PoCで見えてきたVMware Cloud on AWSの全容

PoCで見えてきたVMware Cloud on AWSの全容

 「VMware Cloud on AWS」のAWS東京リージョンでのサービス提供が2018年11月より開始された。

 VMware vSphere上のシステムをAmazon Web Services(AWS)のグローバルインフラ環境上に展開でき、仮想化基盤の制限によってクラウド化を断念していたシステムを持つ企業にとっては、まさに渡りに船となる。だが、国内リリース前ということもあり、なかなか見えてこない部分もある。果たして、どんなサービスで、どんな利用方法が可能なのか。

 本記事では、システムインテグレーター、そして、クラウドサービス事業者として多くの企業のIT活用を支援している伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)のキーパーソンたちに様々な話を聞いた。



▼ 目次
1. 「VMware Cloud on AWS」がもたらす価値
2. PoCで見えてきたこれだけの特徴
3. 注目の「VMware Hybrid Cloud Extension」を徹底検証




1. 「 VMware Cloud on AWS」がもたらす価値

  1. 移行を断念していたシステムのクラウド化が可能に
  2. オンプレミス、クラウド間のマイグレーションを支援する注目機能
  3. サービス開始を見据えて早い段階からPoCなどに取り組む



CTC VMware Cluod on AWS SE




1-1. 移行を断念していたシステムのクラウド化が可能に

  • 質問. CTCでは、「VMware Cloud on AWS」がユーザー企業にもたらすインパクトをどのように捉えていますか?



川田 仮想化基盤ソフトとして高いシェアを持つVMware vSphereは、国内においても数多くの企業が活用しています。そうした企業の中には、オンプレミス環境上のシステムをAWS上へと移行したいと考えながらも、仮想化基盤が異なることから必要なアプリケーションの改修などにかかわる工数やコストが障壁となり、移行を断念しているケースも少なくありません。

 そのような企業にとって、VMware Cloud on AWSのサービス開始は、まさに朗報。これまで断念していたオンプレミス環境上のシステムをそのままAWS環境に移行する、いわゆる「リフト&シフト」が容易に行えるようになるからです。

 将来的にAWSへの移行を考えているシステムがある場合は、まずVMware Cloud on AWSにシステムを移行させて、そこを中継地点として、段階的にAWSへとシフトさせることもできます。

 また、新規にIoTやAIを利用したクラウドネイティブな新システムをAWS環境上に作る場合にも有効です。既存システムとの連携が不可欠な場合には、既存システムはそのままVMwareのアーキテクチャを利用してVMware Cloud on AWS環境へ移行させ、AWS環境上の新システムと密に連携させるといったことが可能になるからです。


神原 同じリージョン内にあるVMware Cloud on AWSとネイティブAWS間は25Gbpsで接続されており弊社の検証でも平均1ミリ秒以下と極めて高速なアクセス環境である事を確認しています。これから本格的にAWS利用を検討している、または、既にAWSで運用中の方もメリットを感じられるポイントではないでしょうか。

 VMware Cloud on AWS自体は、サービスがスタートした2017年8月以降、既に米国、欧州の4つのリージョンで提供されており、2018年8月にはアジアパシフィック(オーストラリア・シドニー)にも提供リージョンが広がりました。一般的な活用例としては、川田が話したオンプレミスからAWSへのシステム移行以外にも、一時的なリソースの拡張領域として活用するケース、あるいは災害対策(DR)用に利用しているというユーザーが多いようです。

 ただし、サービスの最小構成が相応の規模となっているため、コスト的な観点から、数百台以上の規模のVMがAWS上に必要なお客様にフィットするだろうという印象です。




1-2. オンプレミス、クラウド間のマイグレーションを支援する注目機能

  • 質問. これまでにない選択肢を企業に与えるのですね。しかも、システム移行を容易に行える仕組みが用意されていると聞きました



神原 「VMware Hybrid Cloud Extension(HCX)」が標準提供されているからです。これは、L2延伸やWAN最適化機能を備えた機能で、オンプレミス環境とVMware Cloud on AWSの双方向でvMotionによるライブマイグレーションを行うことができ、システムを自由に行き来させることができます。従来もCross vCenter vMotionを用いることが可能でしたが、求められるインフラ要件(NW帯域:250Mbps以上 vSphere Ver6.0以上)が高く利用されるケースが少ない状況でした。HCXでは、NW帯域は100Mbps以上、vSphere Ver5.1以上~と要件が大きく緩和され、一般的なインフラ環境でも利用可能になります。




