基幹系システムのクラウド移行~いざ検討開始すると直面する3つの課題~

基幹系システムのクラウド移行~いざ検討開始すると直面する3つの課題~

 基幹系システムのIaaS移行事例が増えてきた。基幹系システムには高いコストと運用負荷がかかるため、クラウド化のメリットが大きいためだ。しかし、安全性や堅牢性といった高い要件が求められるため、クラウド移行の検討を進める中で直面する課題もある。どのような難題を解かなければならないのだろうか。

▼ ハイライト
1. 広がる基幹系システムのIaaS移行
2. 安定性・堅牢性が求められる「守りのIT」にも活用されるクラウド環境
3. クラウド移行の検討で陥りやすい3つの課題例
4. TCO40%削減を実現した基幹系システムのクラウド移行
5. 基幹系システムにこそクラウド移行のメリットがある





1. 広がる基幹系システムのIaaS移行

 「基幹系システムこそ、一番運用が大変でお金もかかる」「クラウド利用含めてアウトソースすることができれば、非常に楽になる」企業のクラウド移行に対するニーズが高まっている。クラウドへのニーズに応えるため、ハードウェアベンダーは、クラウドサービスプロバイダー向けのプログラムを拡充し、ソフトウェアベンダーもクラウド前提のライセンスを提供するようになった。

 基幹系システムもクラウド採用が進んでいるのが近年の特徴だ。大手ERPベンダーなども全面的にクラウド化を推奨している影響も大きい。さらに、海外メジャーパブリッククラウドが日本でデータセンターを開設したため、これまで法令順守の観点からクラウド採用を控えていた企業にも門戸が開いた。アマゾン ウェブ サービス(AWS)は2011年3月に東京、Microsoft Azureは2014年2月に埼玉・大阪、VMware vCloud Airは2014年11月に西日本、IBM SoftLayer(現在:IBM Cloud)は2014年12月に東京と開設が相次いだ。

 クラウドの利用が広がっているのは、既にクラウドを使ってみた企業がその価値を認識し、さらなるクラウド化を推進している面がある。IDC Japanの調査によると、クラウドを利用していない企業ではクラウドがIT戦略に影響を与えると回答したのが半数にも満たないのに対し、利用中の企業では約80%が影響があると答えている。クラウドの普及が進む状況は今後も予想されているのだ。

基幹系システムのクラウド移行

図 1. 「攻めのIT」と「守りのIT」の相違点






2. 安定性・堅牢性が求められる「守りのIT」にも活用されるクラウド環境

 クラウドがIT戦略に与える影響として「攻めのIT」と「守りのIT」の推進が提案されている。「攻めのIT」とはクラウドだからこそ実現できるビジネスへと進出し、事業拡大を進めることを意味する。例えば、ビッグデータによる嗜好抽出とリコメンド、デジタルマーケティングによる新規営業活動と言った機能はクラウドの柔軟性が求められる。また、サービスのグローバル展開やIoTによる新サービスの創出といった場面でも、クラウドの拡張性がモノを言う。

 「攻めのIT」は柔軟性やスピード性が求められるため、もともクラウド技術の進歩と共に発展してきた側面がある。システムに求められる負荷が予測不可能な様子は3rd Workloadと呼ばれ、マーケティング・営業・製品開発部門での管理が行われてきた。マーケット分析・解析、開発、シミュレーション、Webサービスなどが主な用途であり、近年、利用が増えているビッグデータ、モバイルアプリ、IoT、ソーシャルメディアの機能が求められる。

 一方で、「守りのIT」はクラウドによる品質改善、ならびに業務の効率化を指す。数か月かかっていたIT調達スピードが、数週どころか数日もかからずに実施できるようになる。また、コラボレーションシステム刷新によるワークスタイル改革も実現可能だ。ITインフラ運用からの解放や災害対策によって、コスト削減やIT人員の最適化も進む。

 「守りのIT」は安定性・堅牢性が重要なためオンプレミス環境での利用が一般的であったが、北米ではクラウド化の流れも見られる。予測可能な負荷は2nd Workloadと呼ばれ、情報システム部門が主導で管理してきた。人事・会計・受発注・生産・在庫・販売・顧客管理などが主な用途であり、基幹系システム・RDBMS・ERP・ファイルサーバーなどが含まれる。

 基幹系システムのクラウド移行は、この2nd Workloadへの対応を意味する。クラウドが安定性・堅牢性を求められる2nd Workloadへ挑戦する際には、どのような課題が上がってくるのだろうか。






3. クラウド移行の検討で陥りやすい3つの課題例

 基幹系システムのクラウド移行には「守りのIT」を強化するための大きなメリットがあるが、実際に検討を行うと直面する課題も指摘されている。

表 1. クラウド移行を検討する上で直面する課題

基幹系システムのクラウド移行

 特に、パブリッククラウドの場合、急な停止調整が行われる等、ユーザー企業の不満が聞こえてくる。一部残るUNIXマシンをクラウド移行できないため、一部をオンプレミスに残さなければならないケースもある。企業固有の要件については、具体的に検討しなければ、運用上の課題は見えてこない。特に直面しやすい3つの課題例を紹介する。





3-1. 可用性

 24時間365日稼働する可用性を担保するにはアプリケーションとインフラが適宜連携を行う必要がある。オンプレミス環境では、インフラに障害が発生した場合、インフラ側でフェイルオーバーを実施するため、アプリケーションはインフラ任せにできた。しかし、クラウド環境では、インフラで障害が発生し、フェイルオーバーの設定がない場合、アプリケーション側で可用性を担保する設計が必要になる。クラウド移行にあたって、アプリケーションの設計変更が求められるケースが存在するのだ。

