SAP S/4HANAへの移行方式の判断ポイント|リビルドかコンバージョンか?

 SAP ERPの保守切れとなる2027年に向けて、多くの企業がSAP S/4HAHAの移行(マイグレーション)を検討しています。

 SAP S/4HANAへのマイグレーションは、下記の2通りのアプローチがあり、計画を進める過程でどちらかの方式を決定する必要があります。

  • リビルド(作り直し)
  • コンバージョン(変換)


 本記事では、三菱電機インフォメーションシステムズ(以下、MDIS)のSAP ERPエキスパート、森田岳史氏による、リビルドとコンバージョンの2つの方式の判断ポイントや実現方法について解説いただいたセミナーの内容をレポートします。


協力:ヴイエムウェア株式会社

▼ 目次
1. 2025年の崖を飛び越えてDXを実現するには
2. マイグレーション方式の判断ポイント
3. 全体最適のために標準機能を採用した基幹システムを導入
4. コンバージョンによるマイグレーション






1. 2025年の崖を飛び越えてDXを実現するには

 20年前にSAPを三菱電機グループに導入した実績からSAP導入事業を他社にも提供するようになったMDISは、特に製造業に強く、テンプレートの「MELEBUS(メリーバス)」などもSAP S/4HANAに対応させています。

 森田氏は最初に、経済産業省がデジタルトランスフォーメーション(DX)を実現していく上での現状の課題と対応策をまとめたDXレポートで登場したキーワード「2025年の崖」について説明します。

 2025年の崖とは、レガシーシステムの複雑化、肥大化、属人化などによって、戦略的に新たなデジタル技術の活用ができないことを指し、それによって競合他社との差が2025年に急激に広がることを示しています。

 2025年の崖を避け、DXを実現するためには下記のステップが必要だと同氏は説明します。

  • ステップ 1. 複雑なレガシーシステムを刷新し、新たなレガシーを生まないように基幹システムの標準化と業務改革を行う
  • ステップ 2. 新たなデジタル技術を導入することにより、迅速なビジネスモデル改革を実現



 たとえばBI(ビジネスインテリジェンス)を導入する場合、事業部ごとに情報が断片化していたり、粒度が異なっていたりすると、経営に寄与する分析が困難になります。そこで、ステップ 1 として標準化された基幹システムで情報の粒度を揃えてデータを統合し、ステップ2でDXを実現していく必要があります。


 SAPユーザー企業の多くでは、今後SAPシステムのリビルドが増えると予想されています。

 基幹システムとしてSAPを導入済みでも、本来の目的であった業務の標準化や改革が行われていないケースが多く見受けられます。

 そこでSAP ERPの保守に向けて計画的なSAP S/4HANAマイグレーションを行うにあたり、ERPをリビルドしてDXにつなげていくことが重要です。

 森田氏はあらためて、DX実現への近道はERPの標準導入にあると強調します。

 自社独自のやり方にこだわってアドオンを作ることなく、ERPの標準機能に自社の業務を合わせることによって業務改革を行ってはじめて、DX実現に踏み出すことが可能となります。



SAP S/4HANA リビルドかマイグレーションか







2. マイグレーション方式の判断ポイント

 SAP ERPからSAP S/4HANAへのマイグレーションを実施する方式には、2 つあります。

  • リビルド : 現行のERPを見直して新たにSAPシステムを導入し直す
  • コンバージョン : 現行のERPを活かしながらSAP S/4HANAへの変換を実施する


 どちらを選択するかは、はじめにアセスメントや計画立案を実施し、自社の事業やシステム環境を考慮しておく必要があります。



2-1. どのマイグレーション方針を選ぶか?

 ここで森田氏は、いずれのマイグレーション方式を選ぶかの判断ポイントについて解説しました。

 図 1に示すとおり、コンバージョン方式のほうがプロジェクトを進めやすく、コストやリスクを低く抑えることができますが、既存システムが抱える属人化や複雑化といった課題は、新システムにも持ち越されることになります。そのため、DXに向けて現行のERPや業務の課題を解決するためにはリビルド方式のほうが優位となります。

 また、事業のあり方が変わってきている場合は、それに合わせてシステムを構築するきっかけとして、リビルドの方が有効といえます。

 これらの指標を踏まえて、自社にいずれの方法が適しているかを判断する必要があります。




SAP S/4HANA リビルドかマイグレーションか

図 1. マイグレーション方式の判断ポイント




2-2. リビルド方式でSAP S/4HANAを標準導入することによって生じる付加価値とは? 

 続いて森田氏は、リビルド方式でSAP S/4HANAを標準導入することによって、どのような付加価値が生まれるかを、3 つの事例をもとに説明しました。


事例 1. 

