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モダナイゼーションとは|求められる理由とは
技術的に古くなったレガシーシステムを、最新技術や新たな製品・サービスを活用して刷新(モダナイゼーション)したい。
このような「モダナイゼーション」へのニーズが、ここ数年で急速に高まっています。
なぜ、モダナイゼーションが求められているのでしょうか。
その具体的なアプローチは、どのようなものがあるのでしょうか。
そこで本記事では、モダナイゼーションのわかりやすく解説すると共に、求められている理由から情報システム担当者がおさえておくべきモダナイゼーションの種類についてご紹介します。
▼ 目次
・モダナイゼーションとは
・モダナイゼーションが求められている理由とは
・クラウド移行を伴うモダナイゼーション
・モダナイゼーションの種類
・運用のモダナイゼーションの見落とし注意!
1. モダナイゼーションとは
モダナイゼーション(Modernization)とは、日本語に直訳すれば「現代化」と表すことができ、その意味は、ビジネスの競争力の強化を目的に「従来から稼働しているソフトウェアやハードウェア等の資産を、最新の技術や製品、設計で刷新する活動」を指します。
ITの現場で例えると、業務スタイルに合わなくなってきたアプリケーションや旧来のメインフレームなどのように、一昔前の技術で構成されていた「レガシーシステム」を、クラウドやコンテナなどの最新技術を用いて刷新することをすることを、ITモダナイゼーションと言います。
それではモダナイゼーションの対象となるレガシーシステムとは、どこまでの範囲を指すのでしょうか。
以前はメインフレームやオフコンなど、1970年代~1990年代に導入・構築されたシステムを意味することが一般的でした。
しかし最近ではその範囲が拡大しています。
メインフレームやオフコンだけに限らず、UNIXやLinux、Windowsで構築されたシステムも、レガシーシステムだと認識されるケースが増えているのです。
また極端な場合には、オンプレミスの仮想化環境すら「レガシー」だと考えるケースもあります。
このように「レガシーシステム」の範囲が拡大してきたのは、これらにいくつかの共通項があるからです。
その共通項を列挙すると、以下のようになります。
- 複雑化、肥大化
- アプリケーション機能の追加や修正によって、複雑化・肥大化が進んでいる。アプリケーション全体を一枚板のように作り上げる「モノリシック型」の開発では、このような状況になりやすい。
- ブラックボックス化
- 開発担当者が部署替え・退職などによっていなくなり、設計内容がブラックボックス化している。開発担当者が残っている場合でも、設計書に不備があれば、ブラックボックス化しやすくなる。
- 柔軟性や俊敏性の欠如
- システム基盤をオンプレミスのハードウェアに依存しており、能力の増強や拡張が行いにくく、柔軟性や俊敏性に乏しい。
- データ連携や最新技術適用の難しさ
- 上記3つの理由から、アプリケーション間でのデータ連携や、最新技術の適用が難しい。その結果、社内に膨大なデータを蓄積しても、それを十二分に活かせない状況になっている。
- 運用負荷の増大
- 複雑なオンプレミスシステムであるため、システム運用負荷が大きくなりやすい。これがIT人材難に拍車をかけている。また複雑で運用負荷の大きいシステムでは、セキュリティ面での問題も生じやすくなる。
以上の観点から見ていくと、レガシーシステムはメインフレーム系システムだけに限らないことが、明確に理解できるのではないでしょうか。
「複雑化や肥大化」、「ブラックボックス化」、「柔軟性や俊敏性の欠如」、「データ連携や最新技術適用の難しさ」、「運用負荷の大きさ」という特性を持っているシステムは、オープン系システムでも数多く存在します。
またVMwareなどで仮想化されたシステムでも、同様の状況に陥る危険性があるのです。
2. モダナイゼーションが求められる理由とは
これらの特性を持つレガシーシステムの問題点が意識されるようになったのは、DXへの取り組みが本格化した結果だと言えます。
DXへの取り組みを加速していくには、既存システムに費やされるリソースを最小化し、新たなシステムやサービスに投入できるようにしなければなりません。
しかし社内にレガシーシステムが存在する状況では、その運用に大きなリソースが費やされてしまいます。
またハードウェアの老朽化などに伴い、定期的なシステム更改も必要になり、その負担も無視できません。
これらの問題点を浮き彫りにしたのが、経済産業省が2018年9月に発表した下記のレポートと言えるでしょう。
- DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~
このレポートでは、複雑化・ブラックボックス化した既存システムがDXを阻害する大きな要因になっており、これによって2025年以降には最大12兆円/年の経済損失が生じる可能性があると指摘した上で、これが「2025年の崖」であると述べています。
特に注目したい点は下記の3 つです。
- 既存システムの維持管理費が高額化
- 既存システムの維持管理費は、IT予算の9割以上になる可能性があると言及されている
- IT人材に投入されるコストも含む
- IT人材不足
- IT人材不足も深刻になり、2025年には約43万人が足りなくなると述べてられている
- IT人材の不足によって、サイバー攻撃やシステムトラブルに伴うデータ損失等のリスクが高まる
- 市場や顧客ニーズへの即応
- 柔軟性や俊敏性が欠如したままでは、市場や顧客ニーズの変化に素早く対応できない
- IT投資や人材の観点からだけではなく、システムそのものがDXを阻害する要因になってしまう
これらの問題を根本から解決するために、モダナイゼーションが求められているのです。
3. クラウド移行を伴うモダナイゼーション
モダナイゼーションと一口に言っても、具体的なアプローチは複数存在します。
その具体的な内容や呼び方についても、複数の見解があるようです。
