コンテナ技術があらゆるアプリの標準になる|コンテナ主要ベンダーによる徹底討論(最終夜)

コンテナ技術があらゆるアプリの標準になる|コンテナ主要ベンダーによる徹底討論(最終夜)

 コンテナベンダーによる徹底討論の第1夜「4割の企業がコンテナを導入」では、クラウドネイティブ技術であるコンテナの市場動向や利用メリット、利用環境などをテーマとし、第2夜「コンテナプラットフォームベンダー主要5社の戦略と特徴」では、各社の戦略やソリューションのアドバンテージおよび独自性やコンテナ導入の課題を解決するために、具体的にどういった対策を講じているのかを明らかにして参りました。

 それらを踏まえて今回は、コンテナの今後の展開と日本企業が抱くクラウドネイティブへの期待、そこでSIerが果たすべき役割等について活発な意見が交わされました。その様子をお届けします。

 徹底討論のモデレーターは、今回も引き続きITジャーナリストの谷川耕一氏です。

コンテナ技術があらゆるアプリケーションの標準になる|コンテナ主要ベンダーによる徹底討論(最終夜)




▼ 目次
コンテナを適用した開発があらゆるシーンに広がっていく
コンテナ化は目的ではなく課題解決のための手段に過ぎない
顧客の課題解決に向けパートナーシップの強化を目指す
さまざまなお客様のビジネスをSIerの視点から支えていく




1. コンテナを適用した開発があらゆるシーンに広がっていく

 谷川  中長期的に見て、コンテナやKubernetes(K8s)を用いたアプリケーション開発は、今後どのように発展していくとお考えでしょうか。



 野崎(F5ネットワークスジャパン)  今後を占う上でキーワードとなるのは、「利用シーン」と「ユースケース」です。F5のソリューション「F5 Distributed Cloud Services」では、その名称通りコンテナは分散して使われていきます。監視カメラやIoT基盤、通信事業者のバックボーンなど、小さなデバイスでも稼働するKubernetes(K8s)の特性を生かした使い方が、これからさらに広がっていくでしょう。

 そうなればK8sは、パブリッククラウドやIoTを前提としたエッジ基盤のような環境をベースにしながら、業種や業務ごとの特定の利用シーンを想定した活用場面が生まれ、広がることで、いっそう価値が向上していくでしょう。そうなれば、今度は管理やセキュリティの一貫した可視化が必要になってきます。

 ここでもまた、オブザーバビリティが重要になってくるわけです。

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F5ネットワークスジャパン合同会社(F5ネットワークスジャパン)
アジア太平洋地域、中国、日本担当、上級エバンジェリスト 野崎 馨一郎 氏




 渡辺(ヴイエムウェア)  ユーザーは別にKubernetes(K8s)を使いたいわけではなく、「ビジネスのスピードアップを図りたい」と考えています。従って活用が広がれば広がるほど、K8sのレイヤーはますますコモディティー化して、IaaSと同じような位置付けになっていきます。ただ、すべてがK8sになるかどうかは分かりません。

 ヴイエムウェアとしてはK8sのサポートに加えて、実績のある自社のクラウドアプリケーションプラットフォームである「Cloud Foundry」をベースとした「Tanzu Application Service」との両輪で支援していく考えです。

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ヴイエムウェア株式会社(ヴイエムウェア)
マーケティング本部 チーフストラテジスト 渡辺 隆 氏




 柳原(ヴイエムウェア)  むしろアプリケーションの開発者は、今現在のKubernetes(K8s)は学ぶことが多すぎるので使わないでよいのであれば使いたくないと考えているのではないでしょうか。昔のJavaは複雑で使いにくかったのが、今では進化して格段に使いやすくなりました。K8sも同様です。

 K8s自体はますます抽象化されていって、下で稼働するインフラはなんでもOK。サービスのバックエンドでK8sが動いていて、常に同じ開発エクスペリエンスが実現できれば、それで文句なしという世界がやってくると見ています。

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ヴイエムウェア株式会社(ヴイエムウェア)
ソリューション技術本部 デベロッパーアドボケイト 柳原 伸弥 氏




