データ活用の理想と現実~そのギャップを埋める道筋を示す(前編)
前編:なぜ企業は「ビッグデータ」に期待するのか?

重要度を増すビッグデータ 出典:ITR User View 2015年6月調査

ビジネスを変革するためのキーワードとして「ビッグデータ」はすっかり定着した感がある。しかし、既に多くの企業において、DWHやBIツールなどが導入され、様々なデータ活用施策が実施されているにもかかわらず、それらがビジネスに貢献していると自信を持って言える企業は少ないのが現状ではないか。では、こうした状況をもたらす背景には、ビジネス現場でのどのような事情があり、また企業には今後どういった対応が迫られているのか──。昨今のビジネスそしてテクノロジーの潮流を踏まえながら、ITR リサーチ・ディレクター/シニア・アナリストの生熊清司氏に持論を展開してもらった。

◎効率化から売上貢献へ 企業のITへの期待値はこの5年で大きく変化

企業のIT部門を対象に、2001年度より継続してITRが実施している「IT投資動向調査」の2015年度の結果を見ると、最重要視するIT戦略上のテーマの1位は「売上増大への直接的な貢献」であり、3位に「顧客サービスの質的な向上」が、6位に「情報の活用度の向上」、そして11位には「経営における意思決定の迅速化」がランクインしている。

出典:ITR 「IT投資動向調査2015」

 出典・ITR「IT投資動向調査2015」

 「売上増大への直接的な貢献」が1位の理由として、ITに求める役割の変化が挙げられるだろう。これまで長い間、ITに対する期待は、生産性向上や効率化、コスト削減にあった。そのため基幹系業務システムを中心に企業ではITが活用されてきたが、ここ5年ほどの間にITへの企業の期待値が大きく変わってきたと見ている。具体的に言えば、従来ながらのコスト削減よりも、直接的な売上貢献にITを活用していこうという流れになっているのである。

このような変化の背景の1つとなっているのが、アマゾンや楽天をはじめとするEC事業者に代表されるように、ITをベースに消費者とのビジネスを直接的に展開する企業の台頭である。これに伴いB2Bの世界でも、Webマーケティングが注目を集めるなど、顧客接点や情報収集のあり方にITが大きな変化をもたらしているのである。こうした潮流を受けて、ITを使って直接売上に貢献することが求められるようになって来ているのだと言えるだろう。

他の「顧客サービスの質的な向上」、「情報の活用度の向上」、「経営における意思決定の迅速化」については、情報を活用したサービスレベルの平準化や経営での判断・意思決定支援に対するニーズの高まりが背景にある。例えば、これまでの顧客サービスや経営における意思決定というのは、それぞれの勘と経験に依存するところが大きかった。それが、ビッグデータやビジュアライゼーションといった技術を活用することで、過去の情報を活用しながら、誰でも共通したサービスの提供や、共通した判断・意思決定が行えるようになると期待されているのである。実際、経営環境が激しく変化する現在においては、過去の勘と経験だけで意思決定を行ってしまうと失敗するケースが国内外で散見されるようになっている。

◎ビッグデータを資産と捉える企業が急増 その理由とは

株式会社アイ・ティ・アール 生熊 清司氏

株式会社アイ・ティ・アール 生熊 清司氏

ITがますますビジネスに欠かせない要素となるなか、企業が取り扱う情報やデータの量は増加し続けている。人の手による入力だけでなく、システムログやセンサーデータのように自動的に生成されるデータがそれを増長しており、とりわけ今後IoT(モノのインターネット)の普及によって、データ量は爆発的に増加することが予測される。

そして使うことのできるデータがたくさん手に入るようになったことから、それをマーケティングや営業、サポート業務といった顧客との接点に活用したいという傾向が強まっていることは先の調査結果からも明らかだ。なかでも大きいのが、顧客のニーズをなるべく詳細に把握したいというニーズである。

モノや情報が溢れ、製品の新規需要が見込みにくくなった現在の市場では、消費者の興味や生活パターン、SNSでの発信内容などといった、個人の細かい属性までを踏まえたワン・ツー・ワンマーケティングによる購買意欲の喚起が重要になってきている。そこでは、インターネット上のデータをいかに利用するかが成否の鍵を握ることから、ビッグデータに価値を求める企業が増えているのである。実際、ITRが今年6月に実施した調査結果を見ても、ビッグデータをビジネス全体に効果を与える最優先事項であるとする企業の割合は、2013年の24.5%から44.7%へと、たった2年の間に倍近くにまで増加している。ビッグデータという言葉が世間を騒がせ始めた当初は単なるバズワードと見られることも多かったが、今では多くの企業がビッグデータをリアルな“資源”として認識するようになっていると言っていい。

 

重要度を増すビッグデータ 出典:ITR User View 2015年6月調査

出典:ITR User View 2015年6月調査

ただし注意して欲しいのは「ビッグデータ自体にはあまり意味が無い」という点である。ある仮説をもってビッグデータを見ること、つまりデータの検索や分析を行うことで初めて意味が出てくるという点を忘れてはならない。例えばデータを1つの視点から切り取ってビジュアルに表示することで、そのデータの裏側にある意味が見えてくるようになるのだ。

データの分析や可視化を行うためにはツールが必要となるが、それが冒頭でも触れたBIやDWHといったソリューションだ。しかし、そうしたツールを導入したとしても、売上に貢献するようなデータ活用は企業の間であまり進んでいないと見られる。このような状況を打破するためには、ツールだけがあっても意味はないという事実をもっと認識すべきだろう。ツールが扱うデータが十分になければ、いわばガソリンが入っていない自動車のようなものでその真価は発揮できないのである。そのため、データという資源をいかに集め、備蓄するかを企業は考えないといけない時代になっていると言えるだろう。

では、データを効果的に収集し、売上に貢献するようなデータ活用を実践するためには、どのようなアプローチが有効なのだろうか──。そこで次回は、多様なデータをベースとしたデータ可視化のその先にある、データの分析力を高めるために必要なこと、そのために必要な組織の意識改革などについて、生熊氏の提言をお届けしたい。

※後編につづく 
後編:データ活用で競争力を高めるには、企業はどう変わり、何を実践すべきなのか?

【用語説明】

BI、Business Intelligenceビジネスインテリジェンス:経営・会計・情報処理などの用語で、企業などの組織のデータを、収集・蓄積・分析・報告することで、経営上などの意思決定に役立てる手法や技術のこと。 ビジネスインテリジェンスの技術は、経営判断上の過去・現在・未来予測などの視点を提供する。

【プロフィール】
株式会社アイ・ティ・アール リサーチ・ディレクター/シニア・アナリスト 生熊 清司氏
外資系コンピュータベンダーを経て、カナダのソフトウェアベンダーの日本法人の立ち上げに参画。1994年より大手外資系ソフトウェアベンダーにて、RDBMS、データウェアハウス関連製品のマーケティングを担当した後、コーポレート・マーケティング部門の責任者、アナリスト・リレーション部門の日本代表などを歴任。2006年より現職。現在は、RDBMS、NoSQL、DWH、BIなどのデータ管理と活用に関する製品分野を担当し、ITベンダーのマーケティング戦略立案やユーザー企業の製品活用などのコンサルティングに数多く携わっている。IT専門雑誌への寄稿、セミナーなどでの講演多数。

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