人工知能 (AI)や機械に奪われない人間のスキルとは

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人工知能やロボットの活用が雇用に及ぼす影響について論理的・感情的な議論が渦巻いている。実際、これらの新技術はどれほど進歩を遂げ、今後、人間に求められるスキルはどのようなものがあるのだろうか。

 

■実は人工知能やロボットは高度技能人材の雇用を増やしている?

「AIやロボットが仕事を奪うのではなく、それを使う人間が他の人の仕事を奪う」柳川範之東京大学教授の指摘だ。未来の職業に関しては様々な角度で議論が行われているが、経済的に見れば、人工知能やロボットが企業に利用されるのはコスト削減や付加価値創出に寄与するのが理由となる。リードタイムの短縮や柔軟なカスタマイゼーションの実現、顧客の利便性向上や新たな製品・サービスの開発といったメリットが、この新技術の普及を促す。

実際、人工知能やロボットがこれまで実現できなかった価値を創出している例が増えてきた。IBMの病名診断はその一例だろう。人間の医師が急性骨髄性白血病と診断し治療を進めていたものの、治療の効果が現れていなかった。そこで、人工知能が過去の大量な論文や検査データを読み込んだところ、特殊な白血病であると診断し、患者の命を救ったという。

スポーツ用品ブランドのアディダスは、完全ロボット化した工場「スピードファクトリー」を設置した。賃金の安いアジア諸国で製造を行っていた同社も、新興国での賃金上昇の影響によりコストメリットが無くなっていた。そこで、本社所在地でもあり、かつ、消費地に近いドイツ国内にロボットや3次元モデル技術を駆使した工場を建設している。工場に勤務するのはロボットを管理する高度技能者のみだ。人件費を最適化したのに加え、アジアからの船便ではなく近距離国内輸送で済むため、リードタイムの短縮に大きく貢献している。

これらの事例を見れば、仕事の在り方が変わってきているのは確かだろう。人工知能が診断できるからといって医師の仕事が無くなるわけではない。データを収集し、診断プログラムを開発するのは医師とそれを支援するエンジニアの仕事だからだ。定量的な手法を使って、より速く正確な診断ができるよう、人工知能を上手に使うスキルが求められるようになった。

ロボットの事例では、短期的に見ると、工場労働者はロボットに職を奪われているかもしれない。しかし、ロボットを管理し、3次元データを処理する技術者のニーズは高まっている。ロボットの活用によって、より付加価値の高い雇用を作っている。

部分的な雇用の代替は、むしろ雇用を増やすという調査もある。例えば、1990年代末に増えた銀行ATM(自動預け払い機)は、銀行窓口係の雇用を増やしている。短期的には窓口業務をATMが代替したのだから、窓口係の雇用は減っていくように予測された。しかし、ATM導入によって銀行の運営コストが削減されたため、より多くの支店を開設できるようになり、窓口係の人数が結果として増加したのだ。同様の現象が、今後のロボット活用でも起こる可能性がある。

■人間の感情を理解し、解くべき問題を発見できるスキルが求められる

人工知能やロボットは、これまで手動で行っていた作業を代替し、さらに、人間の技能や知識をより高めている。これらの技術が得意とするのは、過去の膨大な事例を分析し、ルールを見出して、それに従い効率的に作業を行う仕事だ。そのため、製造や監視・警備、事務処理、運転などは人工知能やロボットによる代替が進むだろう。

一方で、今後、人間に求められるのは問題を発見する能力だ。どのようなデータを分析し、どのような結果を得たいかという「問い」を立てられる人材は、人工知能やロボットの優れた機能を活用し、大きな価値を創出するだろう。問題発見能力は、起業家精神や創造力とも言い換えられる。身の回りにある小さな問題を発見し、事業を起こせる人材はより必要とされるようになる。

カーネギー技術大学の調査では、社会的な成功に必要な要素のうち、知識が占める割合は15%に過ぎないという。感情を司るEQ(Emotional Intelligence)、倫理観を保つMQ(Moral Intelligence)、健康を維持するBQ(Body Intelligence)が残りの85%に関わるという印象的な内容だ。人工知能やロボットが活用される時代では、この傾向はさらに顕著になるだろう。

知識やノウハウは、人工知能やロボットが保有するようになる。他者の感情に共感したり、事業のあるべき姿を追求し続けたりする態度が人間を際立たせるのだ。たとえ、現在コンピュータやロボット技術に素養がなくとも、他者のニーズを理解し、解決策を考案し、それを提供するのは人間の役目であり続けるだろう。

バリューチェーンの各局面で今後求められるスキル

バリューチェーンの各局面で今後求められるスキル

■人工知能やロボットを活用したソリューション思考が重要

「ドリルを買いに来た人が欲しいのは、ドリルではなく穴である」マーケティングの世界では常識となった言葉だ。道具が何であるかに関わらず、人間のニーズを発掘し、それを満たすソリューション思考が重要だという点を示唆している。人工知能やロボットも道具に過ぎない。どのように新技術を使おうとも、顧客の要望に応えるソリューションを生み出す人材が生き残る。

前述したアディダスのスピードファクトリーは好例だ。完全ロボット化を果たすのは技術的に素晴らしく、リードタイムを短縮したり、顧客の要望に応えて高度なカスタマイゼーションを実現したりといった、システム全体としての付加価値を高めた点がより社会の発展につながっている。

人工知能が囲碁のチャンピオンに勝ったり、小説や絵画を制作したりといった話題は注目を集める。しかし、ビジネスの現場において、人間とコンピュータが競争する意味はない。技術を使いこなし、いかに価値の高いソリューションを提供できるかが問われている。

■最後に

人工知能やロボットも道具に過ぎない。人類はこれまでも、新たな道具を生み、雇用の在り方を変化させてきた。新技術の特徴を理解し、新たな価値を創出するスキルが人間に求められている。

 

著:ビジネス on IT運営事務局、データ活用班

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