SAP ERPシステム基盤のクラウド化に向けた取り組み

SAP ERPシステム基盤のクラウド化に向けた取り組み

 伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(以下、CTC)は、20年以上にわたりSAPビジネスに取り組み、顧客企業の用途に合わせた開発や運用、保守までを幅広く対応してきた。

 また、2016年からはSAP ERPシステム基盤に特化したCUVICmc2の提供開始している。

 これらSAPビジネスのなかで、SAP BASIS領域にも力を入れ、SAP認定コンサルタント数は増加を続け、SAP HANAにおいては取得社数で1位(2020年6月末時点)を獲得している。


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図 1. CTCグループにおけるSAP認定コンサルタント数
(2019, 2020年ともに 6月末時点での比較)


 本記事では、SAP ERP環境のクラウド移行に関して経験豊富なスペシャリストが「SAP ERPシステム基盤で今考えるべきこと」として、SAP ERPの稼働する環境にクラウド基盤が求められる理由、SAP S/4HANAへの移行に向けた選択肢とそれぞれのメリット・デメリット、SAP ERPをクラウド基盤へ移行させた企業が判断の決め手となったポイントなど、SAP ERPの次期基盤を検討するために役立つ勘どころを解説する。なお、解説動画については以下よりご覧いただくことができる。 



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▼目次
SAP ERPシステム基盤のクラウド化、その課題と解決策
クラウド化を加速するSAP ERPシステム基盤のポイント
CUVICmc2の4大特長
導入事例






1. SAP ERPシステム基盤のクラウド化、その課題と解決策

 SAP ERPシステム基盤における検討事項について、伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 サービスインテグレーション部 部長 不破 治信は、「オンプレか、クラウドか、そもそも何を考えて選択すればよいか、迷っているお客様も多い」と指摘する。

 例えば、新規のSAP ERPシステム基盤を導入するには、インフラにどこまで投資するべきか、オンプレとクラウドで性能差はあるのか、基幹データのセキュリティ対策はどうするべきか、導入したインフラを維持管理する人的リソースは確保できるのか、といった悩みがある。

 また、既存のSAP ERPシステム基盤を更改するにも、単なるEOSL対応ではなく付加価値を検討するべきなのか、運用レベルは向上しつつ運用コストを削減できないのか、本当にクラウドに移行できるのか、既存SAP ERPシステム基盤での様々な対応が必要になるのか、といった悩みがある。


 こうした課題がある中でも、不破は「新規の導入であれば、比較的クラウドを採用しやすい」と話す。

 しかし、既存のSAP ERPシステムを運用している顧客企業の場合には、SAP ERP 6.0の終息に向けたシステム更改を課題解決と共に推進しなければならない状況となっている。

 2019年度に国内SAP ERPユーザー300名を対象に実施されたアンケートによれば、7割弱は依然として現行や旧バージョンを使用中で、6割以上はSAP S/4HANAへの移行を検討しているものの、具体的な計画はこれからとなっている。

 その移行時期については、5割が未定で、4割は1~3年以内を計画している。

 また、SAP S/4HANAのシステム基盤には、6割弱がクラウドを希望し、3割は未定で1割はオンプレミスと回答しており、大多数がクラウド環境への移行実施を検討している結果となった。

 さらに不破は「SAPだけではなく、各種ソフトウェアやハードウェアのサポート期間も考慮する必要がある」と助言し、図2のようなサポート期間をチャートで示す。


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図 2. 各種ソフトウェアのサポート期間
(2020年7月31日時点)
- 最新の情報は「SAP PAM(Product Availability Matrix)」をご確認ください -




 こうした背景から、多くのSAPユーザーがSAP S/4HANAへの移行に向けた検討を進める必要がある。

 その選択肢は、ハードウェアの更改に合わせた移行実施で考えると大きく4つに分かれる。

  • 選択肢A
    • SAP S/4HANAへの移行とシステム基盤移行を同時に実施するもの
  • 選択肢B
    • 先行してOSやDBに加えてSAP enhancement package(EhP)のバージョンアップとシステム基盤移行を実施し、後からSAP S/4HANAへ移行するもの
  • 選択肢C
    • 最初にシステム基盤を移行して、後からEhP適用とSAP S/4HANAへの移行を段階的に実施するもの
  • 選択肢D
    • システム基盤だけ移行し、SAP ERP 6.0を塩漬けにするもの。この場合には、どこかのタイミングでOS、DB、EhPを最新にする