1-3. サービス開始を見据えて早い段階からPoCなどに取り組む

  • 質問. CTCはVMware Cloud on AWSの東京リージョンでのサービス開始を見据えて、早くから準備を進めてきたそうですね。



川田 CTCは長年にわたり、SIerとして多様なお客様のシステム構築を支援してきました。そうしたお客様の中から、VMware Cloud on AWSを使いたいと考える企業が出てくるのは当然の流れ。それをしっかりとサポートできるように準備を進めています。

 特に、現在は様々なクラウドサービスが登場し、あえてそうしたわけではないのに、「結果的に」マルチクラウド環境になってしまったという企業は多く、そのマルチクラウド環境をどう運用していくかで困っているケースは少なくありません。今後は、そのクラウドの1つにVMware Cloud on AWSが加わることになると考えています。

 CTCは、SIerとしてのノウハウに加えて、「TechnoCUVIC(テクノキュービック)」や「CUVICmc2(キュービックエムシーツー)」といったクラウドサービスを提供するサービス事業者としての経験を生かしながら、お客様のマルチクラウド環境の構築や運用をサポートします。具体的には、監視やポータル、バックアップ、そして、サービスデスクといった共通機能を備え、あらゆるシステム環境を統合的に運用管理していけるプラットフォームを構築し、マルチクラウド環境を簡単に使いこなせる仕組みを提供していく考えです。

 こうした取り組みを進めるには、VMware Cloud on AWSを理解し、どんな仕様になっているのか、どんな使い方ができるのかを知らなければならない。既にサービスが提供されている海外リージョンを活用して、いち早くそれらを確認してきました。


  • 質問. 具体的には、どんなポイントがあるのでしょうか。



神原 例えば、AWSはサービスの可用性を高めるために、リージョンを複数のAvailability Zone(AZ)で構成。いわば多重化によって耐障害性を高められており、AWS側からもシステムはAZをまたいだクラスタ構成にすることが推奨されています。同じAZでクラスタを構成してしまい、そこが落ちたことでシステムが停止しても、それはAWSのSLAの範囲外と見なされます。

 しかし、一般的にオンプレミスのシステムは、そうしたクラウドならではの事情を考慮してはいません。そこで、VMware Cloud on AWSは、自然にAZをまたいでクラスタが組める機能が提供されています。

 これは一例ではありますが、このようなサービス仕様をあらかじめ知っているかどうかで、システムの可用性や品質、クラウド活用のスピードにも大きな差が出てくると思います。CTCは、多くの技術者がドキュメントを読み込み、VMware Cloud on AWSを実際に触りながら、こうした知見を蓄積しています。


  • 質問. PoC(概念実証)にも取り組んでいるとのことですね。



神原 はい。基本的なVMware Cloud on AWSの活用方法にかかわる確認はもちろん、特に我々が目玉の機能と考えるHCXについては、L2延伸やWAN最適化、vMotionなども含めて、様々な角度からの綿密な検証を行っています。

 HCX自体は、クラウド事業者向け、あるいは、一般企業向けの製品として「VMware NSX Hybrid Connect」として提供されていましたが、VMware Cloud on AWS版とは少し機能面に差があります。ですから、どこが違い、どんな使い方ができるのか、様々な視点から詳細な確認作業を行っています。

 加えて、実際にお客様の利用シナリオを想定しながら、多くのお客様に必要になると考えられる監視やバックアップといった機能にかかわる検証も進めています。

川田 VMworld 2017での発表以来、VMware Cloud on AWSに対するお客様の関心が日に日に高まっていることを感じています。去る2018年の8月の終わりには、私自身、VMworld 2018を視察してきましたが、同イベントで実施されたVMware Cloud on AWS関連のセッションは、おしなべて満席といった状況で、日本企業の方も数多く参加されていました。

 SIerとして、期待の高まるVMware Cloud on AWSの使いこなしを支援し、さらにはそこにCTCならではの価値を付加して、お客様のビジネスを支えるのは重要なミッションです。そのためにできる準備を確実に進めていく考えです。



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図 1. VMware Cloud on AWS のシステムイメージ


 オンプレミス側のVMware環境との間は、L2延伸によるネットワーク接続が可能で、双方向のvMotionによるライブマイグレーションも行える。また、同じリージョン内にあるAWSのネイティブ環境との連携も高速通信により行える。





