ビッグデータによる人事管理の高度化
社内外の情報を活用した業績向上やコスト削減を実現した事例

PwCの人事データ活用成熟度モデル

「わが社で成功する人材が持つべき特徴は何か?」「離職率に最も影響する要素は何か?」このような質問に根拠を持って応えられる人事担当者は少ないのではないだろうか。採用や人事管理は担当者の“勘や経験”に基づいているのが現状だ。ビッグデータ分析による定量的な評価は、人事管理の高度化を助けることが期待されている。

◎勘と経験に基づいた人事管理に定量的評価を加える

ビッグデータは“勘と経験”に頼っていた意思決定プロセスに定量的な視点を与えてくれる。多種多様なデータの中から新たな知見を見出すのがビッグデータの価値だ。ビッグデータはマーケティングやオペレーション分野での活用事例が増えているが、“勘と経験”に頼っている業務の代表でもある人事管理でもビッグデータ活用の可能性が示唆されている。新卒社員の面接や、幹部候補の選抜の場面を考えてみてほしい。定量的なデータよりも担当者の主観的な印象に左右される場面が圧倒的に多いのではないだろうか。さらに、その時点での担当者の判断が、後日振り返って今後の改善に活かすことも難しいのが現状だ。そこでデータの力を利用すれば、数年後のパフォーマンス予測に定量的な評価を与えたり、来年の離職率や社内研修の費用対効果を割り出したりといった人事管理の高度化が行えるのである。

◎PwCの人事データ活用成熟度モデル

プライスウォーターハウスクーパース(PwC)が、2012年に実施したCEOサーベイでは「経営判断における人材データ活用の重要性」について肯定的な回答を示した割合は80%に及んだ。グローバル大手企業では人事管理のデータ活用についての問題意識が数年前から高まっている。しかし、人事管理の改革は一朝一夕に進むものではない。そこで、PwCは人事管理の成熟度を示す5段階のモデルを提唱した。レベル1「単年集計」、レベル2「経年比較」では採用人数や離職率といった統計データを集計し比較を行うもので、多くの大企業では既に実現されている。レベル3「ベンチマーク比較」では報酬水準や教育投資の額について他社と比較を行い競争力の指針を得る。レベル4「要因分析」、レベル5「予測分析」では、人事関連指標の変化についてその原因を突き止め、今後のトレンドを予測し、先手を打って対策が取れるようになる。データの活用によって、人事管理はここまで高度化させることができるのだ。

PwCの人事データ活用成熟度モデル

PwCの人事データ活用成熟度モデル

◎人事管理高度化の事例

ビッグデータによる人事管理の高度化は机上の空論ではなく、既にいくつかの企業が実践に移している。ここでは海外での事例を紹介する。

■Xerox:コールセンターに合った“性格”を発見

Xeroxはビッグデータ分析を行い、コールセンターの離職率を20%減少させた。従来は、業界経験を重視して採用を行っており、一人当たり5000ドルの教育投資コストを回収する前に従業員が離職してしまう点を問題として認識していたと言う。そこでビッグデータ分析を進めたところ、業界経験よりも“性格”が離職率に関連することが明らかになった。現在は採用試験に「人に質問することが多い」「周囲の人は私の発言を信用してくれる」といった設問を設け、離職するリスクの低い人だけを採用できるようになったのだ。面接官がソフトウェアの助けを借りて採用を決める時代になってきた。

■Talentbin:ビッグデータによるヘッドハンティング

特定の技術スキルを持った人材を探している際に、応募者の中から該当する人材がいなかった場合、人材紹介やヘッドハンティングの会社に人材発掘を依頼するケースがある。ビッグデータを活用して、積極的に就職活動をしていない人を含めてスキルが合致する人材を見つけるサービスを展開しているのがTalentbinだ。エンジニアを探す場合には、Twitterやオープンソースのプロジェクトの活動履歴を分析し、必要なスキルを保有する人材を発掘するのがTalentbinの強みである。マーケティングでは消費者の行動から見込み顧客を発掘する取り組みが広まっているが、人事管理においても潜在従業員を発見する方向へ進んでいるのだ。

■Sysco:従業員満足度が競争力の源泉

グローバルに食品サービスを展開するSyscoは5万1000人の従業員が複雑なチームを形成し、40万人の顧客にサービス提供を行っていた。さらなる業務効率化を狙い、労働環境、従業員満足度、生産性、離職率について分析を深めることとなった。ビッグデータ分析を行い、従業員満足度の高い人ほど、高い売り上げ、低いコスト、低い離職率、高い顧客ロイヤルティを示すハイ・パフォーマーであるとの結果が得られた。そこで従業員満足度を向上させる取り組みを進めたところ、6年のうちに従業員定着率を65%から85%に上昇させることができた。トップパフォーマーを維持できるようになったため、採用や研修にかかるコストをおよそ5000万ドル削減するという高い成果につながったのだ。PwCの人事データ活用成熟度モデルに照らし合わせるとレベル4「要因分析」に到達した好例と言えるだろう。

◎最後に

“勘と経験”に頼ってきた日本の人事管理にはビッグデータ分析による定量的評価の支援が必要だ。人事データの変化から要因の理解や今後の予測を行い、先手を打った人事施策が求められるようになった。成功事例のように、人事管理の高度化は、コスト削減をもたらし、企業の差別化につながる。

著:ビジネス on IT運営事務局、データ活用班

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