SAP ERPユーザはSAP S/4HANAをどう見ているか?
~SAPユーザによるSAP S/4HANAに対する関心と、移行における不安点について考察~

saps4hana

SAP S/4HANAは新たなERPシステムとして産声を上げ、導入する企業が急速に広がっている。ジャパンSAPユーザーグループ(JSUG)のアンケートから、SAP S/4HANAに対する関心と、移行における不安点について考察する。

 

 

史上最速で導入が進むSAP S/4HANA

「SAP S/4HANAへの移行企業が爆発的に増えている」2016年5月に開催されたSAP年次カンファレンスに登壇したSAP共同創業者プラットナー氏の言葉だ。シンプルなアーキテクチャによって実現された高速処理がユーザーからの支持を受け、S/4 HANAの導入が増えている。

SAP S/4HANAは23年ぶりにアーキテクチャを刷新した第4世代のERPシステムだ。インメモリ型データベースの技術を活用し、高速でデータの書き込み・読み取りが行える。高速処理が行えるため、集計結果の保存など、無駄な処理が省けるようになり、アーキテクチャが単純化された。さらに、在庫のリアルタイム管理など、業務プロセスの高度化が一層進むというユーザー側のメリットがある。

S/4 HANAは発表から1年で3200社が導入し、SAPの予想を上回り、同社史上最速の速さで市場に受け入れられているという。「SAP S/4HANAは何か」という段階から「SAP S/4HANAをどうやって導入するか」という段階まで、市場の関心は移ってきている。

80%のSAPユーザーがSAP S/4HANAへ関心を示す

SAPユーザにて構成されるJSUGではS/4 HANAの導入・活用に関するアンケートを行い、同製品に対する期待や不安が明らかになった。2016年4月~7月に93名から回答を得ている。まず、回答者の約80%がSAP S/4HANAへの関心を示した。内訳は、「移行を計画している」9%、「移行を検討中」22%、「情報収集中」53%となっている。

移行を計画しているJSUG会員の中では、「SAPの提唱するロードマップではSAP S/4HANA基盤が前提となっている新機能や新サービスが多い」「グローバルでのワンインスタンス活用がもたらすメリットをグループ企業全体で享受するため」という理由が挙げられた。SAPが提案する新たな業務プロセスを最大限に活かし、社内の業務改革を含め、ERPの効果的な活用につなげるビジョンが見て取れる。

「移行を検討中」「情報収集中」としたJSUG会員からは「SAP S/4HANAの情報不足」「費用が高額」「移行によるメリットが少ない」との指摘が挙がっている。製品情報に留まらず、ベストプラクティスや導入事例、投資対効果の共有が待たれる。

JSUG会員アンケートより「S_4 HANAへの移行予定の有無」

出典:ジャパンSAPユーザーグループ(JSUG) 『JSUG会員企業アンケート』 2016年8月発行

「コスト」「アドオン」「移行」が気がかり

SAP S/4HANAへの移行で気がかりな点としては、「コスト」35件「アドオン・システムへの影響」25件「移行・検証作業」24件と続いている。SAP S/4HANAの利用には、ハードウェア・ソフトウェア・移行作業を含め、それなりのコストが必要となるため、投資に見合った効果が得られるかどうかが焦点となった。

これまでアドオン開発に投資してきた企業にとっては、既存のアドオンとの連携が気になるところだ。システムへの影響や検証作業に必要となる予算や期間など、不明確な点がユーザーの不安を誘っている。ユーザーによっては「既存のアドオンプログラムへの影響調査や新機能評価、レスポンス改善など、移行前にSAP S/4HANAを評価・検証したい」という前向きな態度が見られた。

SAP S/4HANAの発表以降、これまで個別の製品として提供されてきたものが、ERPの一機能として提供されるケースが多くなった。このような方針の転換が、ユーザーに戸惑いを生んでいる。「SAPが提供する製品で、一部機能が重複するものに関する見解」についての回答として、「SAP としての方針を示してほしい」17件、「整理・統合してほしい」14件、「受け入れる・どちらかを選択する」11件といった声が聞かれた。他にも、「製品群がいつ統合されるか明確になっていないため将来計画を立案できない」「現在使用中のシステムを引き続き使いたいので無理な統合はしないでほしい」という要望もある。

JSUG会員アンケートより「S/4 HANAへの移行計画を策定していないグループの回答理由」

出典:ジャパンSAPユーザーグループ(JSUG) 『JSUG会員企業アンケート』 2016年8月発行

SAP共同創業者のコメントから理解するSAP S/4HANAの今後

SAP S/4HANAのコストに関しては、中小企業にとっては高すぎるという指摘もある。インメモリ型データベースを運用するには、相応のスペックを持ったサーバーが必要になるからだ。しかし、前述のプラットナー氏は同社のブログで真っ向から反論している。SAP S/4HANAは一般的なIntel x86サーバーで運用可能であり、さらに、シンプルになったデータ設計によってアーキテクチャも単純化できる。

実際、コストについては「クラウド化」がオプションとして提供されたことで、ユーザー企業には複数の選択肢が生まれた。SAP S/4HANAはオンプレミス版に加えて、マネージド・クラウド版、パブリック・クラウド版の3つが提供されている。カスタマイズ性に優れたオンプレミス版に対し、コスト最適化が容易なクラウド版が利用可能だ。特に、SAP S/4HANAをAWSで稼働させるシステムは、SAPとAWSが共同でプロモーションし、話題を呼んでいる。

「アドオン問題」は、どのSAPユーザーにとっても悩みの種となる。既存のERP環境からSAP S/4HANAへ移行する際には、そのアドオンが本当に必要かどうか精査する作業から始まるだろう。SAP S/4HANAのリアルタイム性を享受するためには、業務プロセス自体の高度化が必要であり、新たな業務プロセスにおいて既存のアドオンが必要かどうかは、精査しなければ分からないからだ。必須のアドオンでなければ、標準機能で置き換えるのが正しい対策と言える。

SAPのロードマップは正式に発表されているわけではないが、今後S/4 HANAが中心となって製品展開されるのは間違いない。業界ごとのソリューションが整備され、さらに、SAP S/4HANA固有の機能が拡張されていくだろう。既存の製品で提供されていた機能は、新しいアーキテクチャへ統合される等の変更が予想される。

最後に

SAPユーザーはSAP S/4HANAに多くの関心を寄せている一方、コスト・アドオン・移行作業などの面で不安を抱いている。導入事例が増え、ベストプラクティスが共有されることで、SAP S/4HANAが提供する強力な機能の普及が期待される。

編集:ビジネスon IT

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