
業務改善、可視化|知る×学ぶ
生成AIのビジネス活用の現在地:業務効率支援から有能なコラボレータへ
わずか数年で爆発的に広まり、日々目覚ましい性能進化を遂げている生成AI。テキストだけでなく画像や音声まで扱う領域が拡大する一方、作業自動化や最適化を通じて、企業の業務のあらゆる分野で生産性向上に貢献しています。本記事では、パーソナルアシスタントとしての展望を中心に、導入メリットと課題、さらに将来像について解説します。
1. 生成AIの進化:登場から現在まで
2022年11月のChatGPTのリリースをトリガーに、生成AIは瞬く間に世界中で活用されるようになりました。大手テック企業からも次々にモデルが公開され、驚くほどの高性能化が進みました。2024年からは画像や音声のマルチモーダル対応へと領域も拡大しています。また、開発への投資額も拡大の一途を辿っているため、性能向上競争も激しさを増しています。
生成AIの活用においては、まずは触ってみようというPoCから、社内の情報活用や専門知識の組み込みに広がっています。CTCでは近年のプロジェクト開発において、Anthropic社のClaude 3.5 Sonnetを活用したプログラミングを既に実用化しています。まだAPI開発などの部品的な要素においてですが、80~90点レベルのコード生成が可能です。開発の初期段階からコードの完成度が高いのが特徴で、今後プログラム開発の標準となるでしょう。
また、企業内情報の活用で注目されたのが、検索拡張生成(RAG)です。RAGとは、大規模言語モデル(LLM)と外部データベースの検索を組み合わせた技術ですが、PoCや初期の導入では期待通りの成果が得られないケースも多く報告されました。この課題に対して、事前学習済みのLLMを特定ドメインのRAGタスクに適応させるRAFT(Retrieval Augmented Fine Tuning)という新手法により、専門的な領域に関する質問応答の際にモデルの性能向上を図るなど、専門分野での生成AI 活用を加速させる新手法が期待されています。
2. 企業における生成AI活用の傾向と事例
CTCが生成AI導入支援を行った4つの企業(IT、金融、卸売およびCTC自身)について2024年6月の利用回数と用途を集計したところ、プログラミング、インフラ、ネットワークなどの技術質問の確認や翻訳、データ処理、その他のビジネス関連の活用が80%を占める結果となりました。CTCの支援企業のため技術系の活用が多いですが、これは生成AI技術への関心が高い人々が積極的に活用したという結果です。なお業務負荷については、概算で3,300時間/月の削減効果となりました。
一方、社内情報の横断検索について多くのPoCを行った中では、2つの課題が見えてきました。企業内の情報は相当なデータ量となるため、あまりに膨大だと検索精度が上がらないことと、クラウドサービス側の検索エンジンによって精度がかなり左右されるということです。とはいえ長期的に活用していくには、これらの検索の特性を理解して社内でも啓蒙活動を実施し、最初から100%の精度を目指さないということも重要です。
企業における活用事例では、アフラック生命保険の社内向け業務支援システムがあります。RAGにより社内の業務マニュアルや資料に基づいた回答を生成したり、PDFを読み込んでその内容に基づいて回答するシステムを導入したところ、先行利用部署で平均15%の効率化を達成し、特に業務マニュアルの検索時間については30%の削減効果を実現しています。 また、ファイザー社では生成AIを医療関連コンテンツ作成業務に導入し、画像、動画、テキストなど多岐にわたるコンテンツ制作の業務負荷を大幅に軽減しました。コンテンツ作成業務において75%という顕著な効率化を達成しています。
3. パーソナルアシスタントとしての生成AI
生成AI技術の発展により、個人の日々のタスクをサポートするパーソナルアシスタント(AIエージェント)の実現が現実味を帯びてきています。日程調整、経費精算、情報収集といった日常的なタスクの自動化から、より高度な業務のナビゲーションまで、生成AIが幅広い支援を提供するようになるでしょう。
