マルチクラウド・ハイブリッドクラウド環境を 「統制、繋ぐ、防ぐ、保つ」ための検討事項

マルチクラウド・ハイブリッドクラウド環境を 「統制、繋ぐ、防ぐ、保つ」ための検討事項

 今後のIT基盤は、用途に応じてマルチクラウドとハイブリッドクラウドの使い分けを求められる。

 市場調査の結果からも、オンプレミスとクラウドが混在する「マルチクラウド・ハイブリッドクラウド」が、将来の姿として浮き彫りになっている。

 こうした環境における重要な検討事項として下記を挙げられる。

  • クラウド環境を、どのように統制するか(ガバナンス)
  • クラウド環境を、どのように繋ぐか(ネットワーク)
  • クラウド環境を、どのように防ぐか(セキュリティ)
  • クラウド環境を、どのように保つか(維持管理)


 そこで、今後のビジネスを支える次世代IT基盤を検討している方に向け、伊藤忠テクノソリューションズ(以下、CTC)クラウドインテグレーション部 部長の不破治信氏がIT基盤の強化・最適化を進めるにあたっての課題を整理するとともに、ガバナンス、ネットワーク、セキュリティ、維持管理の重要な検討事項について提言する。



▼ 目次
市場調査から見えてきた多様化するIT基盤の現状と課題
IT基盤の意識調査結果の考察
クラウド時代における、システム部門の今後の課題
マルチクラウド、ハイブリッドクラウドありきのIT基盤において考えるべきこと




1. 市場調査から見えてきた多様化するIT基盤の現状と課題

 CTCは、2020年からIT基盤に関する意識調査を定期的に実施してきた。





1-1. IT基盤におけるクラウドの活用度合

 IT基盤におけるオンプレミス/クラウドの活用パターンを6つに分類し、それぞれに「社外向け・社内向けシステムにおけるIT基盤の活用パターン」について質問した。

 社外、社内システムとは次の通りに定義した。

  • 社外向けシステム
    • 市場や顧客とのビジネス拡大を目的とした情報システム
  • 社内向けシステム
    • 社内業務の効率化や省力化を目的とした情報システム



 調査結果を図1に示す。

 すべてがクラウドになるというのは、現状でも10%未満で、3年後や理想形でも、20%前後となった。



マルチクラウド・ハイブリッドクラウド環境を 「統制、繋ぐ、防ぐ、保つ」ための検討事項
図 1. IT基盤におけるクラウドの活用度合




 調査結果より、下記が読みとれる。

  • クラウドファーストの流れは強い
  • 3年後・理想形としては、よりクラウドの利用は高まる
  • 企業システムの全てをクラウドで実装している企業は現時点でも、理想形でも限られている
  • 多くの企業はクラウドとオンプレミスを使い分けるハイブリッドクラウドを目指している




1-2. 今後5年間で、積極的に採用を進めたいクラウド配備モデルは?

 クラウド配備モデルは、設置場所・利用リソース・調達形態・資産所有者の観点から、下記の5つに分類される。

  • 従来型IT(オンプレ / ホスティング等)
  • エンタープライズ・プライベート・クラウド(EPC)
  • ローカルクラウド(Local Cloud as a Service)
  • ホステッド・プライベート・クラウド(HPC)
  • パブリック・クラウド・サービス(Public Cloud)


 これらの分類に対して「今後5年間で、積極的に採用を進めたいクラウド配備モデル」について調査した。

 調査結果を図2に示す。


マルチクラウド・ハイブリッドクラウド環境を 「統制、繋ぐ、防ぐ、保つ」ための検討事項
図 2. 今後5年間で、積極的に採用を進めたいクラウド配備モデル




 調査結果より、下記が読み取れる。

  • 結果として、現状で20%がパブリッククラウドで、今後5年間でも30%弱にとどまっている
  • クラウドという利用形態も、多岐にわたっている
  • HPC(ホステッド・プライベート・クラウド)が、30%ともっとも多い割合になっている






2. IT基盤の意識調査結果の考察

 前述したIT基盤における意識調査の結果より、下記を考察した。

  • 現時点では、すべてのモデルが同程度の割合で利用されている
  • 調達/形態は、製品購入+保守契約(=ユーザ資産)が減少し、サービス利用型へシフトする
  • 今後5年間でとらえたとしても、クラウド配備モデルは全てがパブリッククラウドにはならない
    • いくつかのクラウド配備モデルを使い分けていくなかでもHPC(ホステッド・プライベート・クラウド)の比率が、現時点では最も大きい


