にする必要があるだろう。構成管理が容易なAWSであれば、小さな問題に関しては手順を簡素化し、全体的な承認プロセスよりも対応のスピード感を優先するケースもあるだろう。AWS利用ならではの最適な運用手順を見つけたい。

 

  • 継続的サービス改善

ITサービスにおけるコスト及び品質の測定手法を解説し、PDCAサイクルを回した継続的な改善の手続きを推奨している。AWSを利用した際に、最も大きな影響を受けるITIL要素はこの項目だろう。インフラ設定によって価格体系は異なり、価格体系自体も変更される可能性がある。利用状況に応じて従量課金されるため、事前の見積もりが非常に難しい。

運用プロセスが整っていないと、使っていないサーバーを起動させ続けてしまうなど、無駄なコストが発生してしまう。AWS運用の成否は継続的サービス改善にかかっているため、経験あるAWS技術者を雇う、あるいは育てて、確実なコスト管理を目指すとよいだろう。

■さいごに

ITサービス運用を最適化するITILの利用においてはAWS固有の考慮事項がある。AWS Cloud Adoption Framework(CAF)というITILベースの問題管理の仕組みが発表されているので、CAFの導入を検討してもよいだろう。

 

編集:ビジネスon IT運営事務局、クラウドインフラ班

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