CIOが語る、SAP ERPの中身に手を入れずにUI/UXを飛躍的に向上させる方法

CIOが語る、SAP ERPの中身に手を入れずにUI/UXを飛躍的に向上させる方法

 事業環境の変化にスピーディかつ柔軟に対応するため、基幹システムはできるだけERPの標準機能だけで実現する。このような「Fit to Standard」の重要性が、日本でも強く認識されるようになってきました。

 しかしSAP ERPの標準機能だけでは、十分な使いやすさを実現しにくいことも事実。多くの日本企業が直面するこのジレンマを解消するため、CTCが提供しているのが「Figues(フィグ)」です。

 ここではFiguesの概要を説明した上で、その具体的な活用事例として、株式会社キッツの事例をご紹介します。




▼ 目次
「Fit to Standard」で直面する課題を「3つのつなぐ」で解決するFigues(フィグ)
標準化にこだわりSAP ERPをグローバル導入。しかしSAP ERP特有の操作性が大きな問題に
負荷の高い6つの業務でPoC開発を実施。その後短期間で内製化の体制を確立
20分のオペレーション時間がわずか3分に。ユーザーもかつてなかったほど高く評価




1. 「Fit to Standard」で直面する課題を「3つのつなぐ」で解決するFigues(フィグ)

 これまで多くの日本企業は、SAP ERPを導入する際に独自のノウハウを盛り込むため、様々なアドオンを開発・実装してきました。

 これはユーザーにとっての使いやすさや業務生産性を高める上で大きな貢献を果たしてきましたが、テクニカルコンバージョンを行う際にアドオンへの影響調査や手直しを行う必要が生じるため、膨大な労力がかかってしまうという問題につながっていました。

 また事業環境の変化に対してスピーディに対応する上でも、膨大なアドオンは大きな障壁になっています。このような経験から、DXを迅速に推進していくには、できる限りSAP ERPの標準機能だけで基幹システムを構成する、「Fit to Standard」の実践が重要であるという認識が広がっています。

 しかし標準機能のままでは使いにくい、というユーザーの声があることも事実です。またDXを推進するには、基幹システムと周辺システムとの柔軟な連携も不可欠。そしてこれら一連の取組みをIT部門が高い専門性と深い知見に基づいて、主体的に意思決定&推進していく取組みも重要な課題となります。

 SAP ERPの中身にはできるだけ手を入れることなく、ユーザーの利便性向上や周辺システムとの連携に必要な開発を、人的負担を増やすことなく内製で行うには、どうすればいいのか。多くの日本企業が直面するこのような課題に応えるのが、CTCが提供する「Figues」です。

 Figuesは「3つのつなぐ」をコンセプトとするソリューションとサービスです。



CIOが語る、SAP ERPの中身に手を入れずにUI/UXを飛躍的に向上させる方法
図1.「つなぐ②」において、UI/UXを改善するツール「Liquid UI」活用で成果を上げた株式会社キッツ




 第1は「ERP基幹システムと他システム/サービスをつなぐ」こと。標準機能で足りない部分は、アドオンに頼ることなくWebAPIで周辺システムと連携し実現します。

 第2は、「基幹システムと利用部門をつなぐ」こと。FiguesはSAP ERPのUI/UXを改善し、生産性を向上させるソリューションをご用意しています。

 第3は「基幹システムとIT部門をつなぐ」こと。激しい事業環境の変化の中で、お客様の目指すビジネスの実現には、ITの活用がカギとなります。ITの最新トレンド、検討、導入、活用、効果性については、社内のIT部門における専門性・知識力・実効性が必要とされます。Figuesは、お客様企業のIT部門へ知見や技術をトレーニングや教育支援をご提供することで、IT部門を伴走支援いたします。

 これらの「つなぐ」のうち、第2の「つなぐ」によってUI/UXを改善したのが、株式会社キッツ(以下、キッツ)です。

 では具体的にどのような取り組みが行われたのでしょうか。




2. 標準化にこだわりSAP ERPをグローバル導入。しかしSAP ERP特有の操作性が大きな問題に

 キッツはバルブを中心とした、流体制御機器の製造販売を行うB2B企業です。取扱製品数は約9万種類と業界最大級となっており、グローバルにビジネスを展開しています。同社の製品は、水や石油、ガス、水素といった流体を扱う配管の多くで利用されており、上下水道、一般建築建物、工場やプラント設備はもちろんのこと、電車の車両や船舶、航空機の配管にも実装されています。まさに社会的なインフラを下支えする「縁の下の力持ち」的な企業だといえるでしょう。

