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SAP S/4HANAの魅力|事例から読み解く導入、移行のポイントとは?
IoTやAIなどの新技術の発展によって、急速に進みつつあるデジタルトランスフォーメーション(DX)。
企業活動を支えるERPも、この流れに対応できることが要求されており、「SAP S/4HANA」に注目が寄せられています。
SAP未導入の企業はもちろんのこと、すでにSAP ERPを利用している企業でも、次世代の基幹システムとしてSAP S/4HANAを検討するケースが増えています。しかしSAP S/4HANAは、本当に次世代の基幹システムになり得るのか、既存のSAP ERPからの移行や新規導入を効率的に行うにはどうすればいいのか、悩んでいるIT担当者も少なくないはずです。
こうした状況の中、2018年7月19日に「2020年、その先を見据えた経営羅針盤セミナー」が開催され、株式会社電通国際情報サービス(以下、ISID) ビジネスソリューション部 コンサルタントの永浦 辰彦氏が登壇。SAP S/4HANAの実力や実際の事例、ISIDによるSAPソリューションへの取り組み、そしてSAP S/4HANAの導入や運用を成功させるためのポイントなどをご紹介されました。本記事では永浦氏の講演のハイライトをレポートします。
本講演資料は以下よりダウンロードできます。
▼ 目次
1. SAP S/4HANAの魅力
2. 導入事例における2つの採用ポイントとBI構築の工夫
3. 効率的な導入・移行方法や導入後のテスト方法も紹介
1. SAP S/4HANAの魅力
永浦氏は多様なERPを扱ってきた経験に基づいて、SAP S/4HANAへの評価について解説しました。
ここで取り上げられた評価ポイントは、大きく4点あります。
- ユーザーインターフェース(以下、UI)
- BI機能
- 開発手法
- ベンダー選定
1-1. UI
SAP S/4HANAはUIが優れているという点と語り始め、さらに SAP S/4HANA はスマートフォンやタブレットに対応していることに加え、役割ベースの画面構成の作成が可能な点を高く評価していると解説します。
- 「以前から役割ごとの権限は設定できましたが、同じ機能であれば同じ画面で表示されていました。これに対してSAP S/4HANAは設定次第で、同じ機能でも役割ごとに異なる画面にできます。表示される情報レイヤーや遷移方法を変えることで、役割ごとに直感的かつわかりやすい画面を構成できるのです」(永浦氏)
1-2. BI 機能
BIの強化に関しては、従来は更新系DBと情報系DBが別れていたのに対し、SAP S/4HANAではこれらが統合されていると解説します。
- 「更新系 DB と情報系 DB が統合されたことにより、ETLが不要になり、リアルタイム分析が可能になっている」(永浦氏)

図 1. 更新系と情報系の DB が統合され、リアルタイム分析が可能
1-3. 開発手法
開発手法に関しては、大きく分けて2つの開発手法が用意されていると解説します。
- In-app拡張
- 項目を定義するだけで標準テーブルや標準画面を自動的に拡張可能。これは従来のSAP ERPでも用意されていましたが、項目を変更してパブリッシュボタンをクリックするだけでレポートが自動的に拡張されるなど、以前に比べて大幅に効率化されています。
- Side-by-side拡張
- SAP S/4HANAの外側でアプリケーション開発を行う方法であり、JavaScriptなどのオープンな世界で開発ができるため、開発工数の削減が期待できます。

