事例に学ぶ!!クラウド移行の決断ポイントと効果を読み解く

 IaaSやPaaSと呼ばれるクラウド環境の市場は急激に成長している。特に、センサー技術を活用して自動制御や遠隔操作を行うIoT技術の発展がクラウド環境を活用したサービス拡大に寄与すると見られている。また、クラウドベンダーのサービス成熟化も見逃せない。ベンダー間の競争が激しくなる中で、各社が導入や運用を容易にする機能を提供するようになり、ユーザー企業としてはクラウド導入への敷居が下がってきている。では、実際にどのようなシーンでクラウド導入を行ってきたのだろうか。


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 基幹系システムやWebサービスをクラウドへ移行した企業は何を決め手として意思決定したのだろうか。事例からクラウド移行の決断ポイントと効果を読み解く。



1. 基幹系システムのクラウド移行を決断した事例

 基幹系システムをIaaSへ移行するのは大きな戦略的意思決定になる。これまでオンプレミス環境に合わせて検討してきたIT戦略、運用業務、開発プロセスなど、企業のあらゆる場面に変革が求められる。それでもIaaS化の先行企業はクラウド化にメリットを見出し、決断を行ってきた。この意思決定は、単なるコスト削減といった短期的なメリットだけではなく、海外展開や事業継続計画といった長期的な経営戦略からの視点からなされているケースが多い。コスト面を見る場合でも、単年ではなく、5年以上の長期的な運用コストを様々な視点で検証し、コストメリットがあると判断された場合にIaaS化への一歩を踏み出している。下記に基幹系システムをIaaS化する戦略的意思決定を行った4社の事例を紹介する。



1-1. 1週間で新規インフラ構築 (コンビニエンスストア・チェーンを展開するA社)

 A社の強みは海外店舗のネットワークだ。アジアを中心に積極展開した結果、2014年期末には海外店舗数が1万店舗以上に到達し、これは国内店舗数も約1万店舗を超えていた。店舗の新規開店には迅速なインフラ構築が欠かせない。受発注、在庫管理のバックヤード管理が全てシステム化されているからだ。そこでA社は仮想サーバ、仮想ストレージ、ネットワークを組み合わせたIaaS型サービスを採用した。

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 後日、担当者は高度な信頼性と柔軟な運用性がIaaS採用の決め手になったと語っている。実際、フィリピンの既存店舗での切り替えは一日で完了、新規店舗の出店に際してのインフラ準備は1週間でできるようになった。ビジネスの拡大・海外展開にIaaSが大きく貢献した例と言えるだろう。



1-2. 運用工数の3割削減を目指す (電子・電気機器の製造・販売を行うB社)

  B社はSAPによる基幹系システムの運用をオンプレミス環境で行っていた。オンプレミス環境であるため、サーバーの保守期限切れや各種バージョンアップにより、サーバーの再構築やプラットフォームのテストを強いられ、システム部門の運用負担が課題となっていた。そこで「標準化と効率化」を推進する手段として採用されたのが基幹系システムのクラウド化だ。国内のクラウド事業者を採用し、システム構築・運用保守を完全にアウトソースした。

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 ハードウェアに起因するトラブルの影響もなく、コストの平準化に寄与する成果を上げている。SAPシステムの本稼働後は運用工数の3割削減を見込み、7年でクラウド化の初期投資が回収できる計算となっている。サーバー更新や運用工数などを長期的な視点でとらえ、IaaSへと戦略的に移行した英断が光る。



1-3. 事業継続計画の実装 (理化学分析機器や検査消耗品の総合商社として日本全国に事業を展開するC社)

 理化学分析機器や検査消耗品の総合商社として日本全国に事業を展開するC社は事業継続に課題を抱えていた。2011年の震災では通信が停止し、営業所が計画停電に合うなど、大きな影響を受けたからだ。建物への物理的なダメージや長期的な停電などが今後訪れるリスクを考慮すると、IaaSの採用が最も効果的、かつ現実的な解であると判断された。