 これらの調査結果を受けて、不破氏は「現時点では、多くの企業はオンプレミスとクラウドを組み合わせて利用中だ。しかし、最適化を完了した企業は少なく、サービス利用型へシフト中にある。一方で、全てがクラウドではなく、オンプレミスとの組み合わせが理想形となっている企業がある。つまり、クラウド化できないシステムがある」と指摘する。

 結論として、IT基盤は、オンプレミスとクラウドの選択肢を用途ごとで使い分け『マルチクラウド・ハイブリッドクラウド』となる。

 そのため、クラウドにおいても様々なクラウド配備モデルを使い分けていくことになる。


 さらに不破氏は「パブリッククラウドにおける大規模な不具合事象のニュースもある。クラウドそのものの特長や特性を理解した上で、その対策をなしたうえで、どのクラウド配備モデルを使っていくのか、今も将来も重要になる」と整理する。

 クラウドファーストの先まで支えるマルチクラウド・ハイブリッドクラウド環境には、多くの課題が横たわっている。





3. クラウド時代における、システム部門の今後の課題

 システム部門にとっての、今後の主な課題は以下である。

  • クラウド以前の環境とは異なり、SaaS・IaaSの利用、プラットフォーム領域においてもパブリッククラウド・プライベートクラウドの利用など、入り乱れた環境での運営・運用が現在も将来も続く
    • 複数の環境があるため二重三重のシステム運営・運用が求められる厳しい状況となる
  • クラウド化の起点としては、新規にシステムを構築する、または、システム更改時期となるが、多くのシステムが既存システムとして存在する中で、そのときに該当となる対象システムのクラウド適用にのみ焦点が行きがち
    • クラウドジャーニーが描けない状況:場当たり的なクラウド化
  • クラウド化を実施する際に、周辺システムや、その後にクラウド化を進めていくことになる後続のシステムとの影響や運用への考慮が不足がちで、ネットワーク/セキュリティ/維持運用などが個別対応となっている(全体最適ができていない)
    • 個別運用による運用負荷が増加


 こうした課題を踏まえて、不破氏は「混在化が高まるマルチクラウド・ハイブリッドクラウド環境に対して、クラウド化対象が発生する都度の対応ではなく、全体を見据えた対応が求められる」と提唱する。





4. マルチクラウド、ハイブリッドクラウドありきのIT基盤において考えるべきこと

 調査結果を踏まえ、不破氏は「IT基盤への期待は、『最適化されたIT基盤』から『継続的に最適化されるIT基盤』に変化した」と結論づける。

 その結論に至る背景には、ビジネスのITへの期待がある。

 ITにおけるビジネスの成長と生産性の改善の多くは、アプリケーションで実現されてきた。

 そのアプリケーションの実行を支えるIT基盤には、クラウドの登場前と後で、期待への変化が起きている。

 クラウドが登場する以前のIT基盤は「アプリケーション実行の手法や選択肢が限定的であったため、最適な環境はある程度固定化されていた」と不破氏は整理する。

 しかし、クラウド登場以降は、アプリケーションの実行に多様な手法と多様な選択肢が常に新しく生み出される状況に変化した。

 その結果、「固定化された環境が不在となり、常に最適化が可能かつ要求されるようになった」不破氏は指摘する。

 こうした背景から、『最適化されたIT基盤』から『継続的に最適化されるIT基盤』への変化が求められている。


マルチクラウド・ハイブリッドクラウド環境を 「統制、繋ぐ、防ぐ、保つ」ための検討事項
図 3. IT基盤への期待と変化




 さらに、不破氏は「マルチクラウド・ハイブリッドクラウドにおけるIT基盤で考えるべきこととして、以下のようなテーマがある」と提唱する。



4-1. クラウド環境を、どのように統制するか(ガバナンス)

