SAP S/4HANAへの移行か乗り換えか|SAP 2027年問題の最適解を検証する

SAP S/4HANAへの移行か乗り換えか|SAP 2027年問題の最適解を検証する

 今、IT部門の悩みの種となっているのがSAP ERPのサポート終了、いわゆる2027年問題です。

 その対処に必要な時間を考えると、いつまでも決断を先延ばしにするわけにはいけません。

 今回は「そもそも移行すべきか、そうでないか」という疑問をお持ちの方のために、それぞれの選択肢について検証してみることにしましょう。

(本記事は、クレスコ・イー・ソリューション株式会社様にご寄稿いただいた記事です。)



▼ 目次
1. SAPを使い続けるか、別製品に乗り換えるか
2. SAP S/4HANAへの移行を選択すべき理由



1. SAPを使い続けるか、別製品に乗り換えるか

 SAP ERP のサポート終了は、だいぶ先のように思えますが、残された時間は決して長くありません。

 今から調査を始めたとして、検証や評価などにかなりの時間を要するため、経営層に上申してからゴーサインが出るまでそれなりの時間がかかってしまうと見た方がよいでしょう。既存の環境が複雑だったり、導入拠点数が多かったりすると、導入を終えるまでに数年かかる可能性すらあります。

 加えて予測されるのが、ノウハウを持つSAPベンダーの争奪戦です。国内2,000社以上といわれるSAP ERPユーザーの多くがいっせいに移行すると考えると、SAPベンダーの絶対的な不足が予想されます。

 では、2027年問題にどのように対処すればよいのでしょうか。対処方法としては、3つの選択肢が考えられます。

  • SAP以外のERPへ移行する、または自社でスクラッチ開発する
  • サポート終了後もSAP ERPを使い続ける
  • 2027年までにSAP S/4HANAに移行する


 これらの選択肢には、それぞれメリットとデメリットがあります。



表 1. システム切り替え方針のメリット・デメリット

SAP 2025年問題



 上記でご紹介した 3 つの選択肢について、さらに詳しく解説していきましょう。




1-1. SAP以外のERPへ移行する、または自社でスクラッチ開発する

 現在のSAP ERPの環境を放棄し、ゼロから作り直す方法です。既存の枠組にとらわれず、理想の業務運用に合わせてシステムを構築できます。今までの制約が一切なくなるため業務のやり方に合わせたシステムを構築することが可能です。SAP ERPの運用・保守費用から解放されることもメリットです。

 デメリットは、今まで5年、10年とかけて作ってきたシステムを捨てることになるため、これまで蓄積してきた資産やノウハウをすべて手放すこと。これまでできなかったことができるようになる可能性がある一方、逆もまたしかりです。またシステムの構築にあたっては、ゼロベースから構想を練り、要件定義を重ねていくことになりますので、結果的に工数が膨らんでしまい、SAP ERPの保守費用以上にコストがかかってしまう可能性もあります。さらには、切り替えによってユーザーは一から操作を覚え直す必要があるため、業務負荷が増大するリスクも存在します。切り替え直後は教育やサポートの面倒も見なくてはなりません。

 したがって、別製品やスクラッチ開発に切り替える際は、業務面やコスト面を慎重に検討する必要があります。




1-2. サポート終了後もSAP ERPを使い続ける

 2027年にサポートが終了するとはいえ、現在のバージョン(ECC 6.0)がまったく使えなくなるわけではありません。法改正が定期的に発生する会計や人事の業務には大きく影響が及ぶ可能性があるものの、それ以外の生産、販売、在庫、購買といった業務では、自社に蓄積されているノウハウを活用して保守を行い、そのまま使い続けることも不可能ではありません。


 ただし、パッケージベンダーの保守サポートがないので、バグやセキュリティーホールが見つかったときの保証もなく、使い続けるにはリスクを覚悟する必要があります。万が一の事件・事故が起こった際には企業へ甚大な被害が出る可能性も否定できません。また、現在の業務を変えることができなくなってしまうので、IoT、AI、RPAといった新しい技術を取り込むことも難しくなるでしょう。つまりビジネス上の自由が制限されてしまうわけです。