 1つめのメーカーでは、標準導入によってリアルタイム会計による日次決算が可能となり、経営上の問題点を早期に発見してリアルタイムに対策を講じることができるようになりました。SAP S/4HANAに常に最新の情報を入力し、さらにインメモリーデータベースの高速計算によりMRP(資材所要量計画)をリアルタイムで実行することで、正しい所要量情報に基づく資材調達、生産管理が実現しました。ポイントは、システム外に非連携のデータを作ることなく、必要な情報をすべて標準化された統合基幹システムに入れておくことで、リアルタイムな分析(未来シュミレーション)が可能になることです。


 事例 2. 

 もう1つは垂直統合が可能となったメーカーの例で、標準化された基幹システムと製造現場のデータが連携することで付加価値が生まれています。製造現場だけの効率化には限度があるため、ERP(統合基幹業務システム)とMES(製造実行システム)を連携させることで製造現場のロスを顕在化してコストダウンを実現したり、リードタイムの精度向上によって在庫を削減することにもつながっています。SAP S/4HANAを標準導入することによって、情報を統合してデータの粒度を揃え、業務を標準化することでDXを実現でき、生産や調達などの予測をつけて、早めに気づいて早めに手を打つことができるようになるのです。




SAP S/4HANA リビルドかマイグレーションか

図 2. 生産性と売上の向上を両立させる仕組みの確立




事例 3.

 さらに森田氏は3つめの事例として、垂直統合を実現することで競合他社との競争に勝利したケースも紹介しました。稼働率を上げてコストダウンするために汎用品を大量ロットで生産していた工場では在庫が多いという課題を抱えていましたが、垂直統合によって多様化する顧客の嗜好に合わせた多品種少量生産を実現し、稼働率や在庫を可視化してニーズに合わせたコントロールを行うことで売り上げも向上しています。






3. 全体最適のために標準機能を採用した基幹システムを導入

 IoTやAIなどの新たなデジタル技術を利用するには、レガシーの複雑化、個別最適化されたシステムでは連携が困難という状況に陥ります。そのため、グループ会社も含めた全体最適を想定し、ERP標準業務を採用した基幹系システムを導入してDXを実現する必要があります。

 しかし、標準機能だけで業務システムを構築していくためには、多数の機能の中から自社に業務に最適なものを選択して組み合わせ、システムフローを作り上げていかなければなりません。

 MDISが提供する「MELEBUS」は、一般的な製造業に必要なあらゆるシステムフローが用意されており、実際の業務とテンプレートの業務のギャップを比較して標準導入することが可能です。

 基幹業務シナリオを網羅しており、多種多様な生産方式が用意されているため、テンプレートをもとに自社の業務を見直して業務改革を推進することもでき、ERP導入におけるQCD(品質、コスト、納期)のすべてで効果を発揮することが可能です。

 また、MELEBUSは、2019年3月からクラウドサービスとしても提供されるようになり、SAP S/4HANAを体験するためのPoC環境として利用できる(お客様環境からアクセス可能)ため、機能や業務シナリオの理解を深めるためにも役立ちます。




SAP S/4HANA リビルドかマイグレーションか

図 3. SAP導入テンプレート「MELEBUS」





 MDISでは、SAP S/4HANA導入支援サービスをアセスメントのフェーズから提供し、システムや業務の状況を把握して、リビルドとコンバージョンのどちらの方式が最適かをアドバイスしていきます。また、SAP S/4HANA導入後は、垂直統合やDXをどのように実現するかについても支援することが可能です。






4. コンバージョンによるマイグレーション

 リビルドによる標準導入だけでなく、MDISではコンバージョンによるSAP S/4HANAマイグレーションも行っています。コンバージョンを行う場合は、現行のSAPシステムの文字コードをUnicode対応させておく必要があります。

 コンバージョン方式は、下記の 2 つの方式があります。

  • 分割方式 : Unicode対応を行ってからSAP S/4HANAに移行する方式
  • 一括方式 : Unicode対応とSAP S/4HANA移行を同時に行う方式

 
 分割方式では、技術的リスクが分散し、1回あたりのダウンタイムを短くできますが、システム切り替えやユーザー教育、テストなどを2回行う必要があり、プロジェクト期間は一括方式よりも長くなります。

 一括方式は、システム切り替えやユーザー教育、テストなどが1回で済む一方、ダウンタイムが長いというデメリットがあります。



SAP S/4HANA リビルドかマイグレーションか







さいごに

 MDISは、業務領域、IT領域、構築プロジェクト管理、保守やアフターケアまでワンストップでサポートし、非機能領域やインフラに対してもトータルでご提案できます。

 最初の段階でしっかりとしたアセスメントを行って最適なマイグレーション方式を提案し、社内稟議作成支援やロードマップ策定支援も提供します。また製造業への導入実績が豊富であり、MESやBI、CAD、CRMといったSAPに関連するシステムとの連携や垂直統合も行うことができ、製造業のシステムをトータルにご提案できます。



 製造業務向けSAP ERPテンプレート「MELBUS(メリーバス)」について詳細については、下記よりご覧いただけます。

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