
SAP、基幹システムクラウド
脱オンプレミス(クラウド化)の検討方法|検討から実践へと進むためのポイントとは
2006年のアマゾン ウェブ サービス(AWS)の登場以降、クラウドのメリットは広く認知され多くの企業で活用されている。
- ビジネスや環境の変化に対する即応性と柔軟性
- すぐにでも、どこでも、必要な時にサービスを利用できる
- 短期間でシステムを構築できる
- 事業継続性
- 安定運用、可用性が高くなる
- セキュリティ
- 情報漏洩に対するセキュリティが高くなる
- コスト削減、運用負荷からの脱却
- 資産、保守体制を社内に持つ必要がない
- 常に最新のハードウェアを利用できる
- ビジネスに直結するIT企画に注力できる
しかし一方では、クラウド移行の検討はするものの、何らかの理由により導入実践へ至らずに踏みとどまっている企業もいる。
こうした企業がクラウド移行を検討段階から実践へと進むには、どうしたらよいのだろうか。
そこで本記事では、クラウド移行を実践した企業の考え方について紹介する。
▼ 目次
・10年たっても脱オンプレミスが進まないのは何故か
・検討ポイント
・ビジネスの即応性や競争力を高める上ではクラウドが不可欠
1. 10年たっても脱オンプレミスが進まないのは何故か
2016年2月、ガートナージャパンはクラウドの採用が遅々として進まない現状を厳しく指摘した。
「多くの企業はこの10年間、同様の議論を続けている」
そもそも、クラウド・コンピューティングは、従来の手工業的(土建的)なシステム開発に限界が来ているという問題認識に基づき、IT運用の方法を変え、新しいビジネス成長を求める存在としてスタートしている。それにも関わらず、クラウドの採用率が上がらないのは、なぜだろうか。
ユーザー企業がクラウドを採用するには、既存の延長から新しい情報資産運用へと考え方を変革していく必要がある。
オンプレミス環境を単に仮想化するのは、既存のIT管理手法の延長に過ぎないが、少なくともクラウド利用への第一歩として数えられる。
その後には、クラウド環境へシステム移行させる、あるいは、優れたクラウド・システムを利用し、拡張性の高い戦略的な投資を行うステップへと進んでいける。理想的には、高い技術力で新たなビジネスモデルをもたらすような動きが求められる。

図 1. クラウド利用の検討状況
クラウド採用が広まらない現実的な原因として、ベンダー側の問題も考えられる。
本来、クラウド・コンピューティングは拡張性・柔軟性の高い環境をサービスとして提供するインターネット技術であった。しかし、クラウドに当てはまらないアウトソーシング事業までも「クラウド」と呼ぶベンダーが現れたため、ユーザー企業に混乱を引き起こしている。
人手に頼ったカスタムSIを続けている限り、拡張性・柔軟性の高いサービス提供は難しい。増えすぎたクラウド・ベンダーの中から、クラウド本来の価値を提供できる事業者を見つけるのが困難であるため、クラウド採用を遅らせてしまうのだ。
2. 「何を」「どこに」「どうやって」映すのかを明確にする
クラウド化の検討ステップは単純だ。
下記を明らかにすればよい。
クラウド化をすれば何でも問題が解決するわけではなく、適材適所の判断をするのが頭の使いどころだ。
要件の優先順位を決めて、妥協できる要件は思い切って妥協した方が、全体としてコストの削減や使い勝手の向上につながる。
2-1. 何を・・・
企業には多くのシステム群があるが、「何を」クラウドへ移行するかは、その要件の特殊性による。
標準的なサービスが存在しなければ、アプリケーションは自社で構築し、インフラだけをクラウドへ任せると良い。
一方で、標準的なサービスであれば、パブリッククラウドを含めたクラウド・サービスの利用が適している。
他にも、稼働率やセキュリティ要件、データの存在場所などを含め、何が必須で、何が割り切れる要件かを加味する。自社の数あるシステム群のうち、どのアプリケーションがどちらに適しているかを明らかにする「仕分け作業」が欠かせない。
2-2. どこに・・・
「どこに」移行するかを検討する際には、3種類のクラウド環境を覚えておく必要がある。
- IaaS
- IaaS はアマゾン ウェブ サービス(以下、AWS)に代表されるクラウド環境であり、新規ビジネスや比較的要求事項の少ないアプリケーションでのコスト削減に適している。
- マネージド型サービス
- 基幹系システムにも対応できるマネージド型サービスはシステムインテグレーターが中心となり、クラウドと人的サポートの組み合わせによって、要件に応じた対応が可能になる。
- カスタム型サービス
- 国内ベンダーなどが提供するカスタム型のサービスが上げられる。技術的にはクラウドではなく、仮想環境でのアウトソーシングと見ることができる。特殊な要件にも対応できるが、コスト削減の余地は小さい。

図 2. 3 種類のクラウド環境
2-3. どうやって
クラウド移行の「どうやって」を検討する際には、発見と学習のプロセスである点を意識するとよい。
一つのプロジェクトで全てをクラウド移行するのは現実的ではなく、誤った判断をする可能性もある。
候補となるアプリケーションを選択し、まずはクラウド上での最適化プロセスを経験するべきだ。
ある程度理解できた後で、ハイブリッド環境などの高度な使い方へと検討を進めればよい。
机上の議論には限界があるので、まずはPoC(概念実証・コンセプト検証)を実施し、期待する効果や効能が得られるのかを、本格的にプロジェクトを開始する前に実施する。
PoCの意義と進め方については、以下を参照いただきたい。
また、クラウドへの移行方法は様々ありますが、伊藤忠テクノソリューションズ(以下、CTC)が実施したIaaS移行の検証結果をまとめた資料は、以下よりご覧いただけます。
3. ビジネスへの即応性や競争力を高める上ではクラウドの活用が不可欠
昨今、企業におけるクラウドの導入は加速している。
ベアメタルのような既存IaaSの課題を解決する新技術も登場しており、以前は不安に覚えた要件でも問題なく使えるようになっている。
今後、クラウドを不安視する議論だけをしていては、クラウド移行はもちろんのこと、ビジネスの競争力が低下していくだろう。
すぐに試行的実践を開始し、これからの新しいクラウドの動きにもついていかなければ、企業としての競争力が保てない。社内の情報システム部門だけでなく、ITベンダーにもクラウド時代に合った考え方を要請しなければならない。
クラウドと称したアウトソーシングから離れ、手工業的(土建的)な開発工程から脱しなければ、生産性が向上せず、常にリソース不足に悩まされる不幸が待ち受けている。
情報システム部門が戦略的な投資予算を獲得できるかどうかは、クラウドへの正しい理解にかかっているのだ。
さいごに
今日のビジネスに求められるITとは、セキュアで安定したシステムであることは勿論のこと、業務部門からの要求や変化に即応できる、俊敏で柔軟性のあるシステムであることは自明であり、その解として、多くの情報システム担当者がクラウドへの移行について熟考を重ねている。
クラウド移行に悩まれている方は、ひとまず本書で述べた「何を」「どこへ」「どうやって」移行するかを明確にし、正しく脱オンプレミスの検討を進めていきたい。
クラウド移行を成し遂げ、競争力を高めている企業が増加している。
このような成功事例から学べる気づきは非常に多く、他社が抱えていた課題や実践に踏み切った経緯、クラウド移行によって得たメリットなどを参考に、クラウド移行を検討するのも良いだろう。