マルチクラウド意識調査-第4回|国内上場企業の現状と変化をデータで明らかに

マルチクラウド意識調査-第4回|国内上場企業の現状と変化をデータで明らかに

 日本企業でも着々と進みつつあるIT基盤のクラウド化。近年はオンプレミスに加え、複数のパブリッククラウドを同時に活用する「マルチクラウド」も一般的になっています。

 それでは実際に国内上場企業では、マルチクラウド化はどの程度進んでおり、いかなる課題に直面しているのでしょうか。その実態を探るため伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(以下、CTC)は、2021年1月にインターネットによる「マルチクラウド意識調査」を実施。

 その主要な結果と、そこから得られる洞察・仮説について、マルチクラウド運用サービスの企画開発を担当するCTCクラウドサービス企画・開発部 主任の布施 鎮に解説してもらいました。


▼ 目次
過去3回と大きく変化しなかったマルチクラウド比率
事業部門主導で「結果的に」マルチクラウド化?
システム部門が最も重視しているのは「統制」
既存システム改修や人材不足も重要な課題
今後も継続的に調査を実施し実りある議論の土台に




1. 過去3回と大きく変化しなかったマルチクラウド比率

 CTCはこれまで、2019年6月、2020年2月、2020年8月に「マルチクラウド意識調査」を実施してきました。今回の調査はこれらに続く、第4回目となります。このような継続的な「定点調査」を行うことで、時系列比較による意識変化の把握が可能になると考えています。

 今回の調査のサンプル数は379名。対象者は東証・大証・名証・JASDAQ・マザーズなどの上場企業の情報システム部門管理職や主任、リーダー以上です。業種内訳は、IT関連が38%、製造業が36%、金融が16%、流通が10%。従業員数は、5,000名以上が55%、1,000~4,999名が30%、1,000名以下が15%となっています。なお調査対象は固定されておらず、これまでの4回全てで異なっています。

 それではマルチクラウド運用は、どの程度まで進んできたのでしょうか。これを過去のデータと共に示したのが以下のグラフです。

マルチクラウド意識調査
図 1. クラウド基盤(IaaSとPaaS)への取り組み状況




 マルチクラウド運用中が46%となっており、27%がハイブリッド運用中、27%がパブリッククラウド利用の検討中となっています。ここで興味深いのは、過去3回の調査結果と今回の調査結果に、大きな差異が見られないことです。



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CTCクラウドサービス企画・開発部 主任 布施 鎮




 「今回の調査を行う前の仮説としては、コロナ禍に伴うテレワークの拡大で、マルチクラウドが増えているのではないかと考えていました」と布施。そのためこの結果には驚かされたと言います。「実際に、調査会社の結果では、マルチクラウド運用する企業の割合は増えています。調査対象を上場企業に限定したことが、このような結果につながったのかも知れません」と述べた。





2. 事業部門主導で「結果的に」マルチクラウド化?

 それではなぜ上場企業では、この1年半で大きな変化が出てこなかったのでしょうか。これに関しては様々な見解が考えられますが、布施自身は改めて、いくつかの仮説を立てていると語ります。

 「まずマルチクラウド化の経緯として、情報システム部門主導ではなく、事業部門主導で進んできたのではないかと考えています。つまりマルチクラウド運用に至った企業の多くは、事業部門がクラウド活用をそれぞれ個別に行い、結果的にマルチクラウドになったのではないかということです」と言う。

 この仮説にもとづけば、マルチクラウド運用中とそれ以外の企業では、情報システム部門と事業部門の関係が大きく異なっているという、もう1つの仮説を立てることが可能です。マルチクラウド運用中の企業はIT活用に関する事業部門の裁量が大きく、それ以外の企業はその逆だということです。そして、事業部門の裁量が大きい企業におけるクラウド活用は2019年までにある程度まで(マルチクラウド化する程度にまで)進んでおり、それがこの安定的な比率につながったのではないかと考えられます。

 ここで興味深いのは、業種別、従業員数別で見た場合、マルチクラウド化の比率に有意な傾向が見られることです。

 まず業種別では、IT関連企業と金融でマルチクラウド運用中の比率が比較的高く、流通と製造業では比較的低くなっています。IT関連企業では事業部門自身が高いITリテラシーを持っており、自らクラウド活用を行いやすい土壌があります。また金融はFinTechを推進する必要があり、ここでも事業部門主導のクラウド活用が進みやすい条件が存在します。これに対して流通や製造業は、ITに関して本社の統制が強く、情報システム部門の関与抜きにクラウド化が進めにくいという状況があると考えられます。

 また従業員数別では、従業員が多い企業ほど、マルチクラウド運用中の比率が高くなっています。これも従業員が多い大企業ほど、事業部門が多くその独立性が高くなりやすいため、事業部門主導のクラウド活用が進みやすいのではないかと推察できます。

 なお利用されているクラウドサービスとしては、アマゾン ウェブ サービス(AWS)とMicrosoft Azureが突出しています。それぞれ回答の割合が63%、62%となっており、3位以下を3倍以上引き離しています。実はこの傾向も、この4回の調査で大きく変化していません。

 少し強引かも知れませんがこの数字も、マルチクラウド化が「クラウドサービスを適材適所で使い分ける」という観点で計画的に行われた結果ではなく、「とりあえずは著名で情報が入手しやすいクラウドサービスを使おう」とした結果ではないかと考えることができそうです。





