
仮想化基盤クラウド|知る×学ぶ
VMware HCXによるクラウド移行|無停止移行を実現
オンプレミスにおいては、ハードウェアの老朽化対策や5年の減価償却期間、メーカー保守期間終了などにより多大なコストと時間をかけてシステム更改せざるを得ない課題を抱えています。クラウドへの移行の最大のメリットとして、これら課題からの解放が挙げられます。しかし、100サーバ以上に及ぶような大規模システムとなると、適切な移行方式が見いだせずに検討を断念するケースは枚挙にいとまがありません。従来の移行手段にはどのような課題があるのでしょうか?
本記事ではクラウド移行手段を用途別に整理し、大規模システムのクラウド移行における課題を明確にします。さらに、注目の最新の移行技術であるVMware Hybrid Cloud Extension(略称 HCX)によるクラウドへの無停止移行の検証内容を明らかにしてまいります。尚、検証資料に関しては、本記事の最下部よりダウンロードいただけます。
(記事制作協力:ヴイエムウェア株式会社)
▼ 目次
・クラウド移行手法の整理と移行ツールの限界
・まだ万能ではない従来型ハイパーバイザー機能
・大規模システムのクラウド移行に最適な注目のテクノロジー
・VMware HCXにおける機能強化ポイント
・VMware HCXの検証について
1. クラウド移行手法の整理と移行ツールの限界
物理・仮想・クラウド環境を問わず移行手段のよくある方法としては、昔ながらの「別立て&レプリケーション」があります。この方法では、移行先に待ち受け環境として別立てしたシステムにデータをレプリケーションし、そのレプリケーションを移行先のクラウドに転送して切り替えます。システムの停止時間は短くて済みますが、移行先にシステムを構築する手間が発生します。

図 1. 従来の移行方法
また、仮想環境ならではの移行には、仮想マシンのOVF(Open Virtualization Format)を使用する方法があります。移行先にシステムを構築する手間を軽減するために良く採用される手法です。仮想マシンをOVFにエクスポートし、そのOVFファイルをクラウドに転送します。そして、OVFファイルをクラウドインスタンスへ変換して起動します。この方法は、「OS+データ」を移行できるので、別システムの構築が不要ですが、エクスポート、転送、インスタンスへの変換を行うので、停止時間は長くなります。

図 2. 仮想環境ならではの移行方法
クラウドへの移行は、システムの運用規模と停止時間によって、4つの要件に分類できます。
- 数台程度で長時間の停止時間が許容できる
- 数十台規模を停止時間短く移行したい
- 大規模(100台~)を長期間かけて徐々に移行したい
- バースト(一時的な大量トラフィックの発生)対応のため、オンプレとクラウドを連携させたい
これら4要件の中で、OVFは1に該当します。2のように、数十台規模で停止時間を短くするには、OVF移行では困難です。
そこで注目されるのが、サードパーティ移行ツールです。
サードパーティ移行ツールには、Zerto、VeritasResiliencyPlatform、CloudEndureなど各種あります。これらの移行ツールは、システム全体(OS+データ)をオンラインでレプリケーション可能なので、停止時間が短くなります。また、移行の自動化で、極力手動作業を排除できます。サードパーティ移行ツールを活用すると、システム全体をオンラインでレプリケーションできるので、2の要件に対応できます。
しかし、3と4の要件を実現するのは、サードパーティ移行ツールでも困難です。

図 3. サードパーティツールによるクラウドへの移行
2. まだ万能ではない従来型ハイパーバイザー機能
では、前述の3と4の要件を実現する上で、無停止移行が可能なハイパーバイザー機能を活用する方法はどうでしょう?
Cross vCenter vMotionによるハイパーバイザーの移行機能で、どこまでできるのか検証してみました。Cross vCenter vMotionでは、無停止移行が可能です。主な手順は、移行前にハイパーバイザーのレプリケーションをクラウド側に転送し、オンプレミス側の仮想マシンを停止、もしくは、無停止のまま移行します。クラウド側では、ハイパーバイザーの機能で仮想マシンを切り替えます。しかし、この方法には制約があります。それは、要求されるネットワーク帯域とハイパーバイザーのバージョンの互換性です。
しかし、Cross vCenter vMotionには欠点があります。Cross vCenter vMotionによるハイパーバイザーの移行機能を使用するためには、オンプレミスとクラウドの間が250Mbps以上のネットワーク帯域が必要になります。また、双方のハイパーバイザーのバージョン互換性が必要です。移行のために既存環境のハイパーバイザーのバージョンアップを行うのは、現実的ではありません。そのため、Cross vCenter vMotionはまだまだ万能ではないのです。