例えば「リプレース、リホスト、リライトの3種類」述べている記事もあれば、「リホスト、リライト、リビルドの3種類」と述べている記事も存在します。
しかし、1つの前提を付け加えると、モダナイゼーションの全体像がわかりやすくなります。
それは「クラウド移行を伴う」という前提条件を付けてしまうのです。
正確に言えばモダナイゼーションは、必ずしもクラウド移行を伴う必要はありません。
現状のオンプレミスシステム全体がレガシーシステムだという認識が広がっており、そこから脱却するには「システム全体のクラウド化、あるいは一部をオンプレミスに残して他はクラウド化する」流れになっていることから、結果として、最近のモダナイゼーション事例のほとんどは、クラウド移行を前提となっています。
また、クラウド移行は以下のメリットをもたらすため、モダナイゼーションの効果が期待できるのです。
- ハードウェアの調達・運用から解放される
- システムリソースの増強や縮小が容易
- 各種マネージドサービスの活用やコンテナ化が容易
- AIなどの最新技術の活用が容易
では、クラウド移行を前提にしたモダナイゼーションに焦点をあて、「調査会社のガートナー」と「ハイパースケーラであるアマゾン ウェブ サービス(以下、AWS)」におけるクラウド移行を伴うモダナイゼーションへのアプローチを見てみましょう。
4-1. ガートナーが提示するモダナイゼーションへのアプローチ
以下は、ガートナーが提示するクラウド移行を伴うモダナイゼーションへのアプローチです。
- リタイヤ:システムの廃止
- サービスが終了するタイミングでシステムを停止・破棄する
- リテイン:システムの維持(塩漬け)
- 現状のシステムに変更を加えず、そのまま稼働させ続ける
- リホスト:インフラの変更
- アプリケーションの稼働基盤をオンプレミスサーバーからIaaSへと移行する
- リビルド:アプリケーションの再構築
- 既存アプリケーションをロジックレベルから見直し、再構築する
- リバイス:一部改修
- 既存システムのアーキテクチャを維持しながら、クラウド移行の準備のために機能の追加・修正を行う
- リプレース:SaaS/パッケージへの移行
- 既存アプリケーションが提供していた機能を、同等機能を実装したSaaSやパッケージソフトに移行する
- リファクタ:コースコードの改善
- 既存のアーキテクチャやアプリケーションの仕様には手を付けず、クラウドと連携させるために一部ソースコードを修正する
4-2. AWSが提示するモダナイゼーションへのアプローチ
以下は、ハイパースケーラであるAWSが提示するクラウド移行を伴うモダナイゼーションへのアプローチです。
- リタイヤ
- タイミングを見てシステムを廃止する
- リテイン
- クラウドに移行せずにそのまま残す(塩漬け)
- リロケート
- VMware Cloud on AWSによって、既存の仮想化基盤をそのままAWSに移行する
- リホスト
- 既存のオンプレミスのアーキテクチャをそのままIaaSに移行する
- リプラットフォーム
- AWSへの移行時にOSやミドルウェアをバージョンアップする、RDBMSをAWSが提供するサービスへと移行する、商用製品からOSSへと移行する、等
- リファクタリング
- アプリケーションやアーキテクチャの見直し・再設計を行い、クラウドならではのマネージドサービスやサーバーレス技術等を取り入れることで、クラウドネイティブな形へと最適化する
- リパーチェス
- 既存アプリケーションの機能を、同等機能を装備したSaaSやパッケージソフトに移行する
4. モダナイゼーションの種類
前述したガートナーとAWSが提示する「クラウド移行に伴うモダナイゼーションへのアプローチ」には、共通点があることがわかります。
これらを整理すると、以下の4つにまとめられそうです。
- リタイヤとリテイン
- ガートナーの「リホスト」、AWSの「リロケート」や「リプラットフォーム」
- ガートナーの「リビルド」と「リファクタ」、AWSの「リファクタリング」
- ガートナーの「リプレース」、AWSの「リパーチェス」
これらのうち「リタイヤ」と「リテイン」を除けば、いずれもモダナイゼーションの一種として解釈でき、下記の通りに整理できます。
- インフラのモダナイゼーション
- アプリケーションのモダナイゼーション
- 業務のモダナイゼーション
4-1. インフラのモダナイゼーション
下記は「クラウドリフト」・「マイグレーション」の一種であり、インフラレベルのモダナイゼーションと言えます。
- ガートナーの「リホスト」
- AWSの「リロケート」や「リプラットフォーム」
ただし「最新技術によって既存システムの構造を変革する」といったものではないため、狭義のモダナイゼーションには含めないのが一般的です。
ハードウェアの調達や運用負担を軽減できるという点で、レガシーシステムの問題点の一部を解消します。
4-2. アプリケーションのモダナイゼーション
下記は、既存システムの構造やアーキテクチャを見直し、最新技術を取り込むことができるため、アプリケーションレベルにまで踏み込んだモダナイゼーションだと言えます。
- ガートナーの「リビルド」と「リファクタ」
- AWSの「リファクタリング」
PaaSなどのマネージドサービスの活用や、コンテナ技術の活用によるマイクロサービス化、アプリケーション機能の疎結合のためのAPI実装などが、この領域に含まれます。
4-3. 業務のモダナイゼーション
下記は、レガシーシステムの問題を最も抜本的に解決できる手法であり、業務レベルでのモダナイゼーションだと言えます。
- ガートナーの「リプレース」
- AWSの「リパーチェス」
業務内容そのものを見直した上で、既存アプリケーションを「全く異なるもの」へと移行する、というアプローチです。
SaaSやパッケージソフトを活用することで、アプリケーションを完全に外出しでき、モダナイズの対象となるアプリケーションやシステムが、「リタイヤ」と同様に結果的に消失します。
5. 運用のモダナイゼーションの見落とし注意!
