AWS DeepRacerとは|楽しみながら強化学習を攻略しよう

AWS DeepRacerとは|楽しみながら強化学習を攻略しよう

 原動機の動力によって車輪を回転させ、軌条や架線を用いずに路上を走る工業製品を自動車と呼ぶ。

 最初の自動車は 1769 年に登場したキュニョー(Cugnot)の砲車。フランス陸軍が製作した蒸気機関で走る蒸気自動車であった。

 テクノロジーの歴史は成功と失敗の繰り返し。砲車は、前輪荷重が重すぎるという課題を抱えていた。そのため旋回性能が低く、最高速度が時速約 3km であったにも関わらず、塀に衝突した。かくして人類初の自動車は、同時に自動車事故の第一号となった。

 技術は長い歳月をかけて磨かれ、様々な自動車が世に送り続けられた。レーシングカーは、その最たるもの。日々の生活では役立たないが、最速を求める技術者達の成果。


 そしてレーシングカーは、自ら考えて走る時代へ。


 クラウドとAI(人工知能 ; Artificial Intelligence)による自走システムを搭載したレーシングカー「AWS DeepRacer」の登場だ。

 本記事では、AWS DeepRacer の概要についてお伝えする。




▼ 目次
1. AWS DeepRacerとは
2. AWS が DeepRacer をリリースした背景
3. AWS DeepRacer League の開幕


1. AWS DeepRacerとは

 AWS DeepRacer とは、強化学習 (RL : Reinforcement Learning) によって自走する 1/18 スケールのレーシングカーの名称で、強化学習モデルの作成を身近に体験できるキットである。

 強化学習モデルはクラウド上の 3D レーシングオンラインシミュレーターにて作成でき、作成したモデルを AWS Deep Racer にデプロイできる強化学習は機会学習の一種で、ユーザーは予め簡単あるいは複雑な報酬関数を用意できる。AWS DeepRacer の強化学習モデルは一連の行動を通して、多くの報酬を得られるように次のアクションを選択しながら学習を重ねていく。之に加え AWS DeepRacer は、車体に搭載させたセンサーを利用して、速度や車体の向き等を検出しながらサーキットを自走する


DeepRacer



 AWS DeepRacer は靴箱くらいの大きさで、丸みをおびたかわいらしい外観が印象的だ。ホイールベースは極端に短かく、低速域における旋回性能は高そうに見える。次に AWS Deep Racer の主な仕様を紹介する。



DeepRacer

図 1. AWS DeepRacer 外観


  • シャーシ
    • 1/18 スケールの 4WD モンスタートラックシャーシ
  • ソフトウェア
    • Ubuntu OS 16.04.3 LTS、Intel OpenVINO ツールキット、ROS Kinetic
  • CPU
    • Dual Core の Intel Atom プロセッサ
  • メモリ
    • 4GB RAM
  • ストレージ
    • 32GB (拡張可)
  • 走行用バッテリー
    • 7.4V/1100mAh リチウムポリマー
  • コンピュータ用バッテリー
    • 13600mAh USB-C PD
  • カメラ
    • MJPEG の 4MP の HD (高精細度ビデオ : High Definition) カメラ
  • センサー
    • 統合済みアクセレロメーターとジャイロスコープ(速度を測定、車体の向きを検出する)
  • Wi-Fi
    • IEEE802.11ac
  • ポート
    • 4x USB-A、1x USB-C、1x Micro-USB、1x HDMI



 さらに、AWS DeepRacer は下記と統合されている。

  • Amazon SageMaker
    • 強化学習モデルのトレーニング
  • AWS RoboMaker
    • レーシングシミュレーターの提供
  • Amazon Kinesis Video Streams
    • 仮想シミュレーション記録映像の動画再生
  • Amazon S3
    • モデルのストレージ
  • Amazon CloudWatch
    • ログ収集



 AWS DeepRacer の強化学習モデルの作成と学習トレーニングは、AWS DeepRacer Distributed Training SageMaker Notebook を用い、手動でのデプロイが可能だ。






