おいしいミルクティの淹れ方からビジネスまで:目的に合った解を導き出す「最適化AI」の世界

おいしいミルクティの淹れ方からビジネスまで:目的に合った解を導き出す「最適化AI」の世界

 近年、「最適化AI」という言葉をよく耳にするようになりました。その考え方は、実は80年ほど前から研究されてきた「最適化理論」の延長線上にありますが、意外と私たちの身近なところでも活用されています。本記事では、最適化理論の基礎から活用方法までを、身近な例を用いて解説します。

1. オペレーションズ・リサーチ(OR)と最適化理論

 社会におけるさまざまな問題に応用数理の技術を組み合わせて解決策を見出す手法が、オペレーションズ・リサーチ(OR)です。その手法には、ゲーム理論、待ち行列理論、機械学習、深層学習などが含まれます。

 ORの応用例は私たちの身近なところに数多く存在します。例えば、コンビニエンスストアの店舗配置は「ナッシュ均衡」という数学的知識に基づいており、まばらに配置するよりも密集させた方が、収益が上がるという理論的な裏付けがあります。

 「最適化理論」は、ORの中で最も大きな分野といえるもので、最近では「最適化AI」という言葉で注目を集めています。実際には、最適化理論とAIは本質的に異なる技術分野ですが、AIの目覚ましい発展にあやかり、ブランディングのためにこのように呼ばれているようです。

 最適化理論は古くからある技術で、第二次世界大戦中の1940年代に生み出され、1980年ごろに最盛期を迎えました。1990年代になるといったん下火になりましたが、2010年代からのAIの流行に伴って再び注目されています。

2. 最適化理論(最適化AI)の定義と最適化の種類

 最適化理論(最適化AI)は「与えられたルールや条件の中で目的に合った最適解を見つけ出す技術」と定義されます。主に以下のような種類があります。

  • 組み合わせ最適化:膨大なパターンの中から目的に最もマッチしたものを見つけ出す
  • 連続最適化:信号や音声など連続データを最適化。深層学習の登場とともに注目を集め、現在も広く使用されている
  • ブラックボックス最適化:仕組みやルールが明確でない場合にベターを見つけ出す1

 他にもロバスト最適化や形状最適化など、さまざまな手法がありますが、特に上記の3つは重要な手法として位置づけられています。

3. 最適化AIの進め方と難しさ

 最適化AIは、生成AIと比較すると明らかに難易度が高い手法です。ChatGPTのような生成AIの場合、ウェブサイトにアクセスして文章を入力するだけで利用できますが、最適化はそれほど単純ではありません。この複雑さが、1980年代にブームとなった最適化技術が一般に広く普及しなかった理由の1つといえます。

 最適化AIの実施に必要な工程は、主に以下のようなものです。

  1. 問題の定式化:現実世界の課題を数学的な言語に変換する
  2. アルゴリズム:数学的に定式化できたら、実用的なアルゴリズムに落とし込む
  3. 反復的な改善:モデルの正確性検証を実施し、アルゴリズムの実装が正しいか、数学的定式化に誤りがないかを確認しながら、何度も試行錯誤を重ねる

 これらの工程は、一般のユーザーには非常にハードルが高く、最適化AIの普及を妨げる要因となってきました。

4. 最適化AIの具体事例 -友人へのおもてなし-

 ここからは、最適化AIの具体的な事例について解説します。わかりやすくするため、ストーリー仕立てで考えてみましょう。

(1) Day1 – 最適な東京の観光ルートは?(組み合わせ最適化)

 友人が一泊二日で東京に旅行にやってきました。「ドライブで東京観光をしたい!」という希望を叶えるには、どのような観光ルートが良いでしょうか?

 観光ルートの最適化は、「組み合わせ最適化」の典型的な応用例です。この問題の複雑さは、単純な距離の最適化だけでなく、各施設の営業時間や「観光地をできるだけ多く回りたい」という友人の希望など、多くの制約条件を考慮する点にあります。

 誘導局所探索法、タブーサーチなどの最適化アルゴリズムで計算した結果、最適な観光ルートが算出されました。具体的には、朝8時30分に紀尾井町から出発し、秋葉原やアメ横を経由して麻布台ヒルズでランチ、その後湾岸エリアで千客万来を訪問し、夜には都庁での夜景観賞、歌舞伎町で23時に締めくくりというルートです。

 このように、制約条件を考慮しながら、できるだけ多くの観光スポットを効率的に回れるようにしている点が組み合わせ最適化の特徴です。これは既存の地図アプリケーションにはない機能であり、最適化技術の強みを示す好例となっています。