 このように、継続利用は苦肉の策としては考えられるものの、推奨はできません。





1-3. 2027年までにSAP S/4HANAに移行する

 現実的な最適解と考えられるのが、SAP社の ERPの第4世代であり、アーキテクチャーをゼロから見直して開発されたSAP S/4HANAへの移行です。



表 2. システム切り替え方針の評価における比較

SAP 2025年問題



 次にSAP S/4HANAを選択すべき理由を解説していきます。






2. SAP S/4HANAへの移行を選択すべき理由

SAP S/4HANAへの移行を選択すべき主な理由として、下記を挙げることができます。




2-1 使いやすさが大幅に向上

 SAP S/4HANAでは、従来のSAP GUIが継続される一方で、新しいユーザーインターフェース「SAP Fiori」が標準で実装されます。SAP Fioriとは、HTML5ベースで開発されたUIで、タイル状に配置されたメニューから目的のアプリケーションを選ぶだけで利用できます。

 従来のSAP GUIでは、いくつものタブをクリックして画面を切り替えなければ入力できない画面もあり、オペレーションでも多くの工数がかかっていました。また、操作方法もわかりづらいため、初めて使う人にはとっつきにくく、習熟度によって業務効率が左右されるという欠点もありました。
 その点、WebブラウザベースのUIを採用したSAP Fioriなら、Internet Explorerなどのインターネットブラウザを使ったことがある人なら誰でも容易に使うことができます。直感的に使えるため特別な教育は不要で、短時間で入力に慣れることができます。

 これなら教育にも余計な負荷は発生しません。


SAP 2025年問題

図 1. UI / UX における価値 (SAP Fiori 購買契約モニターの例)


 システム面ではアドオン工数を削減できるというメリットが大です。従来は、SAP GUIにおける標準レポートやトランザクション登録の機能の使い勝手が悪かったため、多くのお客様では、それを補うアドオンプログラムを作っていました。しかしSAP Fioriでは簡素化された使い勝手の優れた画面になるため、それらのアドオンを廃止でき、結果として改修や保守のコストの削減が見込めます。

 モバイルに対応しやすいこともSAP Fioriの特長です。タッチ操作にも対応し、タイル状のメニュー画面から使いたいアプリケーションを呼び出します。管理職であれば、モバイル端末から承認業務も可能なため、移動中や出張中でも迅速に対応でき、業務の停滞を招きません。経営層ならば、情報分析画面を見やすくカスタマイズし、経営コックピットのように利用しながら、気になる指標をドリルダウンで深掘りして分析することもできます。




2-2 意思決定サポートの革新

 SAP S/4HANAの最大の特徴は、データベースにインメモリーデータベースのSAP HANAを採用して複雑だったテーブル構造が非常にシンプルになった点です。SAP S/4 HANAでは、基幹系のトランザクション処理を実行するデータベースと、分析系の処理を実行するデータベースが1つに統合されています。これにより、トランザクションデータをそのまま分析したり、レポートを出力したりすることが可能になりました。

 従来のSAP ERPでは、単体では定型レポートを出力するのみで、見たい軸を指定して分析することができませんでした。それゆえ、凝ったレポートを見たり、軸を変えて分析したりしたいときは、データウェアハウスや分析ツールを用意する必要がありました。基幹系で発生したデータを、連携ツールを介して情報系データベースに夜間バッチなどで渡し、レポートを作成していました。しかしこれでは前日のデータをもとにした数値しか見ることができず、リアルタイムでの意思決定が不可能でした。

 一方、SAP S/4HANAでは基幹系と情報系のデータベースが統合されているため、1つのデータベースで基幹系のトランザクション処理と分析・レポーティングをリアルタイムに実行することが可能です。結果として、意思決定のスピードが格段に上がり、必要な施策を即座に実行できるようになりました。また、システム面でもトランザクションデータを分析系のデータベースに引き渡すためのインターフェース機能の開発が不要になり、開発保守に係る工数と費用の削減が見込まれます


SAP 2025年問題

図 2. SAP S/4HANAで発生したデータはリアルタイムで分析




2-2-1. 例えば・・・、SAP S/4HANA ならばリアルタイムに業績指標をチェックできる!!


