ハイブリッドクラウド時代におけるデータセンターの新たな役割

ハイブリッドクラウド時代におけるデータセンターの新たな役割

 データセンターという言葉を聞いて、多くの方はサーバーリソースを設置してネットワークを配線する場所と考えるのではないでしょうか。従来からのオーソドックスな解釈としては間違いではありません。

 しかし、今後はオンプレミスと複数のクラウドが混在するハイブリッドクラウド時代が到来します。ハイブリッドクラウド環境における運用には、セキュリティリスク、ネットワークの複雑化、リソース配分の不均衡等の課題が生じます。こうした課題に対して、データセンターの捉え方が変わってきています。

 そこで、伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 (以下、CTC) が考えるハイブリッドクラウド時代におけるデータセンターの新たな役割と今後の取り組みをお伝えします。


1. デジタルトランスフォーメーションに求められる「攻めのIT」と「守りのIT」とは

 昨今、デジタルトランスフォーメーションを目指したキーワードが溢れています。デジタル技術の進展により、BigDataやFintechにIoTやAI、そしてVRなどのテクノロジーが数多く登場しています。こうしたデジタル技術の進展は、AIスピーカーやBitcoinなど新しいビジネスを生み出す原動力となっています。

 こうしたデジタル技術の進展を支えるITの部分を改めてみてみると、2つのITがあります。

1-1. 「攻めのIT」

 ガートナーのMode2やIDCの3rd Platformに、イノベーションを創出するSystems of Engagement(SoE)などに代表される「攻めのIT」は、クラウドを指しています。「攻めのIT」は、ユーザと企業のつながりが重視され、ビジネス創出を支えるシステムです。

1-2. 「守りのIT」

 ガートナーのMode 1や、IDCの2nd Platformに、記録のためのシステムとしてのSystems of Record(SoR)などになります。これは、オンプレミスのシステムで、安定・品質が重視され、重要なデータを保管するシステムです。

 この2つのITは、それぞれのITが独立しているのではなく連携することにより、新たなビジネス価値を創出します。「2つのIT間のデータ連携」がキーワードであり、このデータ連携の起点として、データセンターの存在が大きく関係してくるのです。本題に入る前に、2つのIT間でデータが連携する具体的なイメージを参考情報として紹介しましょう。


2. ファッション通販サイトの例に見る新ビジネスと2つのITのデータ連携

 ファッション通販サイトが提供している体型計測スーツをご存知でしょうか。このスーツは、アプリをダウンロードして依頼すると、何か月か待ちでドット模様のスーツが届きます。そして、これを360°で写真をとると、体型がわかるというスーツです。

 この体型計測スーツを例に、データの流れを見てみましょう。


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図 1. 体型計測スーツ・サービスにおけるデータの流れ



 まず、スーツを着てアプリの計測を始めるというボタンを押すと、センサーの計測結果がユーザのスマートフォンに表示され、体型にマッチする洋服をデザインすることができます。洋服を選択しつづけてスマートフォンで改めて注文、計測データを流します。一連のプロセスは典型的な攻めのITの事例とも言えます。スマートフォンのアプリを起点に送信される注文情報は、ECサイトを介して守りのITである基幹系システムを通っていきます。計測データと注文情報は共に基幹系システムの契約・在庫管理システムにて扱われます。倉庫に商品から体形データに合う洋服を選別して、消費者に届く仕組みになっています。

 このように、攻めのITと守りのIT間のデータ連携は新しいビジネスを提供するために重要な役割を果たしていることがわかります。

 攻めのITはクラウド上、守りのITはオンプレミス上で稼働しており、双方でのデータ連携が必要だとわかります。そして、2つのITの間でデータを連携するための技術のひとつが、ハイブリッドクラウド時代におけるデータ流通基盤です。


3. ハイブリッドクラウド時代のデータ流通基盤を目指すデータセンター

 ハイブリッドクラウド時代のデータ流通基盤を、CTCのデータセンターに置き換えて考えてみましょう。

 ちなみにCTCのデータセンターは全国に5拠点で7つの施設が運営されています。約30年の運営実績があり、お客様の数は大小含めて約400社以上に及びます。

 CTCのデータセンターはハブとして、これまでの守りのITの時代から、各キャリア回線をつないで、モバイル網を活用するデータの流れを支えてきました。また、CTCのデータセンターにはTechnoCUVICやCUVICmc2などオリジナルのクラウド基盤もあり、データセンター内に設置されたオンプレミス環境との連携も容易にできます。

 そして、今後、攻めのITを考えると、パブリッククラウドとの連携は必至となります。今後、マルチクラウドへの連携を推進していくために、すでに対応してきたアマゾン ウェブ サービスに加えて、Microsoft Azureとの接続も可能になり、Google Cloud Platform(GCP)との接続も進めています。
 このように、CTCのデータセンターは、オンプレミスやクラウドを問わずさまざまな形態のプラットフォームへの接続を集約することができるハブとして位置付けられるのです。



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図 2. データ流通基盤としてのデータセンターの接続イメージ


4. データ流通の正確性を目指す取り組み

 CTCではデータセンターを、守りと攻めのIT双方のデータを集約することができるハブとして捉えています。今後はハイブリッドクラウド環境に最適化するために機能拡張を計画しています。その一つが「データ流通の正確性の見える化」です。

 例えば、データ流通では、オンプレミス環境とパブリッククラウドとの間で膨大な通信が発生します。そこで、パブリッククラウドから拠点までの通信経路が正しいかという「データ流通の正確性」を把握する必要性があります。


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図 3. データ流通の正確性の把握を可能とする次世代データセンター


 データ流通の正確性の把握には、OSレベルにセンサーを入れセンサーデータを取得します。例えば、ネットワークレイヤーでの把握は、TCP/IPのヘッダ情報をすべてもれなく収集します。また、OSレイヤーでの把握では、OSに付随したプロセスの状況やアプリを可視化します。

 データ流通の正確な把握により、まずOSレイヤーの把握では「アプリケーション間の依存関係を可視化」できます。また、ネットワークレイヤーの把握では「センサー間の全通信の可視化と記録」が可能になります。その結果、守りのITにおいては、不正な通信の発見やセキュリティインシデントの履歴調査などのフォレンジックに活用できます。攻めのITでは、システム移行の迅速化や、実データに基づくキャパシティのプランニングなどに利用できます。コストの最適化に効いてくると考えています。

これらはデータ流通のハブとなるデータセンターだからこそ実現できる機能であり、今後ハイブリッドクラウドが浸透した時代に求められるデータセンターの選定要件となるでしょう。

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図 4. データ流通の正確性を把握することのメリット

5. 展望

 CTCでは、データを正確に把握する仕組みを自社のデータセンターに導入するよう検討を進めています。今後の予定では、2018年8月からデータセンターへの導入とPoC(検証作業)をすすめ、サービス化検討を行い、2019年4月以降のリリースを計画しています。


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図 5. 変わるデータセンターの役割

 データセンターはビジネス創出のため、データを流通する拠点としての役割が求められています。

 CTCのデータセンターは、ITインフラが設置される堅牢なファシリティとしての役割だけではなく、その役割を押し上げていくことで、データ流通の基盤として、それぞれのレイヤー間で分断されていたデータのやり取りを可視化したいと考えています。 それが今後データセンターに求めたい機能・役割となるのではないでしょうか。

 CTCはお客様の業務パフォーマンスを最適化するために、こういった進化を追い求めていきます。



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