図 1. 「組み合わせ最適化」による観光ルートの最適化

(2) Day2-1 – 家でのおもてなしメニューは何にする?(組み合わせ最適化)

 2日目は、あなたの家で友人をおもてなしすることになりました。朝・昼・夜の食事のメニューを考えなければなりません。

 メニュー選択は、1日3食の献立をさまざまな制約条件のもとで最適化する問題です。食べられれば何でも良いというわけではなく、以下のようにさまざまな制約条件を考慮しなくてはなりません。

  • 朝・昼・夜の3食作る
  • 1日の総カロリーは2200kcalに達する
  • タンパク質・脂質・炭水化物の比率を守る
  • スープまたはサラダのどちらかを副菜に付ける
  • 同じ料理は食べたくない
  • 夜のメイン(主菜)は後から決める

 この問題の特徴は、一見単純に見える献立選びが、実際には複雑な最適化となることです。ChatGPTなどの最新のAI技術でも、このような制約条件を考慮した最適な献立の提案は困難とされています。 単体法、内点法などの最適化アルゴリズムで計算した結果、以下のような献立が算出されました。

  • 朝食:リゾット、豆腐ハンバーグ、わかめスープ
  • 昼食:シーフードカレー、ロールキャベツ、コンソメスープ
  • 夕食:エビピラフ、レタスサラダ、メインディッシュは後決め

 このように、最適化技術は日常的な意思決定にも効果的に適用できます。

(3) Day2-2 – 夕食のメインディッシュを決めよう!(連続最適化)

 3食のメニューの大枠が決まったので、夕食のメインディッシュも決めます。この問題では、友人、妻、子供、夫といった複数のメンバーが満足できるメニューを選ぶ必要があります。しかし、提示されるメニューの中にはテリーヌやビーフ・ウェリントンのようなあまり食べたことのない料理も含まれており、選ぶのが難しそうです。

 この課題に対しては、座標降下法などの「連続最適化」アルゴリズムが有効です。各メンバーの好みや評価を行列Xとして入力し、それを基に最適な選択肢を予測する手法が用いられます。

 結果として、この事例ではビーフ・ウェリントンが最適な選択として提案されました。連続最適化技術は、最適化アルゴリズムを利用して友人が知らない料理への好みも予測し、「なぜ私の好みを知っているのか」と思わせるような精度の高い推薦を可能にしています。

 これはAmazonやNetflixにあるようなレコメンドシステムで、すでに実装されています。

図 2. メインディッシュの提案

(4) Day2-3ミルクティの最適な配合は?(ブラックボックス最適化)

 食後のティータイムには、ミルクティを淹れることにしました。

 一般的なミルクティは、牛乳、紅茶、砂糖を使用しますが、その最適な配合比は明確な公式が存在せず、また個人の好みによっても異なるため、典型的な「ブラックボックス最適化」の問題となります。

 この問題には、「ベイズ最適化」が有効です。例えば最初に入力者が牛乳:紅茶:砂糖を2:4:4の比率で配合し、おいしさの点数を40点と評価します。次に最適化アルゴリズムが、3:0:7という練乳のような比率を提案したところ、入力者はこれを10点と低い評価を付けます。すると、最適化アルゴリズムは6:3:1という比率を提案してきました。入力者はこれに90点と高い評価を下し、結果的に最適な配合比として採用されました。

 このような最適化プロセスは、試行回数を最小限に抑えなければなりません。そのため、ガウス過程と呼ばれる統計モデルを使用し、最もおいしいミルクティになりそうな配分を予測します。

図 3. ブラックボックス最適化 | ベイズ最適化

5. まとめ:最適化AIの応用先とCTCの取り組み

 最適化AIを駆使した結果、友人は満足し、幸せそうな顔をして帰って行きました。

 最適化AIは、その難しさゆえになかなか発展しづらい一方、非常に面白い領域であることも感じていただけたのではないでしょうか。

 最適化AIの応用可能性は、非常に広範囲にわたります。組み合わせ最適化は、運輸、病院、福祉、製造業や小売業などビジネス全般に活用可能です。また、連続最適化技術は人材業界やeコマース分野でのレコメンドシステムとして活用できます。

図 4. CTCの最適化理論(最適化AI)の実績例

 CTCでも、医療系専門商社における発注量の最適化計算や、ゼネコン向けの土嚢輸送計画の最適化などに取り組んでいます。通常のAIや量子コンピューティングでは捉えきれない、硬い部分を捉えられるのが最適化の強みです。最適化の手法が必要かどうかにかかわらず、課題を抱えている方はぜひCTCにご相談ください。ぜひ課題の解決手法について、一緒に考えていきましょう。

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