2.PoCで見えてきたこれだけの特徴

  1. 既存環境との違いやAWS連携動作を中心に検証作業を実施
  2. 全容が見えてきたVMware Cloud on AWSとAWS連係動作
  3. 検証を通じて明らかになった管理面での大きな違い
  4. 東京リージョンでのサービス開始を機に検証は新たなフェーズに



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2-1. 既存環境との違いやAWS連携動作を中心に検証作業を実施

  • 質問. CTCは、現在VMware Cloud on AWSに関する様々な検証作業を進めているそうですね。



水上 はい。既に2018年7月から検証に着手し、現在も継続中です。オンプレミス環境とVMware Cloud on AWSのvSphere環境の差異やAWSとの連携動作を明らかにして、お客様がシステムをオンプレミスの仮想環境からVMware Cloud on AWSへと移行し、運用していく上で、どのような点に注意が必要かを明らかにしておくためです。

高木 体制については、VMwareおよびAWSそれぞれの技術領域で、サーバーやネットワーク、ストレージといった各カテゴリーの社内技術者を結集。部門横断的な全社プロジェクトとして臨んでいます。



  • 質問. 具体的な検証方法、内容についてお聞かせください。



水上 VMware Cloud on AWSは、その特性から、まずオンプレミス環境との連携やクラウド移行用途が中心になると考えています。そこで当社の神戸データセンターにお客様のオンプレミス環境に見立てた環境を構築。既にVMware Cloud on AWSの本番サービスが開始されているオレゴンリージョンとの間をベストエフォート型の100Mbpsのインターネット回線で接続して、検証環境を整備しました。



2-2. 全容が見えてきたVMware Cloud on AWSとAWS連係動作

  • 質問. 検証の結果、どのようなことが分かりましたか。



水上 VMware Cloud on AWSとAWSの間はVMware Cloud ENI(Elastic Network Interface)機能によって25Gbps帯域で接続されています。これによりAWSを本格利用するにあたって課題となっていたオンプレミス環境からAWS間のネットワークレイテンシや帯域の課題が解消され、VMware Cloud on AWS上の仮想マシンから直接、AWSの様々なサービスを高速通信が可能な環境で利用することができます。

 しかし、双方の環境はアーキテクチャが全く違うため、概念の違いをしっかり認識する必要があります。代表的な例としてネットワーク構成が挙げられます。AWS側はAvailability Zoneごとにネットワークサブネットを構成しなければならない仕様となっていますが、VMware Cloud on AWS側ではVMware NSX Data Centerの機能を使い、複数のAvailability Zoneをまたいだ同一サブネットが構成されます。そのため、AWS側から見たVMware Cloud on AWSとオンプレ環境から見たVMware Cloud on AWSでは少し違った形で見えてきます。


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図 2. 「VMware Cloud on AWSとAWS接続構成」の概要


 VMware Cloud on AWSとAWSでは、ネットワーク構成が異なる。PoCを通じて、CTCはこのような差を確認し、様々な知見を蓄積している。



高木 VMware Cloud on AWSは一見普通のvSphere環境のように見えますが、インフラ部分はAWSのグローバルインフラを利用しているので内部ではAmazon VPC(Virtual Private Cloud)が構成されています。そのため、VMware Cloud on AWSを初期構成する際には、AWS側で作成されているVPCサブネットと接続を行う必要があり、事前にAWSアカウント、接続するVPC、サブネットを指定する必要があります。これがないとVMware Cloud on AWSを利用することもできません。

 内部では、より双方の環境を連携させる機能が組み込まれています。例えばVMware Cloud on AWS側で新しい仮想ネットワークを作成すると自動的にAWS側のルーティングテーブルに追加した仮想ネットワークが自動挿入され、利用者が意識することなくAWS EC2インスタンスからVMware Cloud on AWSの仮想マシンに対しての通信やAWS側の機能であるApplication Load Balancerを使った負荷分散機能の連携を行うことが可能です。


 また、VMware Cloud on AWS側の仮想マシンからAmazon S3へのアクセスを行う場合、オンプレ環境のときにはインターネット経由からアクセスを行うのが当たり前ですが、VMware Cloud on AWSではVMware Cloud ENI経由でアクセスさせるようにVMware Cloud on AWS側のルーティングテーブルに所属するリージョンのS3のみがルート挿入されます。そして、戻り通信を制御するため、VMware Cloud ENIのセカンダリアドレスにSNATするような連携も組み込まれています。




