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VMware Cloud™ on AWSの構成|選択肢と注意すべきポイントとは
2018年11月に東京リージョン、2021年10月大阪リージョンの利用が可能になり、オンプレミスの仮想マシンをクラウド化するための手段として注目されている「VMware Cloud™ on AWS」。
まずはPoC(概念実証)を行い、その可能性を見極めたいと考えている情報システム担当者も多いはずです。
そこで、VMware Cloud on AWSを使う上でのシステム構成の選択肢を解説すると共に、注意すべきポイントについて解説します。
▼ 目次
1. VMware Cloud on AWSとは
2. 課金単位とサーバスペック
3. アベイラビリティゾーンと構成概要
4. シングルAZ構成
1. VMware Cloud on AWSとは
VMware Cloud on AWSとは、アマゾン ウェブ サービス(以下、AWS)のベアメタル環境上で稼働するVMwareソフトウェアベースのクラウドサービスです。
インフラ部分はAWSのグローバルインフラを使用し、そのホスト上にVMware vSphere®を展開してリソースを提供します。
VMware Cloud on AWSではvSphereだけではなく、VMware vCenter Server®やVMware vSAN™、VMware NSX®まで含んだVMwareが提唱するSDDC(Software-Defined Data Center)を具現化した構成で提供され、インフラ領域(HW/SW)の運用がVMware、AWSの管理のもとで運用されます。
これまでオンプレミス環境で必要だったインフラHW/SWのメンテナンスやパッチの適用、バージョンアップ、数年サイクルで行われていた仮想基盤の更改や移行の様々な運用作業から解放されます。
VMware Cloud on AWSには、L2延伸機能や拠点間VMware vSphere® vMotion®を可能にするVMware HCX®も含まれているため、オンプレミスとVMware Cloud on AWSとの間で、ダウンタイムなしに仮想マシンの移動を行えます。また同一リージョンのAWSとは25GbpsのVMware Cloud ENIで接続されるため、VMware Cloud on AWSの仮想マシンとAWSインスタンスとの高速な連携も可能になります。

図 1. VMware Cloud on AWS 概要
これらの特徴を持つVMware Cloud on AWSは、これまで情報システム部門がAWS活用を進めたくても出来なかった課題に対して効果的なアプローチを可能にします。
従来オンプレミス上にあるvSphere上の仮想マシンをAWSへ移行する場合、双方のインフラアーキテクチャの相違から仮想マシンの再作成、ネットワーク環境の変更や、アプリケーションの再開発等が発生してしまうケースもあり移行期間やコストの観点から容易にクラウドシフトを行うことが出来ませんでした。
VMware Cloud on AWSを採用することにより、クラウド上でも同じアーキテクチャ、ネットワーク、アプリケーションをそのまま利用することができ、既存システムへの影響を最小限に留めながらAWSの様々な独自サービスを最も近い環境で連携することが可能です。
このような背景から、VMware Cloud on AWSの採用を検討する企業が増加しています。
それでは、本サービスを利用する場合、どのような構成を選択できるのでしょうか。また注意すべきポイントはどこにあるのでしょうか。
2. 課金単位とサーバスペック
AWSとは課金体系が異なる点に注意する必要があります。AWSではインスタンス単位の課金となりますが、VMware Cloud on AWSはホスト単位での課金となります。

図 2. VMware Cloud on AWS と AWS の違い
ホストとなるベアメタルサーバは、2種類(i3en/i4iホスト)から選択可能です。それぞれの1ホストあたりのスペックは下記のとおりです。
- i3enホスト
- プロセッサ:48コア
- メモリー:768GB RAM
- ストレージ:内蔵Disk 45TB (NVMe Flash)
- すべてのvSAN保護レベルに対応 (RAID1,5&6)
- ネットワーク:25GbpsのElastic Network Adapter(ENA)
- i4iホスト
- プロセッサ:64コア
- メモリー:1024GB RAM
- ストレージ:内蔵Disk 30TB (NVMe Flash)
- すべてのvSAN保護レベルに対応 (RAID1,5&6)
- vSAN8実装迄は実効容量20TB
- ネットワーク:最大75GbpsのElastic Network Adapter(ENA)
i3enホストは2020年10月に東京リージョンで利用が可能となった大容量ストレージが特徴のホストとなっており、1ホストあたり45TBを利用することが可能です。これまでDisk容量に偏りがあるオンプレミス仮想化基盤からの移行を検討した場合、Disk容量が起因となってホスト数が増加してしまうケースもありました。i3enホストを活用することによりこのようなケースにおいてもホスト数の増加を抑え、1ホスト当たりの仮想マシンの集約率を高めることが可能となりました。
i4iホストは2022年10月にリリースされた最新モデルのホストとなっており、i3enホストに比べるとDisk容量はやや少ないものの、CPUやメモリーは約1.5倍のリソースが向上しており、CPU/メモリー使用率に偏りがあるワークロード(VDI/DB等)利用に最適なホストです。価格はi3enの約2割安く利用することができ、PoC用として1ホスト構成(60日間)も可能となっています。
3. アベイラビリティゾーンと構成概要
AWSのリージョンは複数のアベイラビリティゾーン(AZ)で構成されています。AZは複数のデータセンターで構成され、高い耐障害性を提供しています。
AWSではシステムをAZ障害に対応するか否かで構成を変える必要があり、VMware Cloud on AWSでも同様にシングルAZ(AZ障害対応不可)、マルチAZ(AZ障害対応可)を選択できる仕様となっています。

