SAP S/4HANAと機械学習の関係性|Intelligent ERPへと向かうSAP S/4HANA

SAP S/4HANAと機械学習の関係性|Intelligent ERPへと向かうSAP S/4HANA

 すでに数多くのユースケースが登場し、私達にとって身近な存在になっている機械学習。

 ERPパッケージのトップベンダーとして知られるSAPでも機械学習への取り組みを積極化しており、機械学習を活用した数多くの機能をリリースしています。それでは次世代ERPと称されることが多いSAP S/4HANAと機械学習との関係は、今後どのようになっていくのでしょうか。そしてそのポテンシャルを最大限に引き出すためのインフラは、どうあるべきなのでしょうか。

 EMCジャパン株式会社でSAPスペシャリストとして活躍する山崎 良浩 氏に話をお聞きしました。

 

SAP 機械学習



▼ 目次
1. この1年で一気に増えたSAP S/4HANAにおける機械学習のユースケース
2. SAP S/4HANAにおける機械学習活用の2つのパターン
3. 機械学習活用で重要になるGPU搭載サーバーとの連携

 

1. この1年で一気に増えたSAP S/4HANAにおける機械学習のユースケース

 2017年5月に開催された年次イベント「SAPPHIRE Now」において、機械学習に関する本格的な戦略を打ち出したSAP。その後、SAP S/4HANAにも機械学習を活用した数多くの機能が盛り込まれており、ERPと機械学習との融合は急速な勢いで進みつつあります。

 このような状況について「2017年はSAP Leonardoを中心に機械学習が語られていましたが、最近ではS/4HANAに機械学習を組み込んでいく方向へと戦略がシフトしています」と語るのは、EMCジャパン株式会社 アドバンスド テクノロジー ソリューション本部 アプリケーション スペシャリスト グループ SAPスペシャリストの山崎 良浩 氏。それを表現しているのが、SAPが掲げる「Intelligent Enterprise」「Intelligent ERP」といったキーワードだと説明します。「Intelligent Enterpriseのフレームワークは、大きく3つの要素で構成されています。機械学習、IoTに代表される『Intelligent Technologies』、それを動かす基盤となる『Digital Platform』、そしてSAP ビジネスアプリケーション群である『Intelligent Suite』です。これらを連携させることで、最新テクノロジーをビジネス全体で活用できるようになります」。


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図 1. Intelligent Enterpriseフレームワークの概念図
※出典:CNA100–Overview, Road Map, and Strategy for
SAP S/4HANA SAP TechED 2018




 実際にSAP S/4HANAにおける機械学習のユースケースも増えています。すでに2017年秋にリリースされた「SAP S/4HANA 1709」から機械学習を活用した機能が提供され始めており、2018年秋リリースの「SAP S/4HANA 1809」ではその数が一気に増大しているのです。


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図 2. SAP S/4HANAにおける機械学習のユースケース
出典:AIN103 –Machine Learning Architecture for SAP S/4HANA SAP TechED 2018




 「非常に多岐にわたるユースケースが盛り込まれていることがわかります。これらを活用することで、業務のさらなる自動化や効率化が可能になります。例えばこのリストの中には『SAP Goods Receipt/Invoice Receipt Monitor Status proposal(GR/IR)』がありますが、これは機械学習を使って請求書と納品書を突き合わせ、自動消込を支援する機能です。輸入品では為替の影響で金額がずれることがあり、請求書と納品書とで住所表記が微妙に異なるケースも少なくありません。このような場合にはECC 6.0からある、ルールベースの消込機能では自動消込ができず、人手で突き合わせる必要がありました。しかしGR/IRを利用すれば対応するものを機械学習が見つけ出し、人はそれを確認するだけで済みます。このように業務を自動化あるいは半自動化するために、機械学習が積極的に活用されているのです」。

 このような取り組みは、今後さらに加速していくはずだと山崎氏。ERPのユーザー企業には、機械学習で業務を自動化したいという強いニーズがあるからだと語ります。


 「ある調査では94%の企業が、機械学習は競争優位性確保のために欠かせない技術だと述べています。また現在手作業で行われている業務も、2025年までには60%が機械学習で自動化されるだろうと予測されています」。





2. SAP S/4HANAにおける機械学習活用の2つのパターン

 それでは具体的に、SAP S/4HANAにおける機械学習活用は、どのような形で行われているのでしょうか。大きく2つのパターンがあると山崎氏は説明します。

 1つは「Embedded ML」です。これはSAP S/4HANAの中に機械学習を内蔵させるというものであり、ERP内のトランザクションデータをベースにした、比較的シンプルな学習を目的としています。

 

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図 3. Embedded機械学習の概念図
出典:AIN103 –Machine Learning Architecture for SAP S/4HANA SAP TechED 2018

 