 吉原(シスコシステムズ)  クラウドネイティブを実現するKubernetes(K8s)や、コンテナの利用は確実に広がっていますが、パブリッククラウドの勢いに追い付いていけない状況です。クラウドネイティブ技術の最大の特長の一つはベンダー中立な点であり、今回のような企画を通じて各社が協力して認知度が上がっていくことは、ユーザー、ベンダー双方にメリットがあると考えます。

 技術の発展・普及の中心となる組織は「Cloud Native Computing Foundation(CNCF)」で、同組織のリードのもと、各社が盛り上げながら、OSSとして発展していくことが望ましいと考えています。

 一方で、企業での利用をコンテナだけに限定される開発では窮屈です。シスコシステムズとしてはDXの加速に向けて、全体をシームレスにつなぐためのソリューションを強化し、オブザーバビリティやSRE(Site Reliability Engineering:サイト・リライアビリティ・エンジニアリング)といった領域に引き続き注力していきます。

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シスコシステムズ合同会社(シスコシステムズ)
テクニカルソリューションズアーキテクト 吉原 大補 氏




 木村(日本ヒューレット・パッカード)  あらゆるアプリケーションが、コンテナで開発されるようになるでしょう。PCやスマホのソフトも、そうなるかも知れません。すでに戦闘機や携帯基地局のアプリケーションも、コンテナ化されてきているという話が聞かれます。

 ただ、複数環境にKubernetes(K8s)が使われるようになると、クラスターが増えて管理が大変です。その点で今後注目されるのは、マルチK8s環境を一元管理できるソリューションです。さらに先には、ロケーションにかかわらず、あらゆる環境を”1つ”のK8sのクラスターとしてまとめ上げて、簡単に好きなロケーションにアプリケーションを迅速にデプロイできる未来がやってくるのかもしれません。

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日本ヒューレット・パッカード合同会社(日本ヒューレット・パッカード)
コンピュート技術部 IT スペシャリスト 木村 拓 氏




 石川(レッドハット) ) アプリケーション開発の点では、コンテナ環境の開発の中でCI/CDがこれまで以上に浸透するのではないでしょうか。CNCFが過去に実施した調査では、8割以上の人が商用環境でCI/CDをすでに利用しています。

 一方では、CDツールでデプロイすることが、多くの企業の既存のプロセスと適合するのかという問題があります。せっかく新しい仕組みが登場しても活用できないのでは意味がありません。コンテナのメリットを十分享受できるよう、技術の変化に合わせてプロセスの側を再構築するといったことも求められてくるでしょう。

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レッドハット株式会社(レッドハット)
テクニカルセールス本部 クラウドソリューションアーキテクト部
Kubernetes / OpenShift Architect 石川 純平 氏




2. コンテナ化は目的ではなく課題解決のための手段に過ぎない

 谷川  ユーザー企業は、今後どのようなことを期待して、クラウドネイティブに臨めばよいとお考えでしょうか。

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 中嶋(F5ネットワークスジャパン)  まずアジャイルにアプリやサービスを開発できるようになり、ユーザーエクスペリエンスが改善します。またアプリケーションは、どんどんマイクロサービス化していきます。ただし、クラスターが増えてサービスが大きくなると、インフラの問題でスケールできなくなる場合もあり得ます。

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F5ネットワークスジャパン合同会社(F5ネットワークスジャパン)
ソリューションアーキテクト 中嶋 大輔 氏



 そういう時は、F5の提供しているサービスを使ってエッジ側にKubernetes(K8s)のアプリケーションをシフトし、アプリケーションの配置を最適化しておけば、マイクロサービス化を利用したビジネスがうまく回るように改善できます。




 柳原(ヴイエムウェア)  コンテナ化やKubernetes(K8s)を適用することを「目的」にしてしまうと、クラウドネイティブに移行できません。コンテナ化やK8sは、あくまでクラウドネイティブに移行するための「手段」に過ぎないからです。最初にそこをはっきり理解した上で、既存のアプリケーションや新規開発をどうするかを考えていくべきです。

