SDGs(持続可能な開発目標)の観点からテレワーク推進の意義を考える

SDGs(持続可能な開発目標)の観点からテレワーク推進の意義を考える

 働き方改革のためにテレワークを導入していこうという取り組みがここ数年、政府主導のもとで進められてきました。複数の省庁などが主唱する「テレワークデイ」にも、数多くの企業が参加しました。

 これは2020年夏に予定されていた大規模なスポーツイベントに向けて進められた側面もありますが、皮肉なことにこのイベントを延期に追いやったコロナ禍によって、テレワークは一気に広がった感があります。

 しかし結果的に見れば、これは決して悪いことではなかったと言えるでしょう。テレワークは従業員の働き方の自由度を高めるものであり、これを経験した多くの従業員はその継続を希望している、という調査データもあるからです。

 また企業側にとっても、通勤費やオフィスコストの抑制といったメリットがあります。さらには、少子高齢化が進む日本社会において、どのようにして働き手を確保していくかという課題の解決にも、大きな貢献を果たすと期待されています。従業員が希望する働き方を用意することで、育児や介護などを理由とした退職を減らすことができる上、このような会社は若い働き手にとっても魅力的に映るからです。

 このテレワークの推進は、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)にも大きな貢献を果たします。

 しかし、SDGsの観点でテレワークを評価している人は、意外に少ないのではないでしょうか。

 SDGsというと、クリーンエネルギーや気候変動への対策、自然環境の保護、貧困問題などにフォーカスが当たることが多いためです。

 そこで、本記事ではSDGsの観点から、テレワーク推進の意義について再考します。




▼ 目次
SDGsとは
テレワークと関連するSDGsの目標
事例に学ぶ、テレワークを導入した企業が抱く目標とは





1. SDGsとは

 SDGsの登場の背景や歴史、掲げられている目標について簡単におさらいしておきましょう。

 SDGsとは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略で、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として,2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された、国際目標のことです。

 MDGsは開発分野における国際社会共通の目標として、2000年9月にニューヨークで開催された「国連ミレニアム・サミット」で採択された国連ミレニアム宣言をもとにまとめられたものであり、基本的にその精神はSDGsにも引き継がれています。

 MDGsでは2015年までに達成すべき8つの目標が掲げられ、実際に2015年までに一定の成果を挙げたと評価されています。SDGsではこれよりも多い17の目標が掲げられ、2030年までに「持続可能でよりよい世界」を実現することが目指されています。


 SDGsで掲げられている17の目標を列挙すると、以下のようになります。

  • SDGsで掲げられている17の目標
    • 目標 1. 貧困
      • あらゆる場所あらゆる形態の貧困を終わらせる
    • 目標 2. 飢餓
      • 飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養の改善を実現し、持続可能な農業を促進する
    • 目標 3. 保健
      • あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する
    • 目標 4. 教育
      • すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する
    • 目標 5. ジェンダー
      • ジェンダー平等を達成し,すべての女性及び女児のエンパワーメントを行う
    • 目標 6. 水・衛生
      • すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する
    • 目標 7. エネルギー
      • すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的なエネルギーへのアクセスを確保する
    • 目標 8. 経済成長と雇用
      • 経済成長と雇用包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する
    • 目標 9. インフラ、産業化、イノベーション
      • 強靱(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る
    • 目標 10. 不平等
      • 各国内及び各国間の不平等を是正する
    • 目標 11. 持続可能な都市
      • 包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する
    • 目標 12. 持続可能な生産と消費
      • 持続可能な生産消費形態を確保する
    • 目標 13. 気候変動
      • 気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる
    • 目標 14. 海洋資源
      • 持続可能な開発のために、海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する
    • 目標 15. 陸上資源
      • 陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する
    • 目標 16. 平和
      • 持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する
    • 目標 17. 実施手段
      • 持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する



 これらの目標はそれぞれさらにブレイクダウンされ、169のターゲットとしてまとめられています。各目標がどの程度達成されたのかについては、2016年、2018年、2019年、2020年に「SGDs報告」として、国際連合広報センターのホームページに掲載されています。

 また、企業の動向のひとつとしては、既存のブランドを時代や市場ニーズに適応させる目的で、ブランド・アイデンティティにSDGsの要素を含めるべく、ブランドを再構築するといったリブランディング活動が増えてきています。