    • PROCESS THE ALGORITHMS WHERE THE DATA IS: low tco & optimal performance by using hana ml & pai
    • LEAD BACK MACHINE LEARNING TO CDS VIEWS: content & concept reuse





 もう1つは「Side-by-Side ML」。これはSAP S/4HANAの外側に機械学習用のシステムを用意し、SAP S/4HANAとAPI連携させるというものです。ERPの外のデータを利用し、画像認識や自然言語処理のような複雑で負荷の重い学習を行うのに向いています。


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図 4. Side-by-Side MLアプリケーション概念図
出典:AIN103 –Machine Learning Architecture for SAP S/4HANA SAP TechED 2018

  • S/4HANA: application consuming ML, data & process integration for training interface
  • LEONARDO ML: orchestration of inference, model management, ML service




 「Side-by-Side ML」はSAP Leonardo MLを基本にしていますが、TensorFlowマシーンを直接SAP S/4HANAの拡張に利用する方法もあります。
 このために用意されているのが、「SAP HANA External Machine Learning(EML) Library」です。


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図 5. SAP HANA External Machine Learning Library概念図
出展:SAP Help Portal –SAP HANA External Machine Learning Library S/4HANA SAP HANA Platform 2.0 SPS 03


 「これは以前『TensorFlow Integration』と呼ばれていたもので、TensorFlow Model Server(TMS)との連携を行うためのものです。TensorFlowはGoogleが開発しオープンソースとして公開している機械学習のためのソフトウェアライブラリであり、畳み込み(Convolution)によって深層学習を行う「CNN(Convolutional Neural Network)」の1つです。その学習済みモデルを実サービスで利用するためのサーバーがTMSなのですが、畳み込みは膨大な処理が必要になるため、GPUの利用が求められます。

 つまりEML Libraryとは、外部に設置されたGPU搭載サーバーと連携することで、高速な機械学習をSAP S/4HANAから利用できるようにするものといえます」。





3. 機械学習活用で重要になるGPU搭載サーバーとの連携

 Dell EMCでは機械学習/深層学習向けのソリューションとして、「Dell EMC Ready Solutions for AI - Machine Learning with Hadoop」「Dell EMC Ready Solutions for AI - Deep Learning with NVIDIA」をラインアップ。これらのうちTMSに適しているのが、「Dell EMC Ready Solutions for AI - Deep Learning with NVIDIA」だと山崎氏は説明します。


 「GPUを搭載したハードウェアに加え、TensorFlowに必要なソフトウェアスタックも実装済みなので、これを導入すればすぐにでもTensorFlowが使えます。GPUとしては、100テラFLOPSを超える最速のNVIDIA Tesla V100 GPUを一台のサーバー (PowerEdge C4140) に4機搭載。これらをNVIDIA NVLinkで接続することで、最大300GB/秒の転送スピードを実現しています」。


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図 6. Dell EMC Ready Solutions for AI
Deep Learning with NVIDIA概要



 このようなサーバーを活用すれば、画像認識や自然言語処理も、高速に行うことが可能になるでしょう。そしてこれを業務アプリケーションから利用することで、業務自動化も容易になるはずです。


 「ドイツ・ワルドルフにあるDell Technologies の SAPコンピテンスセンターでは、近い将来にSAP S/4HANAがGPUをサポートするようになると述べています。このような状況になれば、Dell EMC Ready Solutions for AI - Deep Learning with NVIDIAのようなソリューションの重要性はさらに高くなるはずです。またこれによってERPと機械学習との関係は、より緊密なものになっていくでしょう」(山崎氏)。


 それではこのようなハードウェアを活用するには、SAP S/4HANAのインフラをどのように構築すればいいのでしょうか。「オンプレミスで運用する必要がある」と考える方も多いかもしれませんが、クラウドでの運用も可能です。これを実現できるクラウドサービスが、CTCが提供するCUVICmc2です。





さいごに

 CUVICmc2はSAP、基幹システム向けに特化したクラウドサービスです。すでに数多くの企業がここでSAP S/4HANAを運用しています。その特徴は、パフォーマンス SLA を含む「性能保証」、世界最高水準の評価を受けたセキュリティ設計を踏襲することで実現した「高いセキュリティ&コンプライアンス」、そしてコンピューティングリソースの「実使用量に応じた従量課金体系」にあります。しかしこれらに加え、CUVICmc2と同じデータセンターに物理サーバーを収容し高速連携できる点も、見逃せない特徴だといえます。

 つまりCUVICmc2であれば、GPU搭載サーバーのメリットを活かしながら、SAP S/4HANAをクラウド化できるのです。今後機械学習との融合が進むERPのポテンシャルを最大限に引き出すには、このようなシステムインフラを選択することも重要だといえるでしょう。



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著者プロフィール

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山崎良浩
EMCジャパン株式会社在職中|アドバンスド テクノロジー ソリューション本部 アプリケーション スペシャリスト グループ SAPスペシャリスト