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 ヴイエムウェアでは、そうしたマインドセットを変革するための支援も実施しています。実際にアプリケーションを開発するユーザー企業やSIerの皆様と一緒に、クラウドネイティブにふさわしい意識変革を進めていきたいと考えています。




 吉原(シスコシステムズ)  多くの企業がDXの重要性に気づいていますが、実現できている企業は少ないようです。顧客データを分析し、顧客ニーズに合わせて迅速にアプリを改善し、顧客へより魅力的なデジタルエクスペリエンスを提供するには、クラウドネイティブへの対応が有効な手段となります。オンプレで動いていたレガシーアプリをクラウドへそのまま移行するだけではDXとは言えません。

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 AIや機械学習はコンテナの典型的なユースケースで、開発者・データサイエンティスト毎にカスタマイズした環境をコンテナで提供できます。デジタルネイティブな企業はDXを推進していますが、エンタープライズ系の企業では少々事情が違います。というのも既存のシステムがあって、それをいかにモダナイズするかが目の前の課題になっているからです。この有効な解決策が、コンテナであることはいうまでもありません。

 一方、クラウドネイティブに達している企業のユースケースで多いのは、AIや機械学習です。そこでも、コンテナが非常に多く使われています。両者の例を見ても、今後はコンテナがモダナイズから最新のテクノロジーの課題まで、幅広く解決できるプラットフォームという位置付けを得ていくのではないでしょうか。




 木村(日本ヒューレット・パッカード)  クラウドネイティブの根源は、不確実性に対応することにあります。市場や顧客、社会や経済の変化にフレキシブルかつスケーラブルにキャッチアップできるテクノロジーが、クラウドネイティブ技術だと言い換えてもよいでしょう。それだけに、新技術として導入したら、それでもう安心ではありません。システム部門としては、投資対効果の面からも、この特性をビジネスにどう生かすのか=どの領域に適用したら収益に結び付くのかを正確に見極める必要があります。

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 しかし、そんな全社的なコンセンサスを得ていたら間に合わないという場合は、ビジネスの目的は後回しにして、「意欲あるエンジニアの獲得」という目標でKubernetes(K8s)等のクラウドネイティブ技術を積極的に導入するという「発想の転換」も十分にありです。エンジニア不足が叫ばれる中で、K8sを導入するという会社の姿勢そのものが、社内エンジニアのモチベーションを上げて退職を未然に防ぎ、意欲のあるエンジニアを新規採用できる効果が期待できるかもしれません。




 石川(レッドハット)  コンテナを採用してクラウドネイティブを実現しているお客様は、そこからもたらされる成果を注意深く見ています。システム開発や運用のプロセスのあるべき姿から、現在のプロセスや組織間のコミュニケーション、役割や責任の分担をどう変革すべきかを最初に考え、そこにコンテナやクラウドといった技術を当てはめてゆくのが成功への道です。

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 多くの企業にとって、オープンソースやクラウドネイティブにうまく付き合っていくことには難しさもありますが、コンテナが生まれた初期からこうした問題に取り組んできたレッドハットであれば、組織づくりも含めて支援できると自負しています。




3. 顧客の課題解決に向けパートナーシップの強化を目指す

 谷川  中長期的な予測や展望を踏まえた上で、CTCにはシステムインテグレータとしてどのようなことを期待していますか。

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 野崎(F5ネットワークスジャパン)  私たちの仕事のすべての原動力は、お客様の「ビジネス課題の解決」です。K8sはまさにその点でデジタル化においては最適な技術ですが、その実力を十二分に生かすためにも、まず私たち自身がお客様の課題を明確に捉えることが重要です。

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 ただ、技術の習得や実環境への展開に注力する現場の部門だけでは、これはなかなか難しいことかもしれません。

 その点で、今後はCTCと一緒にビジネスの目線でお客様の課題の根源を見極め、より解決に貢献できる提案をしていきたいと思っています。




 渡辺(ヴイエムウェア)  CTCにはマルチベンダーを束ねてもらい、業界を挙げて日本企業にコンテナ化を働きかけることで、わが国の企業の競争力を高めていきましょう。今まではコンテナとかマイクロサービスなどを提案しても、考え方を理解するのが難しく、かえってハードルを上げていたのかもしれません。