モダナイゼーションには、レガシーシステムの問題点を解決するという観点から見ると、分類できることがわかります。
見落とせない点として、単にシステム基盤やアプリケーションを変えるだけでは不十分だと言うことです。
レガシーシステムの最大の問題の1つは、運用負荷の増大です。
ここをきちんと解決できない限り、モダナイゼーションも中途半端なものに終わってしまいます。
ここで留意すべきことは「モダナイゼーションによってマルチクラウド化が進むことで、実は運用管理も複雑化しやすくなる」ということです。
既存のオンプレミスシステムに加えて、クラウドシステムも運用管理しなければならないため、これは当然のことだと言えます。
また、クラウドのマネージドサービスやコンテナ基盤を活用する場合には、オンプレミス時代とは異なる運用手法を理解しなければなりません。
モダナイゼーションで運用負荷が大きくなってしまうのであれば、本末転倒です。
この問題を解決するには、以下の観点から運用を見直していく必要があります。
- オンプレミスとクラウドで共通化された運用方法をどう実現するか
- コンテナなどの新技術を取り込んだクラウドネイティブな環境の運用手法を、どのように既存の運用プロセスに取り込むのか
- 運用全体の人的負担を軽減するため、いかにして自動化・自律化を進めていくのか
- 自社で賄えない人的リソースを、いかにして調達・活用するのか。そのためにどのようなパートナーと手を組むべきなのか
レガシーシステムのモダナイゼーションは、このような運用管理のモダナイゼーションとセットで進めていく必要があります。
これによってはじめてレガシーシステムの問題を全体として解決でき、「2025年の崖」を飛び越えられるようになるのです。
まとめ
本記事のポイントをまとめると以下のようになります。
- モダナイゼーションの対象となるレガシーシステムの範囲が拡大している。これらには以下のように、いくつかの共通点がある
- 複雑化・肥大化
- ブラックボックス化
- 柔軟性や俊敏性の欠如
- データ連携や最新技術適用の難しさ
- 運用負荷の増大
- レガシーシステムの問題が注目されるようになった背景には、DXの進展がある
- レガシーシステムをそのままにしておくと、DXへの投資が難しくなり、人材不足も緩和できない。またシステムそのものがDXを阻害する要因になってしまう
- 何をもってモダナイゼーションとするかに関しては、複数の見解がある。しかし「クラウド移行を前提」にすることで、整理しやすくなる
- ガートナーとAWSは、それぞれクラウド移行の7つのアプローチを提示している。これらを整理すると、大きく4つの内容にまとめられる
- 移行を行わない
- マイグレーション:インフラレベルでのモダナイゼーション。
- リビルド/リファクタリング:アプリケーションレベルでのモダナイゼーション
- リプレース:業務レベルでのモダナイゼーション
- ただし狭義のモダナイゼーションに相当するのはリビルド/リファクタリング
- 一般的には、マイグレーションやリプレースはモダナイゼーションと呼ばないことが多い
- モダナイゼーションを行う場合には、運用のモダナイゼーションをセットで進める必要がある。クラウド化を伴うモダナイゼーションではマルチクラウド化が必至であり、そのままでは運用管理の負担が増大し、本末転倒になってしまうからである
今回の記事で特に訴えたいのは、下記の 3 点です。
- 広い意味でのモダナイゼーションは複数のアプローチがある
- その全体像を知っておくことで最適なアプローチを意識的に選択できるようになる
- インフラやアプリケーションだけではなく運用もモダナイズする必要がある
これらに配慮することで、モダナイゼーションの成果を引き出しやすくなるはずです。