SAP S/4HANAへの移行を先行事例から学ぶ|スムーズな移行を支援するフレームワークとは

SAP S/4HANAへの移行を先行事例から学ぶ|スムーズな移行を支援するフレームワークとは

 2027年を見据えて、いよいよSAP ECC6.0からSAP S/4HANAへの移行ラッシュが本格化しており、情報系システムの見直しを検討している企業、もしくはこれから検討を開始する企業が増加している。

 SAP ECC6.0 を運用する企業は、先行者がSAP S/4HANA移行プロジェクトをどのように進めたのか知りたいはずだ。また、投資対効果(ROI)の高い「リアルタイム経営」を実現するために、SAP S/4HANA だけではなく、周辺システムも網羅した統合情報基盤を構築することが重要になってくる点も見逃せない。

 こうした背景を受けて、わずか20ヶ月でグループ会社81社への展開を完遂したJFEスチール株式会社の移行プロジェクトなど、2つの事例を通じて大事なポイントを紹介するセミナー「デジタル変革を見据えた経営基盤の構築事例セミナー ~ROIを高める次世代リアルタイム経営基盤とは~」が開催された。このセミナーに、SAPジャパン株式会社 プラットフォーム事業本部 特命の近藤 祥行氏が登壇し、「SAPが提供する、DB Migration Factoryとは? ~データベース基盤移行の進め方と事例のご紹介~」と題するセッションが実施され、データベース基盤を円滑に移行するために、SAPが提供するフレームワ-クについて、その概要を解説するとともに、既に移行したユーザー事例の紹介が行われた。

 以下にそのセッションの模様をリポートする。

制作協力:ヴイエムウェア株式会社



▼ 目次
1. SAP S/4HANAとERPは何が違うのか?
2. SAP S/4HANAへのシフトでビジネスを変革したグローバル企業の先行事例
3. SAP S/4HANA化を支援する数々のサービス




1. SAP S/4HANA と ERP は何が違うのか?

 SAP はメインフレームで動くERPとしてSAP R/1、R/2が1970年代に登場し、その後90年代にはクライアント/サーバ型、2000年代に入るとWeb対応やSOA(サービス指向アーキテクチャ)の採用など最新のITテクノロジーを取り入れながら進化を続けてきた。そして2011年にSAPは、システムの処理能力の劇的な向上をソフトウエア領域で実現するインメモリデータベースSAP HANAをリリース。さらに、デジタル時代の基幹システムとしてSAP HANAの能力を最大限に活かすため従前のERPを再構築したSAP S/4HANAを送り出したのである。

 SAP S/4HANAは、インメモリデータベースを活用することで性能が劇的に向上した結果、意思決定スピードの向上にも寄与するとともに、より高い処理能力をベースにプロセスの最適化を実現。さらに、機械学習と予測分析による業務の自動化・高度化など、技術革新により従来の業務を大幅に進化させる。


 これまでであれば、ERPの背後には業務処理系DBがあり、その情報をバッチジョブや人手対応により情報系DBに移してBIツール等で情報分析を行っていたため、タイムラグが発生するとともに、自由なデータ活用が阻害されていた。


 しかしながら SAP S/4HANAは、業務処理系と情報系のDBを一体化したうえで、ビジネスにおける業務処理と情報分析もまた包括的に行える環境を実現しているのである。これにより、リアルタイムな予測・分析による予知や気づき、洞察力を向上し、意思決定・問題解決のスピードを向上させる。


 「インメモリの技術を活用することでデータモデルを非常にシンプルにできるため、業務処理系と情報分析計をひとつの箱にいれて瞬時に分析することができる。まさに“シンプル”と“シングル”を組み合わせてリアルタイムを実現する──これにより皆さんの企業活動をより賢くする“THE INTELLIGENT ENTERPRISE”を実現するというのがSAP S/4HANAだ。誤解を恐れずに言えば、SAP S/4HANAを使い始めた瞬間から、AIや機械学習も利用できる環境が手に入るのである」と近藤氏は強調した。



SAP データベース基盤移行

図 1. SAPの変革と進化:進化するテクノロジーへの対応






2. SAP S/4HANAへのシフトでビジネスを変革したグローバル企業の先行事例

 SAP S/4HANAはどのような価値をもたらすのだろうか?