 そのグローバル展開について「1980年代から進めてきましたが、2009年からその動きを一気に加速させました。」と語るのは、キッツ 執行役員 CIO でIT統括センター長も務める石島 貴司 氏。


CIOが語る、SAP ERPの中身に手を入れずにUI/UXを飛躍的に向上させる方法
株式会社キッツ 執行役員 CIO
IT統括センター長
石島 貴司 氏




 製品ラインナップや市場拡大を目的に、販売拠点の新規立ち上げや海外製造会社のM&Aなどを、この頃から積極的に行ってきたと言います。「これと並行して進めてきたのが、グローバル経営を支える基幹システムの再整備です。すでにメインフレームで運用していた基幹システムが老朽化していたこともありますが、グループグローバルの情報の可視化やサプライチェーンの最適化、効率的で効果的な製品設計のためには、グローバル視点でシステムを再構築することが不可欠だと判断しました」。

 ここでまず行われたのが、長期的に「あるべきビジネスモデル」を検討した上で、複数のERP製品の評価を行うことでした。その結果、最終的にSAP ERPのグローバル導入を決定。先行して海外の新規拠点や国内のグループ会社への導入を行い、その後キッツ本体への導入に着手、2019年5月に全工場を含めた一斉立ち上げを実施したと説明します。

 「SAP ERPの導入にあたっては、とにかく標準化にこだわりました」と石島氏。その結果、SAP ERPの標準化率は80%に達し、アドオン数はわずか205に抑えられたと言います。「機能数はメインフレーム時代の1/3に抑制、グループグローバルで1インスタンスの運用をしていることも大きな特徴です。世界的に見ても、かなり理想に近いERP導入ができたと自負しています」。


CIOが語る、SAP ERPの中身に手を入れずにUI/UXを飛躍的に向上させる方法




 このようなSAP ERP導入によって、追加の工数や問題を発生させることなく、決算期をグローバルで統合。サプライチェーンに関わる情報をタイムリーかつグローバルに把握できるようになり、的確な経営判断も容易になりました。しかしその一方で、新たな課題も顕在化することになったと言います。

 「残念ながら新システムの習熟度の不足や、SAP ERP特有の操作性の悪さ、マスターデータ維持工数増などにより、業務の効率化や出荷・在庫管理、納期回答などでは、期待効果を得るまでには至りませんでした。特に生産・物流系は、現場で標準のSAP ERPを使っていたので、その使いにくさが大きな問題になっていたのです」。




3. 負荷の高い6つの業務でPoC開発を実施。その後短期間で内製化の体制を確立

 基幹システム再構築の完了後に「働き方大改革」に取り組んだことも、これらの問題をユーザーに強く意識させることになりました。

 特に生産部門では、それまで紙を使った業務が数多く残っていたため、ペーパーレス化や自動化の推進をIT部門とタッグを組んで組織的に推進。その結果、生産現場でIoTやロボットを活用することでスマートファクトリーを目指そうという機運が高まる一方で、タブレットなどでもっと効率的に基幹システムを使いたいという要望も高まっていきました。しかしSAP ERP特有の操作性を改善するためにアプリ開発やアドオン開発を行うのでは、多くの工数とコストがかかってしまいます。何かいい方法はないかと探していたところに出会ったのが、FiguesのUI/UX改善ツールとして提供されている「Liquid UI」だったと石島氏は振り返ります。

 「石島から紹介を受け、ツールのメーカーであるシンアクティブ日本支社と打ち合わせを行った上で、2021年2月にツールのレビューを開始しました」と語るのは、キッツ IT統括センター ビジネスシステム部でIT技術・製造グループ長を務める井出 征峰 氏。


CIOが語る、SAP ERPの中身に手を入れずにUI/UXを飛躍的に向上させる方法
株式会社キッツ
IT統括センター ビジネスシステム部
IT技術・製造グループ長
井出 征峰 氏




 その結果、SAP ERPオペレーションの簡素化や、生産現場などで求められているタブレットの活用、ペーパーレス化やデジタル化の推進などを、少ない工数で実現できると評価したと言います。そこで2021年2月末には、業務負荷の高い生産管理に関係する6つの業務をモデルケースとして取り上げ、CTCとシンアクティブに対してPoC的な開発発注を実施。これらの具体的な業務内容は以下のとおりです。