2-3. 検証を通じて明らかになった管理面での大きな違い

  • 質問. そのような環境の差は、具体的にどのような違いにつながるのでしょうか。



水上
 VMware Cloud on AWSオンプレミス環境のvSphere環境とほぼ同様の感覚で利用することが可能ですが、vSphereをクラウドサービスとして利用することになるので注意が必要です。

 当たり前のことではありますが、VMware Cloud on AWSはあくまでもクラウドサービスです。そのため、クラウドサービスとしてあるべき姿を見据えた運用設計が必要だということになります。

高木 オンプレミス環境でのvSphere導入経験が長いシステムエンジニアから見ると、不自由に感じるケースもあるかもしれません。例えば特定のサーバーだけを停止したり起動したりすることができないため、障害試験を行うことができません。ほかにもVMware vCenterやNSX Data Center関連の管理系のコンポーネントの操作が限定的となります。これはクラウドサービスであるが故にVMware社の管理領域とされているのが理由です。

 これによりバックアップの考え方が変わってきます。これまでは管理系のコンポーネントも含めて1つの環境と捉えてバックアップを行うことが当たり前でしたが、VMware Cloud on AWSの場合は管理系コンポーネントはVMware社の管理領域になるため、バックアップをとる必要がありません。

高木 そのほかにも、VMware vCenter権限が制限を受けている影響がでている機能として監視機能が挙げられます。オンプレミス環境でのvSphereの監視はVMware vCenterによるアラート監視を行っている環境がほとんどだと思います。VMware Cloud on AWSではVMware vCenterでアラートを検知するところまでは問題ないのですが、そのアラートに対してのアクションをVMware vCenter権限の制限で設定することができません。そのため、障害が発生した場合に管理者がすぐにメールやSNMPで認知することが出来ないことが分かりました。これに対し、検証の中ではAWSの機能であるCloud Watchを使ったVMware Cloud on AWS側の仮想マシンを監視することで、この課題に対処することが可能であることを確認できました。

 しかし、Cloud Watch用のIAMユーザーの作成や権限付与、セキュリティ設定などを考慮しなければならないため、当社の事業会社(CTCT)で提供しているマルチプラットフォーム対応の監視サービス「MPM(マルチプラットフォームモニタリング)」をVMware Cloud on AWSに対応できるように現在準備を進めています。

水上 とはいえ、これらの監視機能の課題はすぐに収束する可能性もあります。当社の検証結果や必要な機能の改善要望は適時VMware社へ連携しています。AWSやその他パブリッククラウドでも同様ですが、クラウドサービスで提供されている機能エンハンスやバージョンアップは数カ月単位で様々な新しい機能が提供されています。VMware Cloud on AWSも同様に3カ月ごとに大きな機能追加やエンハンスが行われており、私がVMware Cloud on AWSに取り組み始めた当初から大幅に機能が追加・改善されています。VMware Cloud on AWSに対するVMware社とAWS、双方の本気度合が感じられます。




2-4. 東京リージョンでのサービス開始を機に検証は新たなフェーズに

  • 質問. 検証作業の今後の予定についてお聞かせください。



水上
 これまでの検証の中で蓄積したノウハウを基に、エンタープライズ企業が利用する際に必要となる機能やサービスを順次開発していき、お客様がVMware Cloud on AWSを安全かつスムーズに利用できる体制を構築していきます。

 現状、想定した検証は約80%が完了していますが、今後も継続して検証を続けます。特にVMware Cloud on AWS東京リージョンのサービスが開始されれば、我々の検証作業も新たなフェーズに突入していくことになります。

高木 具体的には、VMware Cloud on AWSの注目サービスである「VMware Hybrid Cloud Extension(HCX)」で、最近リリースされた数百台のVMの無停止移行を可能にするVMware Cloud Motionの検証や、実際に利用される東京リージョンを使った移行パフォーマンス検証、さらにVMware Cloud on AWSとAWSネイティブ環境との連携検証をより深く行っていく考えです。当社は2012年からAWSマネージドサービスを様々な業種・業態のお客様へご提供させていただいています。2017年には国内で8社目となるAPNプレミアコンサルティングパートナーを取得しました。AWSコンサルティングチームと共同でディスカッションを行いながら検証を進め、VMware Cloud on AWSだからこそ可能な新しい価値をご提供していきたいと考えています。