 その答えを示すべく近藤氏は、アメリカの加工食品メーカー、ドール社をはじめとした、SAP S/4HANAによって新しいビジネスを確立した事例をいくつか紹介した。



2-1. 事例①

 165年以上の歴史を持ち90カ国以上で事業を展開するドール社では、オンラインでの食品注文や消費者中心のマーケティングへと大きくシフトするなかで、ECCからSAP S/4HANAへの切り替えを実施。これにより、夜間バッチ処理時間を3倍高速化するとともに、入庫/請求書の受領分析にかかっていた時間を9分の1に短縮するなど、同社CFOは年間25万ドルのコスト削減効果を表明している。

 こうして同社では、SAP S/4HANAによりレポーティングを改善し、さらには事業全体の可視化までを実現しているのだった。


2-2. 事例②

 世界中の複数のECCを1つのSAP S/4HANAに統合することで、現場でのリアルタイムな意思決定を可能としたスイスの食品・飲料品メーカー、ネスレ社の事例を紹介した。


 以前より同社ではいくつかのリージョンごとにそれぞれ39TBという非常に巨大なデータボリュームのECCシステムを運用していた。しかし同社では分散したECCシステムを1つのSAP S/4HANAへと統合することで、わずか6TBにまでデータボリュームを縮小することに成功したのである。


 近藤氏は次のように語った。「ここまでの話だと単純にデータを縮小した事例に聞こえるかもしれないが、実はそれだけではない。複数のシステムを1つのSAP S/4HANAへと統合することで、リージョンごとに持っていたデータが一箇所に集約されることでデータの重複が排除され、重複排除が不要になるなど、IT部門側の作業コストを軽減したりなど様々な効果が得られている」


 またネスレ社では、SAP S/4HANAへの統合と合わせて、SAP S/4HANAと連携するDWHとしてのHANAも構築している。


「これは、ビジネスで発生したデータをすぐに分析してリアルタイムに現場が意思決定を行い、グローバルな競争力へとつなげることを目指している。ROIをいち早く享受するためには、SAP S/4HANA導入と同時にDWHとしてのSAP HANAを導入することを強く勧めます。」と近藤氏は説明した。





3. SAP S/4HANA化を支援する数々のサービス

 締めくくりとして近藤氏は、HANA化するための移行手順、方法が分からないという企業のために、SAPが用意している数々のマイグレーションプログラムやツールを紹介した。


 SAP S/4HANAへの移行方法としては大きく3つのパターンがある。そのうち最も多いのが、既存の単一のERPシステムからSAP S/4HANAへと移行するパターンである。

 その際に最もポイントになるのが、DBの文字コードをUNICODE化することだ。従来であれば、EHPをアップグレードした上でUNICODE化を行い、DBマイグレーションを行うという3つのステップが必要だった。しかしSAPが用意している「DMO of SUM」を使えば、ユニコード変換、アップグレード、DBマイグレーションのすべてを1つのステップで処理することが可能となるのだ。



SAP データベース基盤移行

図 2. SAP S/4HANA、SoHへの移行方法



 マイグレーションするには計画を立ててどういったスピード感で実施するか等をSAPパートナーなどと一緒に決め、進めていくのが重要になってくるが、その前にできることとして、既存システムに即してカスタムでレポートを作成するBusiness Scenario Recommendations (以下、BSR)をSAPでは無償で提供している。


 「まずはBSRを活用してみて、自社がSAP S/4HANAへと移行すると、どのような影響が生じるのか、またどれぐらいの改善効果が見込めるのかなどを把握したうえで、実際のマイグレーションを実施するのが良いのではないか」と近藤氏はコメントした。



SAP データベース基盤移行

図 3. BSR から生成された SAP S/4HANA 向けのビジネスシナリオの推奨事項



 そしてSAP S/4HANAへの移行プロジェクトが動き出した際に、世界中の70000人以上のSAPエキスパートが、プロジェクトリスクを最小化し、スケジュール通りかつシステムトラブルなく本稼働できるよう支援するSAP Value Assurance Service(VAS)も用意されている。


 さらに、情報分析基盤の統合、マイグレーションをSAPが支援する「SAP Database Migration Factory Program」についても近藤氏は言及した。




SAP データベース基盤移行

図 4. SAP Database Migration Factory Program プロセス概要



 ここでは、ORACLEやSQL Server、IBM DB2などの主要なDBに対応したマイグレーションツールが提供され、90%前後の自動化率という大幅なマイグレーションの自動化を実現している。


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図 5. SAP Database Migration Factory Program マイグレーションの自動化






さいごに

 SAP S/4HANA化するタイミングでクラウド移行を検討する企業のために近藤氏は、「基幹系システムに特化したクラウドサービス(IaaS)である伊藤忠テクノソリューションズ(以下、CTC)のCUVICmc2への移行が最適だと考えている」と語りセッションを締めくくった。

 CTC の「CUVICmc2」の詳細については、下記よりご覧いただけます。


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