現在は部分的なタスクにおいてのみ活用されていますが、近い将来、AIアシスタントが「AI社員」のように機能し、プロジェクトメンバーとして協働する日が来るかもしれません。
(1) 生成AIが加速する「デジタルの民主化」
近年、ノーコード開発ツールなどの発展により、業務部門の従業員でも自らデジタルツールを活用して業務改善や課題解決を行う「デジタルの民主化」が進んでいます。従来の企業では、業務効率化のためのシステム開発はIT部門に依存していましたが、生成AIを活用したパーソナルアシスタントなどの拡大によってデジタルの民主化が加速し、IT部門はシステム開発からサポートやツール提供へとその役割をシフトさせていくことが予想されます。
(2) 大手テクノロジー企業もパーソナルアシスタントの開発に参入
Google社のProject AstraやApple社の次世代Siriなど、大手テクノロジー企業による開発に加えて、これらのAPIを活用した企業独自のカスタマイズ開発も広がっており、パーソナルアシスタントにはさらなる展開がみられるでしょう。
CTCでも、NTTコノキュー社の「XRコンシェルジュ」と、CTCの「対話型 AI Hubプラットフォーム「Benefitter」を組み合わせ、アバターと音声による直感的なインターフェースと、バックエンドでの豊富な情報連携を実現する次世代のパーソナルアシスタントを開発し、従来のカスタマーサポートや社内コミュニケーションを超えた革新的なユーザーエクスペリエンスの提供に取り組んでいます。

図 1. パーソナルアシスタントとしての生成AI
4. 生成AI導入で得られるメリットと乗り越えるべき課題
生成AI導入には作業効率の向上、コスト削減、クリエイティビティの拡大、スキル不足の補完、人的ミスの削減などさまざまなメリットがあります。
一方で、以下のような課題も存在しています。ただ、これらの課題は決して克服できないものではありません。組織の特性や状況に応じて、それぞれの課題に適した施策を打てば成果は必ず上がるでしょう。

図 2. 生成AI導入のメリットと課題
5. 生成AIの未来:共感AIと各種センシング技術との融合
生成AIの進化は、大手テック企業、AIメーカーを中心に今後も加速するでしょう。その一方でAIの民主化という状況も生まれており、農業や教育などIT以外の企業での開発が広がっています。日常的に利用するサービスや製品に生成AIが搭載され、当たり前のように生成AIを人々が活用する世界が実現しつつあります。
また、生成AIは人の感情を理解できないという弱点が指摘されてきましたが、すでにhume社やOpenAI社では人の感情を理解して応答する「共感AI」の研究開発が進められています。各種センシング技術との融合により、例えば以下のようなパーソナルアシスタントが今後登場すると考えられます。
- 感情認識型バーチャルアシスタント…利用者の表情、音声分析、生体センサーなどのデータを組み合わせて把握した利用者の感情状態に応じて応答
- インタラクティブ教育支援システム…学習者の表情や声のトーン、姿勢などから理解度や集中度をリアルタイムで評価し、効果的な学習を支援
- パーソナライズ健康管理システム…ウェアラブルデバイスから収集した生体データやユーザーの行動パターン、感情状態を詳細に分析し、健康管理をサポート
- 共感型カスタマーサービスAI…顧客の感情状態や過去の対応履歴を詳細に分析し、各顧客に最適な対応や解決策を提案
生成AIの優れた能力を最大限に活かすには、短期的な成果や導入コストにとらわれすぎることなく、長期的な視点での活用を検討することが重要です。同時に、組織内での勉強会の開催や啓蒙活動の実施、利用環境の改善など、実際の利用率向上に向けた具体的な施策を継続的に行うことが、生成AI技術の真の価値を引き出すカギとなるでしょう。
CTCは、お客様とともに生成AI技術の可能性を追求し、新たなビジネス価値の創造に取り組んでいきます。生成AIの活用について、お気軽にご相談ください。