図 4. 従来のハイパーバイザー機能によるクラウドへの移行
3. 大規模システムのクラウド移行に最適な注目のテクノロジー
Cross vCenter vMotionによる移行の課題を解決する方法として、ハイパーバイザー最新機能(VMware HCX)があります。VMware HCX(Hybrid Cloud Extension)を活用した移行方法は下記の特長より、シームレスなハイブリッドクラウドの実現に適していると言えるでしょう。
- オンプレミスとクラウドの間で無停止移行が可能
- ハイパーバイザーが異なるバージョン同志であっても問題ない
- ネットワーク帯域が100Mbpsでも対応可能

図 5. VMware HCX によるクラウドへの移行
4. VMware HCXにおける機能強化ポイント
VMware HCXは、従来のハイパーバイザーから、ネットワーク機能と移行機能の2点が強化されています。
4-1. ネットワーク機能の強化ポイント
4-1-1. ネットワーク延伸
ネットワーク延伸技術を利用すると、対向となるデータセンターがお客様の環境のように扱えます。IP変更無しで無停止移行ができ、「再設計」「移行後のテスト」が不要になります。もしも、移行対象のシステム間の通信を全て把握していなくても、そのまま移行できます。また、オンプレミス環境がリソース不足の場合はネットワーク延伸で接続されたクラウド基盤(IaaS)で充足することが可能となり、クラウドならではの従量課金や柔軟なリソースの追加/削除の恩恵を受けることが可能です。
4-1-2. WAN最適化
WAN最適化のおかげで、ネットワーク帯域が100Mbpsまで緩和されます。オンプレミスとクラウド間の帯域を気にせず、無停止移行が可能です。検証においては念のために、経路の別の地点でも計測しましたが、約90%の削減を確認することができました。
4-1-3. 近接ルーティング
最適なルートをHCXが自動で選択してくれます。それにより、ネットワーク遅延が解消し、高速なネットワーク通信が可能になります。例えば、近接ルーティングがOFFの場合には、ゲートウェイがオンプレのみのため遠回りして、ネットワーク遅延が20ミリ秒も発生していたとします。そこで、近接ルーティングがONになると、クラウド内のゲートウェイが作成/選択され、ネットワーク遅延は1ミリ秒と低遅延になります。
4-2. 移行機能の強化ポイント
4-2-1. ハイパーバイザーのバージョンによる互換性問題の解消
異なるバージョンのハイパーバイザー(vSphere)と異なるモデルのCPUのサイト間の無停止移行をサポートします。例えば、オンプレミスがvSphere 5.xで、クラウド側がvSphere 6.5であっても、無停止移行が可能です。CPUに関しても、新旧混在が可能です。
4-2-2. 無停止移行・バルクマイグレーション・災害時復旧(DR)
無停止で移行したい場合には、起動したままデータをレプリケーションして、インベントリもデータも残さずに、起動したまま移行できます。また、数十台を一度に移行したい場合に、バルクマイグレーションでは、起動したままデータをレプリケーションし、オンプレミスのVMはリネームされてインベントリに残った状態で停止します。そして、レプリケーションの差分がクラウドに転送され、クラウド側でVMが起動します。その停止時間は約1分間です。
5. VMware HCXの検証について
ここまで紹介したVMware HCXの特徴を神戸に設置されたデータセンターと横浜に設置されたデータセンターを活用して、オンプレミスとクラウドを想定した検証環境を構築し、VMware HCXによる移行を検証しました。検証項目は、次のとおりです。
- セットアップ セットアップ
- サイト間のペアリング設定
- ネットワーク ネットワーク延伸
- WAN最適化
- 近接ルーティング
- 移行 無停止移行
- バルクマイグレーション
- DRリハーサル/切り替え・切り戻し
- 管理 アップグレード
- ログ収集

図 6. 検証環境概略図
検証結果を簡単にまとめた資料については、下記よりダウンロードできます。この資料では移行に掛かった所要時間やWAN最適化の削減効果などを知ることができます。