CIOが語る、SAP ERPの中身に手を入れずにUI/UXを飛躍的に向上させる方法
図2.Liquid UIを使用したSAP ERPの業務画面の改善例①




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図3.Liquid UIを使用したSAP ERPの業務画面の改善例②




 「これらの業務画面では、大きく2つの問題が発生していました」と井出氏。まず1オペレーションで複数の画面遷移が発生しており、そのために操作が難しくなり、入力ミスやオペレーション工数の増大につながっていました。またSAP ERPの汎用性ゆえに自社では利用しない入力項目やメニュー、タブが数多く表示されており、入力ミスを誘発し紛らわしいと、ユーザーから指摘されていたと言います。

 「Liquid UIの導入にあたり、このプロジェクト完了後は社内で開発できる体制の確立も視野に入れ、外部開発の期間は2ヶ月間に限定しました。当初はこの短期間で6業務の画面改善をやり切れるのか不安でしたが、CTC様やシンアクティブ様のご支援もあり、予定通り完了しました。これによってLiquid UIの開発容易性が裏付けられたと思っています」(井出氏)。

 開発終盤の2021年5月末には、CTCの支援のもと社内教育も開始しています。その後も定着化やクラスルームトレーニングを行い、2021年7月には内製化できる体制を確立。検討開始からわずか半年で、ここまで行き着いているのです。



Figues



4. 20分のオペレーション時間がわずか3分に。ユーザーもかつてなかったほど高く評価

 それではLiquid UIによるSAP ERPの画面改善は、どのような効果をもたらしたのでしょうか。

 まず1オペレーションで複数の画面遷移が発生していた業務は、1つの画面に統合してオペレーションを行うことが可能になりました。また1画面に表示する項目やメニュー、タブも、自社で使うものだけが表示されるようになっています。これによって、以前は約20分かかっていた試作登録画面のオペレーション時間は、わずか3分へと大幅に短縮。他の業務も以前は平均5~7分かかっていましたが、これらも3分程度で終わるようになっています。これらの時間短縮を金額に換算すると、年間837万6000円の削減に相当すると井出氏は説明します。


CIOが語る、SAP ERPの中身に手を入れずにUI/UXを飛躍的に向上させる方法




 しかし得られた効果は、このような生産性の向上だけではありません。ユーザーからの評価も極めて高いと言います。

 「生産現場のユーザーに評価してもらったところ、5段階評価で平均4.7という結果になりました。これはかつてないほど高い評価です。実際のユーザーの声としても『手間が省けそう』『一画面で処理が完結できるので良い』『画面があちこち変わらなくて良い』『楽になった』といった感想をいただいています」。

 プロジェクトそのものに対しても、「満足の行く機能を実現できた」「課題の解決能力とスピードが速かった」「開発経験のない要求部門でもわかりやすく開発を進められた」といった感想が寄せられています。「褒め過ぎではないかと思うくらいですが、これが要求部門から寄せられた実際の声です。かなり好印象であることがわかります」。

 今後はタブレット利活用によるペーパーレス化や、実績入力のリアルタイム化による「情物一致」や在庫精度の向上などを実現し、スマートファクトリーへの取り組みを加速していきたいと井出氏。またLiquid UI開発の内製化を、生産部門だけではなく物流部門や営業部門などにも拡大してきたいと語ります。

 また石島氏は次のように、より長期的な将来展望について言及しています。

 「弊社は2022年2月に新経営計画である『Beyond New Heights 2030』を発表しましたが、そこで挙げられている最重要課題は、デジタル業界やグリーン業界へのビジネス拡大です。そのためには全く異なる新製品を新市場にどんどん投入する必要があり、マーケティングや営業、サプライチェーンなど、ありとあらゆる変革が求められるようになります。業務全体のプロセスから見ると、受注から生産、デリバリー、設計開発のコアとなるサプライチェーンは、現在の基幹システムでカバーできていますが、非効率な部分はまだ存在しています。生産現場のスマートファクトリー化はもちろんのこと、他の領域の改善もLiquid UIをどんどん使い倒すことで、推進していきたいと考えています」。

 このようにキッツは、Figuesのソリューションラインアップの1つであるLiquid UIを活用することで、SAP ERPの「Fit to Standard」と、ユーザーの利便性・生産性の向上を、見事に両立させています。このような取り組みは他のSAP ERPユーザー企業にとっても、参考になるはずです。




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