3. システム部門が最も重視しているのは「統制」

 前述のように布施は「上場企業のマルチクラウド化は事業部門主導で進んだのではないか」という仮説を立てていますが、今回の調査ではこれを裏付ける、もう1つのデータが存在します。それは「マルチクラウドで運用した場合に求められる機能は?」に対する回答です。12個の選択肢から複数回答してもらった結果、トップ3には「セキュリティおよびID管理」「ガバナンスとポリシー管理」「コストの可視化と最適化」といった、統制関連の項目が並んだのです。


マルチクラウド意識調査
図 2. マルチクラウド運用に求められる機能




 「調査開始前は、クラウドがもたらすメリットであるプロビジョニングや自動化、オーケストレーションあたりが上位に来るのではないかと考えていました」と布施。この予測も裏切られる結果になったと語っています。「結局のところクラウドでも、情報システム部門が重要視する項目は、オンプレミスとそれほど大きく変わっていないという印象です」と言う。

 その一方で「マルチクラウド運用でまだ課題があると思われる機能」への回答でも、トップ3は「セキュリティおよびID管理」「ガバナンスとポリシー管理」「コストの可視化と最適化」が並ぶ結果になりました。つまり情報システム部門はマルチクラウド運用において、統制こそが最も重要だという意識を持っていることがわかります。

 マルチクラウド運用に関し、情報システム部門が統制に関する高い課題意識を持っているということは、裏返してみれば「十分な統制が行えていない」という問題に直面していることを示唆しています。つまりこの設問群への回答も「事業部門主導で結果的にマルチクラウド化した」という状況を、裏付けるものだと言えるのではないでしょうか。なおこれらの設問への回答も、過去3回と比較して大きな変化はありませんでした。





4. 既存システム改修や人材不足も重要な課題

 最後に、「クラウド活用に関する社内他部署からの相談において、情報システム部門としての課題で優先度の高いものは」という設問に対しても、トップは「セキュリティやガバナンスのルールの徹底ができない」となりました。これに「既存システムの改修を求められる」「クラウド人材不足」が続いています。ここでも事業部門主導のクラウド利用に対し、情報システム部門が危機感を抱いていることが感じ取れます。

 「実際に、事業部門が勝手にクラウドを進めて、もう後戻りできなくなってから既存の統合監視システムから監視して欲しいと言われて困ったとか、既存のオンプレミスのディレクトリサービスや認証システムと連携したいと言われて困っている、といったお話などもお聞きします。またクラウド人材の人数が不足しており、スキルも十分ではないということで、クラウド化に対して質・量共に足りないと感じている情報システム部門も多いようです」と布施は述べた。

 それでは今後、マルチクラウド化はどのように進んでいくのでしょうか。そしてその中で、情報システム部門はどのようなポジションを確立すべきなのでしょうか。布施は次のように語ります。

 「1つの仮説としては、セキュリティやガバナンスの課題を解決できれば、クラウド活用は自動化やオーケストレーション実現のフェーズに入り、ここでマルチクラウド化がさらに進む可能性があります。日本企業のクラウド活用は、今はまだ個別最適の段階に見えますが、オーケストレーションにフォーカスが移れば、これも全体最適へと向かうことになるでしょう。そのためには情報システム部門が、これまで以上にしっかりと事業部門と手を組み、クラウド化を支える役割を担っていくべきです。また情報システム部門内の意識変革も必要になるでしょう。企業システムの守護役としてガチガチに固めるのではなく、事業部門のパートナーとして、より柔軟な発想や対応が求められるようになるはずです」と推察した。





5. 今後も継続的に調査を実施し実りある議論の土台に

 なおここで述べた推察はあくまでも仮説に過ぎず、裏付け調査を行った結果ではありません。しかし調査結果にもとづいてこのような仮説を立てて考えることは、今後の動向予測や情報システム部門のあるべき姿を考える上で、1つの手がかりとなるはずです。

 CTCでは今後も「マルチクラウド意識調査」を継続的に実施し、定点観測を続けていく予定です。過去のデータを蓄積し、そこから大きな傾向を見出すことで、実りある議論を行いやすくなると考えているからです。

 調査結果の詳細は、以下URLよりダウンロード可能です。今回の意識調査の調査概要は以下の通りです。

  • 調査目的:
    • 2019年6月、2020年2月、2020年8月に続く第4回目の定点調査、時系列比較
    • 上場企業における 「クラウド環境」 への取組み状況を確認する
    • クラウドへの移行対象、問題点、懸念点を把握する
  • 調査内容:
    • クラウド基盤(IaaSとPaaS)への取り組み状況への取り組み状況(単一回答)
    • 現在利用を検討しているクラウド基盤(複数回答)
    • クラウド基盤への移行対象となるシステム(3つまで)
    • マルチクラウド運用の場合に求められる優先度の高い機能(3つまで)
    • 「使用するにはまだ課題がある」と思われる項目(単一回答)
    • クラウド利用を阻害する要因(複数回答)
    • 社内他部署からのクラウド基盤の利用に関する相談における、情報システム部門の課題で優先度の高いもの(3つまで)
  • 調査対象者
    • サンプル数
      • 379名
    • 対象者
      • 上場企業にお勤めになっている、情報システム部門(およびそのシステム選定に関与する)の管理職・主任・リーダー以上が対象
  • 調査元
    • 実施
      • 伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
    • 調査方法
      • パネルを利用したインターネット調査
    • 調査実施日
      • 2021年1月28日(木)~1月31日(日)



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