基幹系システムの運用委託範囲のベストプラクティス
~事例から学ぶ、基幹系システムの全面クラウド化を判断した3つの理由~

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クラウド基盤(IaaS)が市民権を得るにつれ、より要件の厳しい基幹系システムへの適用が注目されている。基幹系システムのIaaS化は、開発やテスト環境など一部だけではコスト削減が期待できないばかりか、オンプレミスとの並行運用による負担増加が懸念される。

全面クラウド化に踏み切った先行企業の事例により、運用委託範囲のベストプラクティスが明らかになってきた。

ハイライト
● 基幹系システムをIaaS化する理由
● 部分的クラウド化と全面的クラウド化のメリット・デメリットの整理

なぜ基幹系システムこそクラウド化するべきなのか?

基幹系システムは企業の根幹を成すデータやアプリケーションを取り扱う。会計、人事、販売、物流など業務遂行に直結するため、そのシステム設計には細心の注意が図られてきた。特に、データを外部委託するクラウド化については慎重論が先行し、セキュリティやパフォーマンスに関する不安の声が多く聞かれている。しかし、最新のクラウド技術は不安を解消できるだけのメリットを提供しており、実際に、いくつかの上場企業でも既に基幹系システムのクラウド化を完了した。先行企業がクラウド化を採用した背景には、基幹系システムならではの問題をクラウドサービスが解消した点にある。

基幹系システムにとって最も重要な要件は事業継続性にある。自然災害の多い日本では災害対策が重要であるが、オンプレミス環境では分散化・冗長化が困難であり、クラウド化によって柔軟な災害対策が行えるメリットは大きい。柔軟性の観点からは、事業の海外展開等にも容易に対応できる点も、オンプレミスと比較して、クラウドに軍配が上がる。運用コストの観点では、ハードウェア更新から解放されるメリットが指摘されている。オンプレミス環境では5年サイクルでハードウェアが更新され、それに伴いテストなどの運用負担がかかってしまう。クラウド環境であれば、ハードウェアはクラウド事業者の管轄なので、基幹系システムの動作検証という大きなプロジェクトを立ち上げる必要がなくなる。

聖域なきクラウド化

基幹系システムのクラウド化にメリットがあるとは言え、運用委託範囲には検討の余地があるだろう。運用範囲が広ければクラウド事業者に依存した「ベンダーロックイン」の状態に陥る懸念があり、適用範囲が狭すぎれば、コストメリットが生じにくい。

基幹系システムをクラウド化した企業の答えは「聖域なきクラウド化」、つまり、全ての基幹系システムをクラウドサービスに委託することを決断している。その理由としては大きく3つの理由が挙げられている。第一の理由としては前述の事業継続性対策が上げられている。Webシステムなどの一部のシステムのみをクラウド化したところで、事業継続性は担保されないので、事業停止リスクの大きいシステムから一斉にクラウド化しなければ意味がないのだ。

第二の理由としてハイブリッド型クラウドの複雑さがある。クラウドサービスとオンプレミスを並行して運用するハイブリッド型クラウドは、双方のメリットを同時に享受できるため、現実的なシステム構成として高い評価を受けてきた。一方で、クラウドとオンプレミス間の通信にセキュリティに細心の注意が必要であったり、システムの運用監視が複雑化したりするデメリットも徐々に明らかになってきている。全てクラウド化することで、システムの複雑化を避けることが可能になるのだ。

最後の理由として、変化の早い事業環境からの要請がある。海外展開を含め、事業構造の変化は待ったなしの状況であり、従来のように3年かけてハードウェアの調達から業務アプリケーションの開発まで行っていては間に合わない。運用管理からアプリケーションまでクラウド事業者を上手に活用するよう、情報システム部の在り方を再定義するときが訪れたのかもしれない。

部分的なクラウド化の考え方

全ての基幹系システムをクラウド化するのではなく、例外的にオンプレミスのシステムを残すケースも実際にはある。倉庫・物流システムの内、バーコード読み取りのハンディターミナルを活用するものについては、ターミナルの動作速度に影響があるため、クラウド化が難しいとされている。センサー管理などに強みを持つIoT (Internet of Things) 向けクラウドサービスの発展が待たれる分野であろう。

法令順守の観点でクラウド化の可否を検討する必要もある。ユーザーや社員の個人情報をクラウド上に保存する、つまり個人情報の管理を委託した場合、「委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない」と個人情報保護法で決められている。サーバーの所在地、管理体制、稼働状況、サービスレベル、監査証跡などが開示され、適切な監督が行われていると判断できる状態でなければ、個人情報を含むシステムのクラウド化は難しい。

意外にクラウド化の障害となるのは企業文化にある。目先のコスト試算を続けていても、クラウドとオンプレミスにそれほど違いが出ないケースも散見される。それでも、事業継続性や自社のコア業務への集中という目に見えないメリットにどれだけ目を向けられるかが、クラウド化を実現させる鍵と言える。現在の運用担当者が仕事がなくなることを懸念している内は、クラウド化は難しい。事業構造の変化に柔軟に対応できるよう、クラウド時代における情報システム部の在り方が求められているのだ。

最後に

基幹系システムは業務継続性が高く、ハードウェア更改時の動作検証に関する負担が大きいことからクラウド化のメリットが大きい。動作速度、法令順守、企業文化の壁を越えられるのであれば、「聖域なきクラウド化」に挑戦する価値はあるだろう。

編集:ビジネスon IT

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