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図 3. SAP S/4HANAへの移行に向けた選択肢



 4つの選択肢には、それぞれメリットとデメリットがある。

  • 選択肢A
    • 利点
      • 同時実施では、いち早くSAP S/4HANAの新機能を享受でき、DX Readyの状態を獲得できる
    • 欠点
      • 計画や準備、実施の期間が短くなり、エンドユーザー調整の負担は重くなる
  • 選択肢B
    • 利点
      • EhPなどを先行してクラウド化する方法では、SAP S/4HANAへの移行の準備期間を長く確保できる
    • 欠点
      • SAP S/4HANAへの移行の時期が後ろになるため、他のSAP ERP顧客のSAP S/4HANA移行プロジェクトと重なると、市場でのエンジニアの確保が難しくなるリスクがある
  • 選択肢C
    • 利点
      • クラウド化の先行による多段階の移行でも、SAP S/4HANAへの移行の準備期間を長く確保できる
    • 欠点
      • 多段階による移行では、全行程のトータル工数や費用などが増大する恐れがある。
      • エンジニアの確保においても、Bより更に困難になる
  • 選択肢D
    • 利点
      • 現行業務とシステムを継続利用できる
    • 欠点
      • 旧バージョンでの塩漬けとなるため、将来的に外的な要因でシステム変革を求められたときに、対応は困難になる
      • システム不具合では、現場でのワークアラウンドによる対応が求め続けられる



 この4つのパターンにおけるそれぞれのクラウド活用では、選択肢ABCともに開発環境・検証環境・テスト環境が必要となることから一時リソース払い出しできるクラウド化は要求・課題を解決する有効な手段となる。

 選択肢Dでは塩漬け環境でもあり、できるだけ維持運用の業務負担を削減していくためには、ハードウェア維持管理やリプレース対応の業務から解放されるクラウド化は有効な手段となる。






2. クラウド化を加速するSAP ERPシステム基盤のポイント

 不破は「SAP ERPの位置づけが、クラウドネイティブに変容しつつある」と指摘し、クラウド活用のポイントを図4のように整理する。



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図 4. SAPシステム基盤におけるクラウド活用の有効性



 これらのポイントを整理すると、既存でも新規でもSAPの導入や更改では、クラウド活用が有意義となり、構築するならばSAP ERPシステムにおけるシステム要件に特化したクラウドの選択が望ましい。

 そのSAP ERPシステムに特化したクラウドに求められる要件では、SAP HANAによる分析/レポートの高速化というメリットを実現するために、インフラには高い性能と安定性が求められる。その要件や検討事項を整理したチャートが以下になる。



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図 5. SAP HANAが求める要件




 これらの要素をすべて満たしているのが「基幹系特化型クラウドCUVICmc2」になる。

 CUVICmc2とは、ミッションクリティカルなシステム基盤を国内唯一の実使用量課金方式で利用できるIaaSになる。

 2020年3月末の時点で、35社56件の採用実績があり、そのうち92%がSAPユーザーで、その中の72%がSAP S/4HANAユーザーになる。


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図 6. CUVICmc2の価値




 オンプレミスとして稼働、性能が保証され、高いセキュリティとコンプライアンスを実現している強みに加えて、パブリッククラウドとして、柔軟な拡張性と従量課金に対応する。






3. CUVICmc2の4大特長

 CUVICmc2は、SAP ERPシステムに特化したクラウドとして、4つの特長を備える。

  1. 性能保証(ストレージ性能)
  2. DR対応(SAP ERPシステムと周辺システムをまとめたDR実装)
  3. 従量課金(基幹システム特性を意識した従量課金)
  4. SAP対応(SAP HANA対応、SAP BASIS対応、バックアップ)


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図 7. SAP基幹システム特化型クラウドCUVICmc2の強み



3-1. 性能保証(ストレージ性能)