3. 注目の「VMware Hybrid Cloud Extension」を徹底検証

  1. オンプレミス環境とVMware Cloud on AWS(VMware Cloud on AWS)のシームレスな通信を実現
  2. 一般的なL2延伸の課題を容易にクリアできることを確認
  3. Tech Previewの新機能や企業の基幹システムを想定した実践的検証を実施



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3-1. オンプレミス環境とVMware Cloud on AWS(VMware Cloud on AWS)のシームレスな通信を実現

  • 質問. オンプレミス環境で運用しているVMwareシステムの円滑なクラウド化、そしてハイブリッドクラウド化への道を開くサービスとして注目を集めているVMware Cloud on AWSですが、中でも注目の技術である「VMware Hybrid Cloud Extension(HCX)」について教えてください。



水上
 VMware HCXは、オンプレミス環境とVMware Cloud on AWS のシームレスなハイブリッドクラウド環境を可能にする技術です。VMware Cloud on AWSのサービスに内包されており、ユーザーは追加の費用負担なく利用することができます。VMware HCXにより、オンプレミス環境とVMware Cloud on AWSの間で仮想マシンのマイグレーションを行えるわけですが、それを柔軟かつ迅速にしているのが「L2延伸機能」と「WAN最適化機能」です。

 まず、L2延伸機能は、その名の通りオンプレミス環境のネットワークをそのままクラウド環境へと伸ばす技術です。オンプレミス環境もVMware Cloud on AWS環境も同じネットワークセグメントとして扱えるため、マイグレーションに伴うIPアドレスの変更が不要となり、仮想マシンを稼働させたままライブマイグレーションすることが可能になります。ほかにもIPアドレスの変更に伴うシステムの設定変更やテストも不要になることから、移行時の工数を大幅に削減できます。

 もう1つのWAN最適化ですが、こちらはオンプレミス環境とVMware Cloud on AWS環境の間の通信を最大で約90%圧縮する技術です。従来、拠点をまたいでライブマイグレーションを行う際、VMwareにはCross vCenter vMotionという機能がありますが、この機能を利用するためには、拠点間のネットワーク帯域が250Mbps以上であることが条件となっていました。それに対しHCXは、重複排除などによるデータサイズの圧縮によって、拠点間ネットワークに対する負担を軽減。帯域が100Mbpsで済む仕様となっています。

 加えて、Cross vCenter vMotionではオンプレミス環境とクラウド環境、それぞれのvSphereがバージョン6.0以上で、かつ互換性を持たなければならなかったのに対して、HCXではオンプレミス環境のvSphereのバージョンは5.1以上であればよく、これらの条件の緩和によって、従来はクラウド化が難しかったシステムを容易にマイグレーションできるようになっています。



3-2. 一般的なL2延伸の課題を容易にクリアできることを確認

川村 そのほかL2延伸については、一般にMTU(Maximum Transmission Unit)のサイズが懸念ポイントとなるため、その検証も行いました。

 MTUとは、1回のデータ転送で扱えるIPデータグラムの最大値のことで、例えばインターネット通信の環境においては1500ByteがMTUサイズとなります。通常、L2延伸の技術では、標準の通信パケットに制御用のヘッダを追加するため、MTUサイズが1500Byteを超えてしまいます。そこで、例えばパケットを分割して送信したり、ヘッダの追加分を見込んで端末やサーバー側のMTUサイズを1500Byteより小さい値にしたり、もしくはWANに9000Byteといったサイズを扱えるような回線を利用したりといった工夫が必要で、これらが拠点をまたがるL2延伸実現のネックとなってきました。

 一方、HCXはこのような手間をかけずともL2延伸を行うことが可能。お客様は今使っている仮想マシンのMTUサイズやWAN回線のことを気にかける必要が一切ありません。このようなHCXの先進性を確認できたことも、我々の検証における大きな成果だと捉えています。


  • 質問. さらに移行するシステムの種類などに応じて、柔軟に移行方法を選択できるそうですね。



川村
 大きく3つのアプローチがあります。1つ目はライブマイグレーション。既に水上が述べた通り、仮想マシンを起動させたまま無停止でデータとメモリの内容を移行するというものです。ただし、HCXでは、必ず1台ずつマイグレーションしていかなければならないという仕様上の制限があり、仮に100台のVMがあれば、それを1台ずつ、順次移行していくというかたちになります。