 IT基盤領域に対して、複数のクラウドや各種サービスを活用するようになると、ガバナンスにおける課題が生じてくる。

 例えば、ビジネス部門においては、クラウド領域に対する利用の把握と管理の仕組みが必要になる。

 また、複数の環境を利活用していくためには、使い分けるための仕組みやコントロールが求められる。

 そして、IT基盤領域においては、複数のクラウドや各種サービスごとに用意されている仕様や制約を意識した上で活用していかなければならない。

 この他にも、不破氏は「シャドーITや部門によるガバナンスの低下なども考慮しなければならない」と補足する。



マルチクラウド・ハイブリッドクラウド環境を 「統制、繋ぐ、防ぐ、保つ」ための検討事項
図 4. IT部門のインテグレーションとマネジメント




 そして、ガバナンスとマネジメントの関係について、下図のとおりに表す。


マルチクラウド・ハイブリッドクラウド環境を 「統制、繋ぐ、防ぐ、保つ」ための検討事項
図 5. ガバナンスとマネジメント関係性




 不破氏は「計画からモニタリングまで、一連のマネジメントに対してガバナンスが必要になってくる」と指摘し「各領域やサービスには、仕様や制約があり、規定とルールがある。

 それらに対して、全体の方向付けを行い、それを常にモニタリングして、結果を評価するというガバナンスの仕組みが求められる」と提唱する。

 ガバナンスは、運用管理の肝となり、規定をモニタし結果を評価して改善する流れが必要になる。




4-2. クラウド環境を、どのように繋ぐか(ネットワーク)

 クラウドの利活用が高まる上で、必ず発生する課題がある。

 クラウド向けへのトラフィックが増加することにより、パブリッククラウド、プライベートクラウド、SaaS、アプリの通信遅延だ。

 クラウド環境を繋ぐネットワークを考える上では、クラウド通信の増加が招くネットワークの課題に対する解決策を考えておかなくてはならない。

 具体的な解決策については、以下をご覧いただきたい。



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4-3. クラウド環境を、どのように防ぐか(セキュリティ)

 堅牢なクラウドセキュリティを実現する上で、下記のソリューションに注目が集まっている。

  • CWPP(Cloud Workload Protection Platform)
    • クラウドのワークロードをその種類や場所を問わずに保護する
  • CIEM(Cloud Infrastructure Entitlements Management)
    • アイデンティティとアクセスのガバナンス制御する
  • SDP(Software Defined Perimeter)
    • 集中的なアクセス制御を「ソフトウェア」で実現することで、物理的な境界では防ぎきれない脅威の防御を可能にする
  • ZTNA(Zero Trust Network Access)
    • 企業のアクセス制御ポリシーに基づいて、アプリケーション、データ、サービスへのセキュアなアクセスを提供する


 クラウド(IaaS)環境を防ぐセキュリティを考える上では、上記をはじめとするクラウドをセキュアに利用するためのソリューションを把握しておく必要がある。

 クラウドセキュリティの課題から解決策、具体的な実現方法などについては、以下をご覧いただきたい。



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4-4. クラウド環境を、どのように保つか(維持管理)

 マルチクラウドやハイブリッドクラウドを維持管理していく上では、下記をはじめとする幾つかの課題がある。

  • クラウド基盤ごとの運用管理
  • 複数のクラウド基盤の総合化
  • 運用を担うSEの育成

 これらの課題を解決するには、どのように考えれば良いのだろうか。

 
それぞれの課題に対する解については、以下をご欄いただきたい。


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さいごに

 不破氏は「市場調査の結果から、クラウド化は確実に増加している。しかし、すべてがクラウドにはならない。現在から将来に至るまで、IT基盤はオンプレミス・クラウドを組み合わせた『マルチクラウド・ハイブリッドクラウド』の姿となる。そのため、アプリケーションの実行を支えるIT基盤への期待は『最適化されたIT基盤』から『継続的に最適化されるIT基盤』に変化している」と整理し「IT基盤を支えていくネットワークやセキュリティに維持管理に加えて、ガバナンスという制度も重要になる」と提唱した。

 最後に不破氏は「CTCでは、これらの課題に対して、様々なソリューションとサービスで対応していくので、ご相談いただければ幸いだ。」と締めくくった。



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著者プロフィール

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不破治信
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社在籍中 | 1. 現在の担当業務 : クラウド/DC/マネージドサービス全般のプリセールス・導入・プロジェクトマネジメントを担当(クラウドインテグレーション部・部長) | 2. これまでの担当業務 : クラウドのプリセールス・導入