 以下に会計領域の業務視点でみる SAP S/4HANA のメリットを解説します。

 従来のシステムでは、会計領域における決算処理において、従来は締めのタイミングで配賦や決算転記のバッチ処理を実施しており、処理が完了するまでは、詳しいデータを見ることができませんでした。

 しかし、SAP S/4HANAでは、日々のトランザクションデータから業績指標がリアルタイムで更新されるため、都度、最新の情報を確認することができるので、決算を待たずして各種の経営判断を下していくことが可能になります。決算期の情報開示までにかかる日数についても削減が見込まれます。


SAP 2025年問題

図 3. SAP S/4HANA ではリアルタイムに業務指標のチェックが可能に




2-3. パフォーマンスが格段に向上

 SAP S/4HANAは、インメモリーデータベースの採用と、各種アーキテクチャーの革新によってパフォーマンスの向上を期待できます。その結果、従来は夜間ジョブで回していた処理が、リアルタイムあるいは短時間に実行できるようになり、業務の効率化につながります。また、夜間バッチ処理の間はユーザーのログイン制限をしているケースも多いですが、処理時間の短縮化によりログインが不可になる時間が減る、あるいはゼロになります。SAP別製品とのAPI連携機能が充実するなど、メンテナンスのリソースを減らせるメリットもあります。



2-3-1. 例えば、、、SAP S/4HANA ならばリアルタイムに資材所要量計画を管理できる!!


 製造業において、製品の受注や在庫の状況、部品の入出庫データ、部品表の情報をもとに、手配すべき資材の量と時期を計算するのが資材所要量計画 (Material Requirements Planning = 以下、MRP) です。以下に、MRP 業務の視点でみる SAP S/4HANA のメリットを解説します。

 従来のシステムでは計算に膨大な時間とシステムリソースを要するため、休日のみ実施するなど回数を制限して使用することが大半でした。また設定作業も複雑なため、システムで算出される計画はあくまで参考値として、実際の計画はベテランの担当者に依存してシステム外で行うというケースも少なくありませんでした。

 しかし、パフォーマンスが格段に向上したSAP S/4HANA は、MRP計算にかかる時間と負荷が軽減できるため、MRPをリアルタイムに実行できるようになり、正しい所要量情報をもとにした資材調達、生産管理を実現できます。



SAP 2025年問題

図 4. 従来のシステムでは MRP をリアルタイムに管理できなかった


SAP 2025年問題
図 5. SAP S/4HANA では MRP をリアルタイムに管理できる






まとめ

 本記事では、SAP ERP サポート終了問題への対策である下記の 3 つの選択肢をご紹介し、其々のメリット、デメリットをご紹介しました。

  • SAP以外のERPへ移行する、または自社でスクラッチ開発する
  • サポート終了後もSAP ERPを使い続ける
  • 2027年までにSAP S/4HANAに移行する


 これらの選択肢のうち、「2027年までにSAP S/4HANAに移行する」が最もメリットが大きいということをご理解いただけたかと存じます。

 2027年問題まで残り数年。だいぶ先のように思えますが、SAP S/4HANA の導入を検討しているのであれば、早めに移行計画の検討を開始されることを強く推奨します。
 理由は、サポート終了期限が近付くにつれ、2,000 社以上にものぼる既存 SAP ユーザーの移行需要が高まります。この場合、SAP ベンダーの絶対的な不足は容易に想定でき、自社で計画した時期にベンダーから思うような対応を受けられなくなる恐れがあるためです。このような最悪な事態に陥ると、自社の順番を待っている間に SAP のサポート期限が終了してしまう可能性も考えられます。



 また本記事では、SAP S/4HANA にはビジネスの俊敏性を高める様々なメリットについて解説しました。

 2027年問題をピンチではなくビジネス変革のチャンスと捉え、SAP S/4HANAへの移行を積極的に検討してみてはいかがでしょうか。


 SAP S/4HANA への移行の検討を進めるにあたり「何から検討すべきか」、或いは「SAP S/4HANAに移行する前に検討すべきポイントとは何か」を把握しておくためには、下記より関連記事「SAP S/4HANA に移行する前に検討すべきポイントとは」をご覧いただくことを推奨します。必ず、チャンスを獲得するヒントを得られるはずです。



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