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データベースを中心にプライベートクラウドを利用し、同時にアプリケーションサーバーはクラウド環境で運用するハイブリッド型を用いて高いコストパフォーマンスを追求している。都市型のデータセンターであるため、緊急時には徒歩で到達できるという要件さえも満たしており、高いレベルでの事業継続計画が実装できたと言えるだろう。



1-4. 開発生産性が2倍にアップ (住宅・建設業を展開するD社)

 D社は“フルクラウド化”に踏み切った。会計・人事、工事予算・発注、社外向け、コールセンターなど、あらゆる情報基盤をIaaS上で運用している。住宅・賃貸住宅・リフォームなど事業の多角化を進める中で、運用負荷を軽減し、既存事業の強化や新規事業の素早い立ち上げを実現するのが狙いだった。

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 実際、新規事業のスモールスタートやIT予算の最適化はすぐにメリットとして認識された。さらに、これまで運用を担当していた人員を新規開発案件に回せるようになったため、年間での開発案件が400本弱から800本超にまで増加したという。基幹系システムのIaaS化が“攻め”の経営を可能にするのだ。


1-5. SAP S/4HANA の基盤としてパブリッククラウドを選択 (各種嗜好品をグローバルで提供するE社)

 チョコレートをはじめとした各種嗜好品をグローバルで提供し年間 76 億ドルの売上規模を誇るE社。ますます移り変わりが激しくなる消費者のニーズに対し、既存の基幹系システムでは十分に対応できないという課題を抱えていた。そのため同社は、商品の原材料について、何が、どこで生産されているのか、さらには倫理的に適切な状態で生産が行われているのか等について、透明性を担保した状態で把握することを目指したのである。

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 目標の実現のためにE社は、バッチで処理をしていた既存の顧客システムをはじめとする ERP を SAP S/4HANA へと刷新するとともに、世界中に広がる店舗、顧客までをサプライチェーンでつなぐために最適な環境として、パブリッククラウド基盤を選択した。

 

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2. WEBオンラインサービスのクラウド導入事例

 Webオンラインサービス企業はプログラムやデータが自社の製品そのものであるため、クラウド環境へ全てを委託するのに不安を覚えるかもしれない。しかし、クラウド環境の導入は、資源を戦略的に自社サービスに投入し、競争力を強化する効果がある。


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 企業戦略の肝は選択と集中。自社の得意領域に集中して資源を投入すると、他社と差別化でき、市場で独占的な地位を築けるようになるのだ。逆に言うと、差別化につながらないものは積極的にアウトソースし、時間や人的資源を無駄に費やさないようにした方が良い。今やサーバーやストレージといったコンピュータ資源は差別化にならないコモディティであるとの認識が広がっている。そのため、クラウド導入を通じて、コンピュータ環境に対するコスト・時間・人的資源を最適化する取り組みが、ひいては競争力の強化につながるのだ。特に、Webオンラインサービス企業では、この傾向が顕著になるだろう。Webオンラインサービス企業の競争力の源泉は、考え抜かれた顧客体験や、独自に分析して見つけ出した知見にある。インフラをクラウドベンダーに任せれば、新たなサービス開発も、急激な利用者の増減にも対応が容易になり、顧客との接点に力を注げるようになる。



2-1. 最少限の運用コストでサービスを提供 (モバイル向けニュースアプリのリーダー企業 F 社)

 F社は幅広いジャンルのニュースをスマートフォンに届けるキュレーションアプリを開発している。数百万人以上に上るユーザー数は業界トップクラスだ。スマートフォンへの情報配信はもちろん、話題のニュースや重要な情報を自然言語処理によって自動的に判断する人工知能技術をクラウド環境で運用している。

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 小規模な組織で多数のユーザーへのサービスを運用するにはクラウド環境が欠かせないものだったのだ。