2. AWS が DeepRacer をリリースした背景

 AWS DeepRacer は AWS の学習とトレーニングの年次カンファレンス「AWS re:Invent 2018 (2018/11/26 - 30)」にて発表された。AWS の CEO、Andy Jassy 氏は同イベントの基調講演にて AWS DeepRacer を披露するとともに、AWS DeepRacer に込めたメッセージを語った。


 2017 年に AWS は、機会学習 (ML : Machine Learning) を "身近に体験できて扱い易いもの" とするべく、AWS SageMaker をリリースしました。

 AWS SageMaker は、データサイエンティストや開発者が機械学習モデルをあらゆる規模に、迅速かつ、これまでになく簡単に構築、トレーニング、デプロイできるようにするマネージド型サービスです。


 次に AWS は、強化学習について取組むことにしました。


 「すべての人々が強化学習の実体験を得るために、AWS は何ができるのか?」



 このテーマについて同社がブレインストーミングを重ねた結果を形にしたもののひとつが AWS DeepRacer です。
 「AWS DeepRacer をとおして楽しみながら強化学習を体験してください。」と述べ Andy Jassy 氏は会場の参加者に興味を沸かせた。


DeepRacer



 AWS DeepRacer はクラウド上の 3D レーシングシミュレーターを用い、仮想レーシングカーを仮想サーキットで走らせつつ、強化学習モデルの作成を体験しながら学ぶことができる。作成した強化学習モデルは、現実の AWS DeepRacer にデプロイして競わせること可能だ。

 さらに、AWS DeepRacer のハンズオンチュートリアルも用意されており、チュートリアルを参考に強化学習のトレーニングを開始できる。


DeepRacer
図 2. AWS DeepRacer の走行イメージ






3. AWS DeepRacer League の開幕

 AWS DeepRacer League とは、AWS DeepRacer を使った競技で、世界唯一の自立型自動車レースリーグだ。

 「まずはやってみよう」といった知的好奇心さえあれば誰でも参加できる。当然、モータースポーツライセンスは不要であり、なにより安全だ。


 AWS の CEO、Andy Jassy 氏は AWS re:Invent 2018 の基調講演にて、AWS DeepRacer League の開催を考案するに至った経緯を語った。


 AWS DeepRacer のリリース前、弊社のスタッフは AWS DeepRacer のテストに取組んでいた。スタッフたちの姿を見ているなかで、実に興味深い気付きを得ました。彼らは当初、AWS DeepRacer を楽しみながらテストしていました。次第に彼らは強化学習の構築体験を深めていき、真剣度が増していきました。遂にはスタッフ間でチームを作り本気で競争を始めるに至ったのです。


 楽しみながら強化学習の構築に取り組み、成功を体験している姿は実に興味深く、そこから新しい発見を得られました。そこで、この取組を競技として発展できないかと考えるようになり、AWS DeepRacer League というエキサイティングな発表をすることにしました。


DeepRacer




 AWS DeepRacer League のレースは、2019 年初旬から 1 年を通して、ライブイベントやバーチャルイベントで開催される。レースではタイムトライアルの上位入賞者にポイントが与えられ、ポイントランキングの上位 10 名には、AWS DeepRacer Champion CUP への参戦資格が与えられる予定だ。AWS DeepRacer League の詳細やレギュレーション、AWS DeepRacer League のリーダーボードは、AWS DeepRacer 公式サイトで確認できる。






まとめ

 本記事では、AWS re:Invent 2018 の基調講演の内容を参考とし、AWS Deep Racer の概要を簡単にお伝えした。

 「レースは走る実験室である」という故本田宗一郎氏の言葉がある

 AWS DeepRacer も強化学習の実験室といえる。これまで専門家の領域でしかなかった強化学習の体験が、より身近になることはとても素晴らしく思う。より多くの人が強化学習に挑戦するチャンスを獲得でき、様々な課題をユニークな方法で乗り越え、新しく得た気づきや体験が、次のイノベーションを生み出す原動力に成りえる可能性を想像すると、新しい技術で上書きされていく未来が楽しみだ。

 強化学習に関心を抱く方は、AWS DeepRacer から学びのきっかけをつくってみてはいかがだろうか。



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