 2つ目はバルクマイグレーション。こちらは技術的には、vSphere Replicationが利用されており、約1分程度の仮想マシンの停止は伴うものの、一定数以上の仮想マシン群を一括で移行するのに適しています。具体的には、対象となる仮想マシンを起動したまま、それらの仮想マシンのデータをまとめてレプリケーション。すべてのコピーが完了したら、オンプレミス側の仮想マシンを停止させて、レプリケーションの差分を転送。その上でクラウド側の仮想マシンを起動させるという手順となっています。

 そして3つ目がHCXに新たに追加された「VMware Cloud Motion with vSphere Replication」。これはまさに、ライブマイグレーションとバルクマイグレーションのメリットを兼備したものだといえます。最初にバルクマイグレーションの要領で複数台の仮想マシンのデータをレプリケーションし、完了後に仮想マシンのメモリ内容だけを送ってVMware vSphere vMotionを実行するという方法です。これにより、大量の仮想マシンを無停止で移行することが可能となります。



3-3. Tech Previewの新機能や企業の基幹システムを想定した実践的検証を実施

  • 質問. 2018年11月12日には、いよいよ東京リージョンにおけるVMware Cloud on AWSの提供が開始されました。東京リージョンでは、どのような検証を行っていますか。



川村
 もともとCTCは、当社の神戸データセンターをお客様のオンプレミス環境に見立て、VMware Cloud on AWSの米国オレゴンリージョンと接続し、様々な検証を行ってきたことは既に述べましたが(第2回参照)、東京リージョンのサービス開始に伴い、お客様が実際に使われる環境と近い形で検証ができるようになりました。最初に検証を進めているのが、前述でも出てきた「VMware Cloud Motion with vSphere Replication」です。こちらの機能はTech Preview版だったため、すぐに利用できるという状態ではありませんでしたが、VMware社へ利用申請を行い、やっと検証ができるようになりました。


  • 質問. 検証作業の成果についてご紹介ください。



水上
 単に画一的な検証を行うのではなく、実際にお客様の基幹システムを想定し、サイズや稼働アプリケーションなど、様々な種類の仮想マシンを用意して実際に検証を行いました。中にはSAP HANAが動作している数百ギガといったサイズのマシンなども含まれています。データの中身についても、WAN最適化機能における重複排除が効きやすいもの、逆に効きにくいものなどを用意してデータについてもバリエーションを持たせています。これら多様な仮想マシンを使って、ライブマイグレーション、バルクマイグレーション、さらにCloud Motionという3つの方法で検証を行いましたが、いずれも想定通りの正常な動作が得られることが確認できました。

 特にCloud Motionは、ライブマイグレーションとバルクマイグレーションを連動する処理であることを理解すること、そして、大規模環境を想定した100VM(実効容量:1.6TB)の一括無停止移行を初期同期から移行まで約7時間20分という短時間で神戸DCからVMware Cloud on AWS東京リージョンにリフトアンドシフトできることを確認しました。これにより、HCXを用いた3つの移行方法の使い分け、推奨ケースというのが見えてきました。

 まだ東京リージョンの検証は始まったばかりですが、オンプレミスや、AWSの連係部分を中心にディープに行っていく予定です。また、市場でも注目が集まっているAmazon RDS on VMwareについても検証を計画中です。


  • 質問. 最後に今後の展望をお聞かせください。



水上
 一連の検証を通してCTCは、VMware HCX、そしてVMware Cloud on AWSについて豊富な知見と、より実践的なノウハウを獲得できたものと考えています。これこそが我々の大きな強み。その強みを生かしながら、お客様にとって最適なVMware Cloud on AWS、VMware HCXの活用をご提案していきます。



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図 3. HCXの全体イメージ

 オンプレミス環境とVMware Cloud on AWSの間のシームレスなネットワーク環境を実現。「L2延伸」や「WAN最適化」といった機能でVMの円滑でハイパフォーマンスなマイグレーションを可能にしている。

 VMware Cloud on AWS に関する情報やセミナーについて、以下のおまとめページよりご覧いただけます。


VMware Cloud on AWS の詳細






さいごに

 オンプレミスの仮想マシンをクラウド化するための手段として、様々な企業から注目されている「VMware Cloud on AWS」。

 クラウド移行に向けて、活用を検討される方が増えていくことでしょう。

 さらに、VMware Cloud on AWSを利用する上でのシステム構成の選択肢と注意すべきポイントや、ユースケースなどの情報は下記よりご覧いただけます。こちらもぜひご参照ください。



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* 日経 xTECH Special 2018年12月25日掲載「VMware Cloud on AWS のすべて」を一部編集して掲載



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