SDGs
(引用 : 外務省国際協力局が発行したパンフレット https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/SDGs_pamphlet.pdf)






2. テレワークと関連するSDGsの目標

 SDGsの目標を眺めると、テレワークは以下の目標に関連していることがわかります。

  • 経済成長と雇用
    • 「生産的な雇用」と「働きがいのある人間らしい雇用」の両立は、テレワークなどで実現しようとしている「働き方改革」の目標そのものです
  • 保健
    • コロナ禍におけるテレワークは感染拡大抑止という面で、「人々の健康的な生活の確保」に大きな貢献を果たします
  • 持続可能な都市
    • 通勤に伴う人々の移動を抑制し、通勤ラッシュや交通渋滞を解決できるという意味で、テレワークが貢献できる目標です
  • 実施手段
    • Web会議などを活用したテレワークによって出張を減らしながら国際連携できるという点から見ると、関連があると言えそうです



 このようにSDGsを意識した上でテレワーク推進の意義を見直してみると、テレワークの新たな側面が見えてきます。テレワークはコロナ禍における「一時しのぎの対応」ではなく、長期的に継続可能なビジネスを実現する上で、欠かすことのできないものなのです。

 SDGsを意識したテレワーク推進は、その企業の社会的価値の上昇に直結します。その結果、投資家や労働者、さらには消費者からも選ばれる企業として、高い評価が得られるようになるのです。





3. 事例に学ぶ、テレワークを導入した企業が抱く目標とは

 テレワークを導入した企業が抱く目標について、ご紹介します。


3-1. 1万人の社員がどこからでも働ける環境を実現

 伊藤忠テクノソリューションズ(以下、CTC)では2017年から総務省、厚生労働省や東京都などが呼びかけて実施している「テレワーク・デイ」に積極的に参加し、全社的にテレワークのPoCを実施しました。

 1万人の社員がどこからでも働ける環境の実現を目指し、リモートアクセスをはじめとする多様な働き方の PoC を実施。

 その後に本番環境を整備し、
モバイルやサテライトオフィスなどのテレワーク、時差出勤など、社員一人ひとりの多様性を重視したワークスタイルを実現しました。

 この事例の詳細については、以下よりご覧いただけます。



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3-2. 社員教育が不要のVPNレス・リモートアクセス環境を実現

 社員のITリテラシーは様々で、VPN接続のためのソフトウェアのアップデート、ブラウザやJAVAのアップデートはリモートアクセスユーザーだけでなく、ユーザーから問い合わせを受ける情報システム部にとっても負担が大きく、テレワークの導入を阻害する要因になります。

 また、情報システム部は社員の自宅ネットワーク自体を管理することができないため、自宅ネットワークの通信品質の低下業務への影響やセキュリティの脆弱性などに対処することができません。

 そこで、誰もが簡単かつセキュアにテレワークを実施できることを目標に、社員にモバイルSIMを装着したPCを配布し、「PCにログインするだけで」外出先や自宅から社内の各種システムへVPNレスでリモートアクセスできるテレワーク環境を整備した企業があります。



リモートアクセス
図 1. モバイル




 モバイルSIM通信は、利用者毎に通信データ量はバラバラですが、パケットシェアプランを利用することによって、リモートアクセスのコストを削減できました。



リモートアクセス





 VPNレスのリモートアクセス環境は、VPNベースのリモートアクセスの課題を解消するメリットがあります。詳細な解説については、以下よりご欄いただけます。



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4. まとめ

 ここまで見てきたように、テレワークの推進はSDGsの達成に貢献するものであり、積極的に取り組む企業に様々な価値をもたらします。これを着実に実現していくには、ICTを活用した環境整備が欠かせません。

 しかし、それ以上に重要なのは、経営者のコミットメントと、現場の声を積極的にフィードバックしたボトムアップの取り組みを、並行して進めていくことだと言えます。

 つまり企業文化そのものを、SDGsの観点から見直すことが求められるのです。

 すでにこの観点からテレワークを推進する企業も、大企業を中心に数多く登場しています。

 「コロナ禍が一段落したらテレワークから通常勤務に戻す」のではなく、SDGsのような将来を見据えた戦略にもとづき、どのような取り組みが適切なのかを改めて考えるべきだといえるでしょう。



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