 VMware+インメモリDBであるHANAの特性には、データの保存や起動時のメモリ展開やバックアップなどの処理において、ストレージ性能が処理時間やメンテナンス時間に大きな影響を与える。

 そこで、CUVICmc2ではハイエンドンドストレージにより標準で応答性能の保証サービスをつけた高性能なインフラを構築している。




3-2. DR対応(SAP ERPシステムと周辺システムをまとめたDR実装)

 DR対応における要件においては、SAP ERPシステムだけではなく、周辺システムも含めた基幹システムすべてのDR実装が必要となる。

 一般的なパブリッククラウドでは、ユーザー側でDRの設計や実装に機能検証が必要になるが、それに対してCUVICmc2では、SAP ERPシステムだけでなく周辺システムも含めた基幹システム全体で同じDR実装方法で提供でき、さらに検証済みのDRメニューを選択するだけで実現が可能となる。




3-3. 従量課金(基幹システム特性を意識した従量課金)

 従量課金は基幹システム特性を意識した従量課金であり、サーバーの起動や停止に関係なく、完全な従量課金を提供する点になる。

 一般的なパブリッククラウドでは、サーバーの起動や停止を基準とした100%のON/OFF課金(起動時のみが課金対象)を採用している。

 仮に、使用率が低くてもサーバーを起動すれば100%課金されることになる。

 それに対して、CUVICmc2の従量課金では、CPUとメモリの実使用量での課金となり、サーバーを稼働させ続けていても、使った分だけが課金の対象となる。

 基幹システムの特性としては、業務処理のタイミングやイベントにより処理落差が大きく、かつ日中帯はオンライン処理、夜間はバッチ連携処理など、停止できるタイミングが無いという特徴がある。

 このシステム特性から、サーバーの起動/停止に依存せず、処理に応じた課金形態が求められることからCUVICmc2の従量課金の方式がお客様へのメリットとなる。




3-4. SAP 対応(SAP HANA対応、SAP BASIS対応、バックアップ)

 SAP HANA向けに仮想環境によるサービスメニューを用意している。

 また、SAP BASIS対応としてSAP BASIS環境構築・維持運用や、APIと連携したバックアップ提供を実施している。



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図 8. CUVICmc2のSAP S/4HANA向け特別メニュー






 CUVICmc2の詳細については、下記より下記よりご覧いただくことができる。

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4. 導入事例

 最後に不破は、2件の導入事例を紹介した。



4-1. システム基盤リプレースの移行事例

 CUVICmc2にSAP ERP 6.0環境をシステム基盤移行した。

 移行前には、ハードウェアの故障の多さ、運用負荷の増大やパーフォーマンスの低さから業務部門のストレスが大きいなどの課題があり、SAP ERP保守切れを控えて、システム更改を検討していた。

 そこで、SAP ERPシステムをCUVICmc2へと移行したことにより、運用負荷を低減し安定したシステム基盤を確立した。また、処理時間が平均で1/10になり、業務効率も大幅に改善された。



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図 9. CUVICmc2の事例:SAP ERP6.0をオンプレミスからクラウドへ移行





4-2. SAP S/4HANAへのシステムコンバージョン

 CUVICmc2上に全社統合データ基盤としてSAP HANAを構成し、SAP S/4HANAにコンバージョンした。

 結果、100時間以上かかっていた業務処理が、インメモリDBの機能により30分で完了するようになった。

 また、CUVICmc2の機能を活用して、システム全体のDRについても実現した。



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図 10. CUVICmc2の事例:SAP S/4HANAシステムコンバージョン事例




 CUVICmc2による SAP ERP のクラウド移行事例については、下記よりご覧いただくことができる。



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さいごに

 SAP ERPシステム基盤を取り巻く状況について、不破は「SAP S/4HANAへの移行の検討は、まだまだこれからで、その道は多岐にわたります。また、その中でSAP ERPシステム基盤のクラウド化にあたっては、SAP HANAが求めるインフラ要件の確認が重要となります。SAP ERPシステムに特化したクラウド基盤として、オンプレのようなメリットをクラウドで提供できるCUVICmc2をご検討いただければと思います」と語る。


 この記事の詳細については下記よりご覧いただくことができる。



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