2-2. 新規事業を俊敏に立ち上げる (3Dプリンタを用いた新規事業開発 G 社)

 G社は3Dプリンタ等に使用される三次元モデルデータを共有するための新規サービスを立ち上げた。新しい分野であるため需要予測が困難であるのに加え、最大100MBにもなるモデルデータが急激にアップロードされると、サーバーが負荷に耐えられない懸念があった。

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 G社はクラウド環境を導入し、インフラの柔軟性を担保しながら、スピード感を持って新規事業の立ち上げに成功した。



2-3. サービスのグローバル展開 (ソーシャル・ゲーム開発企業 H 社)

 オンラインゲームは需要が予測しにくいWebサービスの代表例と言えよう。普及前はほとんど利用がないものの、一度人気に火がつくと、想定を超えるほどのアクセスが要求される。ソーシャル・ゲームは利用者間のコミュニケーションがあるため、利用者の増加に対して指数関数的にサーバーへの負荷が増えてしまうのが特徴である。

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 H社は新作ゲームタイトルにクラウド環境を採用し、ゲーム開発そのものへ自社資源を振り向けるよう努めた。クラウド環境の柔軟性はグローバル展開への対応にも高い期待がかけられている。



2-4. サービスのグローバル展開 (ホテルや航空券のオンライン予約を行う旅行代理店サービスを世界24か国に展開している I 社)

 航空・鉄道・ホテルなどで使用されているコンピュータ予約システムを提供するI社は、現在、世界中の 65,000 の旅行業者、400 以上の航空会社、125,000 以上のホテルなどが利用している。年間取引高は 1250 億ドル相当となっており、1 時間当たりでホテルや航空券などの予約 7500 件を処理し、一日当たり 40000 万件のチケットを発行する。同社の予約システムの運用は 24 時間 365 日の対応が必須であるため、システムの変更やアップグレードは非常に難しい。

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 こうした厳しい制限の中で、柔軟なコストと高い可用性を実現できる唯一のパブリッククラウド基盤として選ばれたのが、エンタープライズクラス・クラウド市場において、各種メディアや外部調査会社から世界最高評価をされているクラウドソリューションプロバイダ Virtustream社であった




3. Virtustream 社の IaaS 技術をベースに開発されたエンタープライズ向けのIaaS

 事例2-4に挙げた Virtustream 社はSAPジャパン株式会社、伊藤忠テクノソリューションズ株式会社と共同して、基幹系システムの安定稼働に特化したエンタープライズ向けクラウド「CUVICmc2」を開発した。一般的なクラウドと、エンタープライズ向けのパブリッククラウドでは、求められる要件がかなり違う。ミッションクリティカルなシステムのクラウド運用となると、高い SLA をはじめ、各国の法規制への準拠や 24 時間 365 日の運要管理体制など、通常のアプリとは異なる要件が求められてくる。Virtustream 社、SAPジャパン株式会社、伊藤忠テクノソリューションズ株式会社の戦略的提携は、基幹系システムのクラウド利用という共通したビジョンのもと、あらゆる企業のクラウドファーストへの取り組みを支援するものでもある。

 CUVICmc2 の詳細は下記よりご覧いただけます。

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最後に

 基幹系システムのIaaS化を行った事例を見ると、ビジネスの視点とITの視点という複眼的な検討によって意思決定がなされたことが分かる。戦略・業務プロセス・組織・人材・基盤といった企業の各レベルでのメリットを検討した上で、IaaSへの移行を決定するのがベストプラクティスと言えるだろう。

 また、Webオンラインサービス企業の競争力の源泉は独自のアルゴリズムや優れたユーザー体験であるため、コモディティであるインフラ環境はクラウドベンダーに任せるのが得策だ。新規事業開発やグローバル展開などにメリットを感じた業界トップのWebオンラインサービス企業は既にクラウド環境を導入している。

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