基幹系システムのクラウド移行

図 5. クラウド環境での可用性設計の比較




3-2. 性能保証とコスト

 クラウドを使用するとコストが下がるのはなぜか?共有リソースを必要なときに必要なだけ使用する従量課金制のため、稼働しないコンピューティング資源を所有しなくなり、無駄なコストが削減できるからだ。一方で、基幹系システムのように常に稼働し続ける場合、稼働率最適化によるコスト削減が期待できない。クラウド環境で常に高いリソースを用意し、性能保証を求めると、コストがかえって増加するリスクさえある。





3-3. セキュリティと法令順守

 セキュリティは日々の運用の積み重ねであり、だからこそ、問題なく運用し続けることが難しい。製品パンフレットではセキュリティ要件を満たしていると言っても、本当に過誤なくセキュリティ運用が行われるかどうかは、ユーザー企業が不安に思う点でもある。システム全体としてセキュリティ運用が任せられるか、他社の障害が自社に影響を与えないか、などの疑念がつきない。また、現地監査対応など法令順守に関する要件にも注意する必要があるだろう。






4. TCO 40% 削減を実現した基幹系システムのクラウド移行

 上記の課題を解決する優れたクラウド・ベンダーが現れ、基幹系システムのクラウド移行によって成果を上げる企業も見受けられるようになった。例えば、北米の甘味料製品メーカーはプライベートクラウド環境で基幹系システムの運用を開始している。買収によって世界中に拡大した同社は、各国で情報システムがバラバラに運用されており、運用効率が悪化していた。SAP上で稼働する基幹系システムは、高いパフォーマンス要件を満たすために余剰リソースを確保しているため、コストの増加に悩んでいた。

 IT運用の効率化やコスト制御の強化を目指し、基幹系システムのクラウド移行が検討された。セキュリティやパフォーマンスの要件を契約として保証し、導入の前提となる要件を解決している。結果として、3年間のTCOを40%削減するという大きな成果を上げた。バラバラだったコンピューティング環境をクラウド上に統合することで、ITガバナンスが強化され、セキュリティやパフォーマンスは向上している。IT部門の担当者はハードウェアの管理から、ビジネス価値提供に注力できるようになるというメリットもあった。





5. 基幹系システムにこそクラウド移行のメリットがある

 基幹系システムのクラウド移行は業務の効率化と品質改善への寄与が期待できる。ITインフラ運用から解放され、より戦略的なリソース配置が可能になると共に、月単位だった情報資産の調達スピードも日単位まで劇的に改善される。また、災害対策なども容易になるため「守りのIT」に効果がある。

 ITリサーチ会社による調査では、クラウド環境を利用する企業の80%が、クラウド・コンピューティングはIT戦略に影響を与えると回答した。実際にクラウドを経験した企業は、その価値を理解するため、今後の採用拡大が見込まれている。

 Amazonを始めとする海外主要ベンダーも日本にデータセンターを開設しているため、多くの企業にとってクラウド移行が現実的な選択になっている。ソフトウェアベンダーもクラウド前提のライセンスを用意するケースが増えた。特に、ERP最大手のSAP社もクラウド環境を推進し、基幹系システムのクラウド化が増加する見込みだ。

 クラウド環境は柔軟性や拡張性に優れるため、従来、情報系システムでの利用が多かった。しかし、最近では基幹系システムに求められる安全性や堅牢性がクラウドでも実現できるようになってきたため、基幹系システムのクラウド運用が進みつつあるのだ。

 基幹系システムの特徴は、業務の核となるプロセスを担当するミッション・クリティカルな点にある。24時間365日対応、夜間・休日の障害対応、性能確保、迅速な復旧、内部統制、監査対応、脆弱性対策といった高い非機能要件が求められる。そのため、基幹系システムこそ、多大なコストと運用負荷がかかり、クラウド化を含めたアウトソーシングにメリットがある。






6. クラウド選定支援「アドバイザリー」サービス

 自社の基幹システムをクラウドへ移行したいが、最適なクラウド (IaaS) をどうやって選べばよいかお悩みの方へクラウド選定支援「アドバイザリー」サービスをご紹介します。最適なクラウドを選定するための最初の一歩は、下記より「アドバイザリー」サービスの資料をご覧ください。

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7. SAP・基幹システムに最適なクラウド

 SAP、基幹システムに最適なクラウド「CUVICmc2(キュービックエムシーツー)」は、パフォーマンス SLA を含む「性能保証」と世界最高水準の評価を受けたセキュリティ設計を踏襲することで実現した「高いセキュリティとコンプライアンス」、コンピューティングリソースの「実使用量に応じた従量課金体系」の3 要素を兼ね備えることで、SAP ERP をはじめとするミッションクリティカルなシステムの安定稼働と低コストでの運用を支援します。CUVICmc2 の詳細については下記よりご覧いただけます。

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最後に

 クラウド移行においては、可用性やコスト、法令順守などの観点で、実務的な課題が生じる可能性がある。自社の要件に合致するクラウド事業者を見つけ、基幹系システムのクラウド移行を成功させたい。クラウド移行を検討したいのは山々だが、課題や悩みを抱えられている場合は、弊社の専門スタッフまでお気軽にご相談下さい。

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