 今後はCTCの「テクニカルソリューションセンター(TSC)」での検証など実地の体験を通して、こんなに簡単にできるというところをお客様に積極的に伝えてもらいたいですね。

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国内最大級のマルチベンダー検証環境、 TSC(テクニカルソリューションセンター)




 吉原(シスコシステムズ)  一般の企業の場合、Kubernetes(K8s)環境の構築から運用まで、すべてを外部の専門家に委託するケースも少なくありません。まさにそこは、CTCのようなSIerの出番です。

 特にマルチベンダーを標榜するCTCにとっては、CNCFのようなベンダー中立のクラウドネイティブは相性が良いはずです。クラウドの勢いに負けないように、コンテナを盛り上げていってもらいたいですね。

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 木村(日本ヒューレット・パッカード)  コンテナプラットフォームベンダーが何社もある中で、どのディストリビューションが自社に合っているのか、判断できずに困っているお客様のケースも増えています。

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 数多くのKubernetes(K8s)ディストリビューションを扱うCTCには、お客様のビジネスやIT要件にどれがフィットしているかを判断して、的確な提案をしてほしいと思っています。ベンダーニュートラルな立場から、お客様に寄り添った提案を期待しています。




 石川(レッドハット)  CTCであれば、幅広い業種・業態のお客様の課題が理解できるはずです。私たちもパートナー企業として、組織変革の提案などで貢献できると思っています。またCTCの中期経営計画「Beyond the Horizons ~その先の未来へ~」の3つの基本方針の一つ、「Accelerate」にうたわれている「先端技術を使った顧客業務の変革」は、まさにコンテナやKubernetes(K8s)を含むクラウドネイティブへの取り組みそのものです。

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 レッドハットのゴールもまた、お客様のビジネスの成功です。これからもお互いに協力しながら、この目標に向けた歩みを加速させていきましょう。




4. さまざまなお客様のビジネスをSIerの視点から支えていく

 谷川  皆さんの要望に対して、CTCとしてはどんな考えをお持ちでしょうか。




 池永(CTC)  当社が目指しているのは、お客様に寄り添った製品やサービスの提供です。お客様のDXの支援は「build service」、ニュートラルな立場でクラウドネイティブを支援するサービスとしては「C-Native」、また技術検証の場である「テクニカルソリューションセンター(TSC)」など、DX 推進に必要なすべてのプロセスに対応するソリューションがそろっており、お客様のステージに合わせた最適かつ効果的な提案が可能です。

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伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(CTC)
マネージドサービス企画・推進事業部
事業部長代行 池永 直紀



 今回のパネルディスカッションではコンテナにフォーカスしましたが、重要なのは「お客様が何をしたいのか」ということです。要望や目的が何であれ、必ず課題を解決し目的を実現する。そこにフレキシブルかつスケーラブルな特性を備えた、コンテナビジネス環境がマッチしてくるのだと思います。

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 谷川  市場やITが絶え間なく変化していく中で、CTCの立ち位置や存在意義も変わり続けていくことになります。



 池永(CTC)  日本は欧米と異なり、プロジェクトにおいてSIerの占める比重が大きく、それは今後も変わりません。それだけに私たちこそが、より一層お客様のビジネスに寄り添って考えていく使命があると考えています。

 5Gの普及によって、ビジネスモデルの変革、アプリケーションの実装環境が変化していく事は確実です。もちろんそれに連れて、ITプラットフォームも変わっていきます。こうした時代の変化に確実に対応できるSIerとして、これからもお客様に継続したサービスを提供し、伴走していきたいと願っています。




さいごに

 三夜に渡るコンテナプラットフォーム主要ベンダーによる徹底討論の最終夜は、コンテナの今後の展開と日本企業が抱くクラウドネイティブへの期待、そこでSIerが果たすべき役割等について明らかにしました。

 今後も引き続きクラウドネイティブというテーマでのお役立ち情報を発信してまいります。

 コンテナプラットフォーム主要ベンダーによる徹底討論の第一夜と第二夜の模様については以下よりご案内します。

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