図 3. AWS リージョンとアベイラビリティゾーン
ホスト種別に関係なくシングル/マルチAZ構成、どちらでも最小2ホストから構成可能です。
マルチAZ構成は2 or 4ホスト構成時でSLA 99.9%、6ホスト構成時で99.99%が設定されます。本構成はAZ間のホストを同数にする必要があるため、2ホスト単位での増減を行います。
また、PoC(概念実証)用途限定であれば1台のi4iホストでも構成を組むことが可能ですがSLA適用外となり60日を超えると自動的に削除されますので注意が必要です。
SDDC(Software Defined Data Center)を2つまで作成可能で、SDDC内に最大20クラスタを構成できます。クラスタは最小2ホストから最大16ホスト、1SDDC内には最大300ホストまで構成することが可能です。

図 4. VMware Cloud on AWS 構成概要
マルチAZでVMware Cloud on AWSを利用した場合には、データやワークロードを強力に保護することも可能です。
これは、2つ以上のVMware Cloud on AWS クラスタが同じ論理クラスタの一部でありながらも、物理的には「異なるAZに配置されている」という構成です。複数AZ間でNSXによる論理ネットワークを構成し、vSphere HA/DRSによるワークロード保護/動的再配置や、完全同期レプリケーションを行います。
これによってゼロデータロスの可用性を実現でき、一方のAZに全面障害が生じた場合でも、迅速な復旧が可能になります。
4. 個別システムの段階的移行も可能な2ホスト構成
VMware Cloud on AWSを本番環境で使用するには、高スペックで大規模な構成になります。そのため利用料金もそれなりにかかり、「ちょっと試してみたい」という企業にはハードルが高く感じられるかもしれません。
リリース当初は最小構成で3ホストが必要でしたが、現在は2ホストからの構成が可能となりました。
これにより従来の7割程度の価格からスモールスタートすることが可能で、これまでの共通仮想基盤の一括の移行シナリオに加えて、個別システムの段階的な移行シナリオにも対応することができ、より柔軟なクラウドシフトが可能になります。
さらに、PoC(概念実証)を行いたい企業向けに、シングルAZ/シングルホスト構成も提供されています。
これは文字通り、1台のi4iホストでVMware Cloud on AWSを試すためのものであり、60日間限定で利用可能です。なお、このシングルホスト構成から、2ホストのシングルAZへと拡張することも可能です。
この場合、利用期間の制限は解除されます。

図 5. VMware Cloud™ on AWS 構成概要
ここで注意点があります。それは「シングルAZ構成からマルチAZ構成への変更は不可能」だということです。
シングルAZ構成かマルチAZ構成かは、SDDC作成時に選択するする必要があり、その後は変更できません。
ただし、シングルAZとマルチAZを段階的に構成し、これらの間で仮想マシンを移行させることも可能です。そのため、以下のようなステップで拡張シナリオを考えることができます。
- シングルホスト構成で SDDC 1 を作成し、VMware Cloud on AWSのPoC(概念実証)を行う。
- これを 2 ホストのシングルAZ構成へと拡張し、AZ障害を考慮しなくて良いシステムを移行、本番稼働させていく。
- AZ障害を考慮する必要があるシステムが出てきた場合には、別途マルチAZ構成の SDDC 2 を作成する。ここに SDDC 1 やオンプレミスから仮想マシンを移行し、本番環境として利用する。その一方でシングルAZ環境も、DRやテスト環境用として継続して利用する。
このようなステップを踏んでいくことで、低リスクでVMware Cloud on AWSへの移行を進めていくことが可能になるはずです。
まとめ
ここで述べた内容をまとめると、以下のようになります。
- VMware Cloud on AWSは、VMware、AWSの管理のもとで運用され、システム管理者はこれまでオンプレミス環境で必要だったインフラHW/SWの運用管理作業から解放される
- 直接的なAWS移行に比べ、既存システムへの影響(OS/MW/AP、移行期間、コスト)を最小限に留めながらAWSの様々な独自サービスを最も近い環境で連携することができる
- VMware Cloud on AWSは、AWSとは課金体系が異なる。可用性に関しては、AWSと同様にシングルAZ構成、マルチAZ構成を選択できる
- シングルAZ構成の場合、最小2ホスト構成が可能となり個別システムの段階的なクラウド移行にも対応することができる。また短期間でPoC(概念実証)を行いたいのであれば、シングルホスト構成を60日間限定で使用することも可能。なおシングルホスト構成からシングルAZ構成(2ホスト)への拡張は可能だが、シングルAZ構成からマルチAZ構成への拡張はできないので、注意が必要である
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シングルホスト構成でSDDC1を作成しシングルAZ構成(2ホスト)へと拡張、AZ障害を考慮しなければならないシステムの稼働が求められた場合、別途、SDDC2をマルチAZ構成で作成し、段階的な移行を進めていくというアプローチも考えられる
この他にも、VMware Cloud on AWS の利用料金やセミナー等の情報を、以下にまとめて掲載しています。
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