図 2. 2 つの開発手法
1-4. ベンダー選定
ベンダー選定については「もともとSAP ERPはデファクトスタンダードなので扱っているベンダーが豊富でした」と前置きした上で、SAP S/4HANAではSAPがWeb上で積極的に情報発信している他、トレーニングも数多く実施していると評価、さらにオープンな世界での開発が可能になったことで、新規参入のベンダーが増えていると語ります。
- 「情報が入手しやすくなったことや効率的な開発手法が選べることは、主にベンダーにとってメリットをもたらすと考えられますが、これはユーザー企業にとってもコスト軽減や品質強化といった恩恵につながるはずです」(永浦氏)
2. 導入事例における2つの採用ポイントとBI構築の工夫
具体的な導入事例の紹介では、本社とグループ会社を導入対象とした大手企業のケースです。SAP S/4HANAのモジュールとしては、管理会計(CO)、計画登録(BCP)、プロジェクト管理(PS)、固定資産管理(AA)など、合計8モジュールを導入。SAP S/4HANA採用のポイントは、大きく2点あったと永浦氏は説明します。
2-1. 分析の高速化
SAP S/4HANAのDBに最適化された「CDSビュー」により、高速な分析が可能になったことです。今回の案件では、会計明細データから必要な分析軸をキーとした残高テーブルをCDSビューとして定義することで、集計・結合処理などをCDSビューで実装しています。これによってアドオンプログラムのロジックがシンプルになり、開発工数も大幅に削減。レポート出力も高速化されています。
2-2. Fiori レポートの利便性
「Fioriレポート」はWebレポートです。画面左側に用意された各種項目を操作することで、Excelのピボットテーブルのように横軸・縦軸の項目を任意に設定可能。これも業務で積極的に利用されていると解説します。

図 3. Fiori レポート
この事例ではこれらに加え、ISIDが提供する「BusinessSPECTRE」も活用されています。これはSAPのデータをノンプログラミングでSQL Serverへと差分転送できる、SAPデータ連携フレームワーク。データ抽出からレポートまでをパッケージ化しており、短期間での利用開始が可能です。
- 「先程説明したように、SAP S/4HANA自体にもBI機能がありリアルタイム分析が可能ですが、分析するデータ量が膨大になると資源が枯渇しやすくなります。そこで各業務に求められるリアルタイム性を考慮し、リアルタイム分析が必要なものはSAP S/4HANAのBI機能、前日データでも構わないものはBusinessSPECTREで分析を行う、という使い分けを行っています」。

図 4. BusinessSPECTRE
なおISIDでは、これまでのERP導入経験にもとづき、BusinessSPECTRE用の幅広いテンプレートを提供。その内容としては、SAPクエリ 238本、ETL 85本、DWHは230テーブル/381ビュー、多次元分析は9キューブ、管理帳票は220レポートに上っています。

図 5. テンプレート
またBusinessSPECTREには「WebFront」というオプション機能も用意されており、RDBやキューブのデータを元に、ユーザーが自由に軸や条件を設定できる「自由分析レポート」の構築が可能。レポート作成から権限管理、レポート配信までをノンプログラミングで、Webブラウザのみで設定できると説明しました。

図 6. WebFront による自由分析レポート
3. 効率的な導入・移行方法や導入後のテスト方法も紹介
SAP S/4HANAの複数の導入手法の紹介や、各手法のメリットとデメリットの比較、BusinessSPECTREを活用した高品質レポートの短期開発方法や過去実績データの移行方法、導入後5年毎に必要になるバージョンアップにおけるテスト負担の軽減方法などが紹介されました。次世代基幹システムとしてSAP S/4HANAを検討している企業にとって、導入・移行プロセスや導入後の見通しを明確化する上で、示唆に富んだ内容だったといえます。

図 7. SAP S/4HANA 導入手法の比較
さいごに
ISIDはSAP S/4HANAのリリース前からその技術検証を手がけてきた企業。直近ではSAP S/4HANAの最新バージョンである「1709」をベースに、ディスクリート系製造業を想定した業務シナリオ検証も行っています。また1709で新たに追加された機能の評価や、SAP S/4HANAで提供されている開発手法の実機検証、ECC(従来のSAP ERPの中核コンポーネント)からの1709へのコンバージョン検証なども実施。SAP S/4HANAのことを知り尽くしたシステムインテグレーターと言えるでしょう。
デジタルトランスフォーメーションを加速する次世代基幹システムの検討する上で、永浦氏の講演はとても有益でした。本講演の資料については、以下よりダウンロードできます。SAP S/4HANA の導入、移行を検討されている方は、是非資料をご参考にしてください。